妖と狂犬もう指一本動かせる気がしなかった。
暗い、暗い部屋の中。水木は床に打ち据えられた体を動かすこともできず、ぼやけた視界でほんの少し灯りの漏れる扉の方をぼんやりと眺める。
自分が捨て駒だと言うことは随分と前から理解はしていた。
特に大層な縁はないが荒れていたチンピラを拾い裏社会の人間として水木を育てた龍賀組。人間としてと言うよりは犬としてと言った方が正しいかもしれないが――。
その龍賀組の組長である時貞から命じられたのは『妖組の大将の首をとってこい』というものだった。
妖組。名前はもちろん知っている。しかし大将の姿なんぞ見たこともなく、若頭の長田に聞いてみたものの「私もその姿を見たことがありません」の一点張りだった。
7269