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    gnsn/ゼン空/SS
    ※メンストの幕間的な捏造

    他ジャンル且つ、過去作品なのですが、勿体ない精神で。





     砂漠で昼夜の温度差が大きな原因は太陽の光を遮るものが何もない事が挙げられる。常に露出する地面は太陽が強く地面を熱して暑くなる一方、逃げていく熱を遮るものが何もないから気温が下がってしまう。水分がなく乾燥している事も一因である。――これは誰もが知る常識であり、学問に遠い人間でもアーカーシャから得られる知識だ。
     幕間で文字の海から顔を上げると、満天の星々が小さなオアシスの水面で瞬いている。手元に置いていた水筒で僅かに乾いた口を湿らせて本を閉じた。鞄に仕舞う前に砂粒を払い落そうとして、無意識にまた開く。
     第三章・タイトル――視線が追う前に頭の中に文字が浮かび上がる。何度も読んだこの一冊は当の昔に内容を暗記しているが、視点をたった少し変えただけで絶対的に是としていたものが非となり、話が根本的に変わる。これは規則により定められたものだと記憶し疑う事をしなかったが故に気付けず、今の状況になったからこそ得られた新たな知識である。
     呼吸を繰り返す度に白む息が火花と共に舞い上がり消えていく。シティの景色とはかけ離れた砂の都は、知っている事と実際に体験する事の違いをまざまざと見せつけて、この様な常識ですら“知らないのか”と嘲笑う様に砂嵐が吹雪いてテントを揺らす。
     僅かに離れた場所には疲れ果てて眠る幼子二人を甲斐甲斐しく世話していた女が遠く空を見つめていた。更にその奥には深く考え込む少年の姿が見えた。徐々に暴かれていく真実に辿り着いたとき、二人はその答えに対し、何を想い、感じるのだろうか。己には関係のない話ではあるが、少しばかり興味もある。
     道を逸れた集中力が再び歩み始めようとしたその時、不意に肩への重みを感じて視線を向け――旅人が瞼を閉じて、小さく寝息を立てていた。
     食事を済ませた後こちらの傍に座り込んで同じように本を読み始めたのを視界の端で捉えはしていたが、話し掛ける素振りもなかった為そのままにしておいた。視覚的にもまだ年若い少年だが、何も言えない幼子ではないのだから必要であれば声をかけるだろう。現に興味があると言い、それならばと貸した一冊の本を――彼の傍を浮遊する少女にも勧めたが露骨に嫌がっていた――時折眉を顰めては懸命に文字を追いかけ、躓いたら意味を聞き、そうしてまた読み進めていた。
     授業とは言い難い淡々とした会話が数回続いたあと、静かになったと思えばこの状況である。
     揺れる体が支えを見失い、大地の引力に導かれるまま己の外套を巻き込んで伏せた。柔らかな砂が幾分か衝撃を抑えたとしても、それでも覚める気配がなく昏々と眠っている白い顔が、無機質な人形に見えて口元に指を当てる。呼吸をしている事に安堵して――何故と、不意に疑問が浮かび上がった。
     己の目的を果たす為に彼は居なくてはならない存在だからだろうか。
     彼がこの地に足を踏み入れなければ、この国、ひいては自分はどうなっていたのだろうか。
     浮かんでは消えゆく思想はどれも知らないもので、芽吹く若葉が青々と広がっていく。
    「旅人」
     声を掛けようとした姿に、それを静止させる。視線を互いに旅人へ向けて、嗚呼と納得した表情を見せた彼女の視線は穏やかで、宛ら遠くで駆け回る子狐の様子を覗きにやって来た親の様であった。
     言動や立ち振る舞いでそう見えずとも、警戒心も持たず体を丸めて眠る姿は年相応というよりはそれ以上に若く見える。瞼に掛かる髪はこの世界でも珍しい金色で、炎が燈り一層と輝いて映えていた。指の隙間を流れる前髪は想像よりも柔らかで、書物で見たモンドの地に生息する蒲公英を思い描いた。
     手放す気はないだろう、布団にされた己の外套を脱いで彼にかける。露出した腕が冷えた空気に晒されて体温が少しばかり下がる。見越してか、差し出されたアルコールは普段手を付ける事がないが――飲酒という行為に良い印象はない――体温上昇効果を期待して、少しばかり口に含んだ。
    「こっちで引き受けようか?」
     ここは見晴らしの良い安地だがいつ危険が襲い掛かるかも分からない。そして、指定された目的地に辿り着くにはあと数時間で出発の準備をしなければならない。その状態で彼女は見張りを買って出て、且つ子守りまでしているとなれば体を休める暇もない筈だ。
     旅人は起きる気配もなく、起きていたとしてもこちらの邪魔をすることはない。そうであれば無下に追い出す理由もない。万が一の事態が発生しても一人ぐらいであれば対処する事も訳無く、その前に彼は目を覚まして真っ先に剣を構えるだろう。
    「このままでいい」
     問いかけに応じた後、彼女はまるで難解な数式を見たような表情で、こちらを見つめていた。
    「……何だ」
    「いや……あんたもそんな顔するのかって思ってな」
     風に吹かれ、枯葉が落ちて波紋が広がる。弾けた火花が灰を散らし、折り重なった薪が崩れ落ちた。
     揺れる水面に映る己も、同じように難解に悩む学者のような顔をしていた。

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