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    ※デイビットが生存しててノウム・カルデアにいる設定(いつもの設定)
    ※原作捏造&幻想強めのCPが苦手な人はバックすること推奨します

    零れた本音 立香はベッドの上に正座して深々と頭を下げていた。いわゆる土下座という姿勢である。
     土下座する立香の前にいるのは、デイビットだ。今は捕虜という形でノウム・カルデアに身を寄せている元敵マスターであった人。今の彼は普段着ている服を脱ぎ、無地の黒いシャツと黒のジーンズというラフな服装をしていた。髪から雫が落ち、デイビットは無表情のままタオルで濡れた髪を拭いている。彼が今そんな状態になっているのは立香が関わっていた。

     20分ほど前、藤丸立香ガチ勢であるサーヴァント達が「マスターと甘い時間を過ごしたい」という目的の下に勢揃いしてしまったのだ。そして「勝った者がマスターと時間を過ごす」と喧嘩を始めてしまった。ちなみにマスターである立香の意思は完全無視である。
     いつもなら多少の争いは「いつものことだから仕方ない」とスルーする立香だったが、今回は集まったサーヴァントの数が多く、そのせいで争いはヒートアップしていた。これは止めないと流石に不味いと判断した立香は声を張り上げて止めに入ろうとしたのだ。しかしヒートアップしたサーヴァント達には立香の静止は届かなかった。
     それどころか「マスターと過ごす時間は誰にも譲らない!」と戦いに熱くなっていたサーヴァント達は立香が側にいることを失念していた。そのせいでサーヴァント達の戦いで飛んできた攻撃が立香に向かってきたのだ。立香がヤバッと思って回避しようとしたときには既に時遅し。
     攻撃と言っても、それはあくまでも敵の目眩ましにするために放っただろう泥水だった。それならせいぜい全身が汚れるくらいだと判断した立香は直撃すると覚悟して身構えた。だが、攻撃が当たる直前に誰かに手を引かれた。手を引いた人物は立香を素早く背中に隠して庇ってくれた。そのおかげで立香は無事だったが、庇った人物ーーデイビットは代わりに泥水を被る羽目になった。

     デイビットが普段着ている服を脱ぎラフな服装になっているのも、彼の髪が濡れているのも泥水を被ってお風呂に入ることにをなったからだ。幸い泥水だったためにデイビットが怪我が負うことはなかったが、原因となった立香は申し訳なさ過ぎてデイビットの部屋で土下座して謝っているというのが事の顛末である(最初は床で土下座しようとしたが、デイビットに止められたのでベッドの上で土下座することになった)。
    「本当にごめんデイビット」
    「気にするな。原因は藤丸を巡って争ったサーヴァント達にある。藤丸自身が望んで争わせた訳じゃないだろう」
    「確かにそうなんだけど……」
     デイビットは本当に気にしていないと分かる態度で応じてくれるが、立香を庇ったせいで彼は泥水を被る羽目になったのだ。立香の性格的に気にするなと言うのは無理な話だった。
    「今回の騒ぎに関わったサーヴァントはネモによって厳重注意をされ罰を受けている。君が気にする必要は何もない」
     普段ならサーヴァント同士のトラブルには被害が出ない限りは干渉しないネモだが、今回の騒ぎはマスターである立香が怪我をする危険性があったこと、大人数で争ったために小さくない被害がストーム・ボーダーに出たことでネモが珍しく本気で怒ったのだ。罰として今回の騒ぎに関わった全てのサーヴァントは暫くの間立香との接触を禁止された。勿論サーヴァント達から不満の声は上がったが、立香からも「今回は流石に許しません! 皆きっちり反省すること!」とお叱りを受けて、皆しぶしぶと受け入れることになった。
    「そうなんだけど……でも何かしないと申し訳なくて……」
    「君が悪い訳ではないだろう」
     デイビットが気にしていないことは彼の態度から理解している。あまり何かしたいと恩を押し付けようとするのも迷惑だろう。だが場合によってはデイビットが怪我をするおそれがあったのだ。このまま何の恩を返さないのも立香の気が引けるのだ。
    「私にできることがあるなら何でも言って! できる限りのことはするから!」
    「男相手に何でもすると言うのは辞めておけ。善くないことを要求されたらどうするつもりだ」
    「? デイビットはそんなこと言わないでしょう」
     付き合いが長いとは言えないが、今までの交流から「デイビットはそんなことはしない」という信頼をしているからこその発言だったが、呆れるようにため息を吐かれる。デイビットは目を閉じてぎゅっと眉間に皺を寄せた。彼がこういう表情をするときは何か葛藤していたり、困ったりしているときだ。
    (私、デイビットを困らせること言ったかな?)
     疑問符を浮かべていると、デイビットは瞼を開けて立香を見据えてきた。
    「本当に何でも良いんだな?」
    「う、うん」
     再度確認するように問われ、立香は若干怯みながらも頷く。
    「だったら」
    「っ?!」
     デイビットの両手が伸びてきて頬を触れられる。予想外な彼の行動に驚いた立香の肩が跳ね、頬が紅潮する。
    「できる限りオレの側に居てくれ」
    「それは……」
     どういう意味? という言葉は口にできなかった。デイビットの表情はいつになく真剣で、彼の瞳には熱のようなものが秘められている気がした。何か言うべきなのに、心臓が早鐘を打っているせいで思考がまとまらない。
     立香はただデイビットと見つめ合う。動けないでいると、デイビットの濡れた髪の雫が落ちて立香の顔を濡らした。その瞬間、デイビットは素早く立香から手を放した。
    「あくまでオレが近くにいるときのみの話だ。ノウム・カルデアの中心人物でありながら、藤丸は何かとラブルに巻き込まれる。トラブルに対処するためには目の届く範囲にいてくれる事が望ましい」
    「あ、そう! そうだよね! そういう意味だよね!!」
     付け加えられた言葉に立香は勢いよく頷く。
    (び、びっくりした。真剣な表情で見つめられるから別の意味があるかと思っちゃった)
     危うく勘違いしそうになっていしまった自分が恥ずかしい。だけど紛らわしい行動をして、紛らわしいことを言わないで欲しいとも思う。
     マスターとして死線を潜り抜けてきたので女子らしさはあまりない方向に成長した立香だが、顔面偏差値の高い男に間近で見つめられてドギマギするくらいの乙女心はあるのだ。
    「わ、私……新所長に今回の騒動について詳しい説明をしろって言われてるからもう行くね」
    「ああ」
     妙な勘違いをしそうになったことが居た堪れなくなった立香は速足でデイビットの部屋を出ていく。引き止められないことに何故か一抹の寂しさを感じつつ、デイビットの真剣な表情や熱を持ったような眼差しを思い出してしまい、立香はそれらを振り払うために頭を振った。



    □□□
     

     立香が出ていた出入り口を見つめ、デイビットはふーっと大きく息を吐いて頭を抱えた。
    「何を言っているんだオレは」
     できる限りオレの側に居てくれ、などと。聞きようによっては告白とも取れる言葉だ。あんな言葉を口にするつもりはなかった。
     だが多くのサーヴァントが立香を巡って争う様を見たとき、改めて彼女が多くの者に愛されていると知った。それに僅かな焦りを覚えた。立香自身に非はないにも拘らず、自分のために何でもすると口にする彼女に普段抑えている欲が微かに揺らいだ。敵であったにも拘らず、無防備と紙一重の信頼を向ける立香は、自分を安全な相手と認識していた。その認識を崩してやりたいと思った。それらの事が重なり、本心が口を衝いて出ていた。
     咄嗟に誤魔化すための言葉を重ねたことで立香はデイビットの望む方向に納得してくれたが、我に返らなければ余計な行動をしていたように思う。
    (厄介だなこの感情は)
     人間ではない自分が恋をするなど、想像もしていなかった。立香を前にすると乱れる感情を律し、不必要な記憶を切り捨てていれば、やがてこの感情は消えてなくなると考えていた。しかし困ったことにこの感情は消えてなくなるどころか、日に日に大きくなっている気がする。
     恋をすると人は愚かになるという言葉を耳にしたことがあるが、それが自分自身に当てはまるとは思ってもいなかった。
     立香は一人の少女である以前に人類最後のマスターとして自分を律している。どんな英霊に言い寄られてもなびかないのは、今の彼女にとって「恋は不要」と切り捨てているからだ。実際に今の状況で恋にうつつを抜かしている余裕は彼女にはないだろう。
     デイビットとしても、恋をする余裕のない立香に一方的な感情を押し付ける気はない。さりとて立香に対する恋心を切り捨てられず、諦められずにいる状態だ。正直些細なことがきっかけで先程のようにうっかりと口を滑らせてしまいそうなところまできている。誤魔化すこともそろそろ限界だろう。
    (一体どうするべきなんだろうな)
     生まれて始めて抱いた恋心を持て余す男は、打開策を思い浮かべることができず深々とため息を吐いた。





    【了】
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