保管室にてーとある日の出来事ー デイビットと共に保管室に閉じ込められて一時間が経過した。これを聞いていたのがカドックだったらういきなり出だしで何を言っているんだと突っ込まれるんだろうけど、事実である。
一時間前、保管室に物が溜まり過ぎの状態だったからいらない物を整理整頓していたのだ。
言い訳するとね、保管室の扉を開け締めするタッチパネルの調子は前々から悪かったのだ。ネモ・エンジンも「そろそろ修理をしなきゃ駄目なんだが、重要性が低いからつい後回しになる」と言っていた。まぁ、ただの物置と化している保管室の扉のタッチパネルの修理の重要性は確かに高くはない。人も滅多に来ないし。最近トラブル続きでストーム・ボーダーの一部が破損したり、至る所で急遽整備が必要だったりすることが続いていたから尚更だ。
本日はトラブルもなく平和で時間を持て余した私は「そうだ! 物置と化してる保管室の整理をしよう」と思い至り、保管室まで来たのだ。保管室の整理整頓を始めてから暫く経ってデイビットが現れた。何か用かな? と思っていると、
「藤丸、今すぐ此処を出た方がいい。このままだと閉じ込められる」
至って真面目に忠告してきた。デイビットが野生の勘が働くことは知っていたのに。忠告を受けたときの私は楽観視していた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。確かにちょっと調子は悪いけど、ちゃんと開け締めできるし」
私は笑ってデイビットが開けた保管室の扉を締め、再び開けようとした。だけど何度押しても扉は開かず、タッチパネルはうんともすんとも反応しなくなってしまったのだ。デイビットの忠告通り、保管室に閉じ込められたのである。
おまけに運の悪いことに通信も届かず、保管室の明かりも扉が開かなくなってから数分後に消えてしまった。誰かが私達が閉じ込められていることに気付くまで救助を待つしかなかった(デイビットは躊躇なく保管室の扉を破壊しようとしたが、そんなことをすれば最近お忙しいネモ・エンジンがブチ切れることは確定だったために必死に止めた)。
「ごめんデイビット」
忠告しに来てくれたにも拘らずそれを守らなかったこと、巻き込んでしまったことが申し訳なくて隣に座るデイビットに謝罪するが、彼は何でもないように返す。
「いや、こちらこそ藤丸の行動を止めるべきだった。閉じ込められる事を予想していたにも拘らず、タッチパネルを触る事を止めなかったオレにも非がある」
ううっ、巻き込んだのは私なのに優しい。今はその優しさがぐざぐだと私の心を刺激する。主に罪悪感のせいで胸が痛い。
あととても気まずい。デイビットとこうして二人きりになるのは敵対していたとき以来だった。周りが未だにデイビットを警戒をしているせいで二人きりで話すことはなかったし、交わす会話も今まで最低限だったためにどんな会話をすれば良いのか分からない。
一応思い付いたことを尋ねてるんだけど、デイビットの返答が一言二言で終わってしまうので会話が続かないのである。
うーん、カドックの話ではコミュニケーションは円滑な人だって聞いたんだけど。私と会話をしたくないってことなのかな。だとしたら少し悲しい。
敵同士だったとはいえ、デイビットは私やノウム・カルデアの皆のことを認めてくれた。私達を否定しなかった。
私はそれが嬉しかった。だからデイビットと話す機会があれば、仲良くなりたかったんだけどな。
ちょっとしょんぼりしていると、何か重量感のあるものが肩に寄り掛かってきた。びっくりして隣を見ると、それはデイビットの頭だった。
「ど、どうしたのデイビット?」
デイビットの行動の意味が分からず動揺していると、デイビットは「すまない」と呟く。
「眠いんだ。寝かせてくれ」
あ、眠いんだ。でもその気持ちは分かる。保管室は明かりが落ちているせいで暗いし、何もせずにじっとしていると眠くなってくるのも理解できる。かくいう私も少し眠いと感じていたからだ。
目が慣れてきたとはいえ、保管室は暗いのでデイビットの表情はよく見えない。だけど私の肩に寄り掛かる彼の身体は傾いていた。眠いと言うのは本当なのだろう。
もしかして会話が続かなかったのも、眠気を我慢していたせいだろうか。だとしたら悪いことをしたと思う。仮眠の邪魔だったよね私の会話。
「藤丸との会話が嫌な訳でも、邪魔だった訳でもない」
考えを読まれているような発言をされ、ドキリとする。意識が落ち始めているのか、デイビットの声音は小さくてぼんやりとしている。
「オレも君と話をしたいと思っている。だがそれは別の機会にしてくれ」
そう言ってデイビットは静かになった。耳を澄ませると、規則正しい寝息が聞こえてくる。
「意外と無防備に眠るんだねデイビットって」
何となく人前では居眠りなんてしないタイプだと思っていた。それなのに今のデイビットは私の肩に寄り掛かって寝息を立てている。
無防備に眠るデイビットの寝顔は保管室が暗いせいでよく見えない。それが少し残念だと思う。
『オレも君と話をしたいと思っている』
デイビットが言ってくれた言葉を思い出す。もっと話がしたいと考えているのは、私だけだと思っていた。だけど彼も同じように考えてくれていたのだ。それが何だか嬉しい。
「ふふっ」
嬉しくて、笑い声が漏れてしまう。
次に顔を合わせる機会があれば、きっとデイビットとはもっと言葉を交わすことができるだろう。そんな予感を抱いて、寄り掛かるデイビットに身を寄せてながら、段々と強くなってくる眠気に身を任せて目を閉じた。
□
立香とデイビットが眠りに落ちてから数分後。立香が閉じ込められたことに気付いたマシュとネモ・エンジン、マスターの身を案じていたサーヴァント達が保管室に駆け付けて来る。
身を寄せ合って眠る立香とデイビットを見たマシュやサーヴァントが騒ぎ出してちょっとした一波乱が起こるのだが、それは別の話である。
【了】