妖と狂犬もう指一本動かせる気がしなかった。
暗い、暗い部屋の中。水木は床に打ち据えられた体を動かすこともできず、ぼやけた視界でほんの少し灯りの漏れる扉の方をぼんやりと眺める。
自分が捨て駒だと言うことは随分と前から理解はしていた。
特に大層な縁はないが荒れていたチンピラを拾い裏社会の人間として水木を育てた龍賀組。人間としてと言うよりは犬としてと言った方が正しいかもしれないが――。
その龍賀組の組長である時貞から命じられたのは『妖組の大将の首をとってこい』というものだった。
妖組。名前はもちろん知っている。しかし大将の姿なんぞ見たこともなく、若頭の長田に聞いてみたものの「私もその姿を見たことがありません」の一点張りだった。
密命を受け殴り込んだものの、見事返り討ちにあいこうして体を動かすことも出来ず、敵の陣地で犬どころかゴミクズのようになっているのだからもうそんな話はもうどうでも良い事なのだが。
(ここから這い出たところでミッションは失敗、どうせ帰ったところで嬲り殺され棄てられるなら今ここで死にたい)
全身がズキズキと痛み意識が飛びそうになる。顔面と腹に喰らった拳が一番痛かった。鈍器で頭を殴られどろりと血が流れ始めた時には痛みなど最早分からなくなっていた。
今更になって疼く全身に水木はもう笑う気力もない。あぁ、でも最後に煙草は吸いたかったなぁとズボンのポケットに手を伸ばそうと試みたが、やはり体は動かない。潔く諦めた。来世があるかは分からないが、その時までの楽しみに取っておこう。
うっすら開いていた目をゆっくり閉じる。
その時、水木の耳がカラン、コロンという音を拾い上げ再び目を開ける。
その音は徐々に近付いているようにも思えた。
(いい、音…だな……)
しかしその音が近付くにつれ意識は遠のいていく。
すぐ目の前でその音が止まった気がしたが、水木の意識はそこで途切れてしまった。
「ん……」
全身が痛い。しかし何故だが床が固くない。それに妙に暖かい。ここが死後の世界か―…?なんて思いながらうっすら目を開く。
しかし視界に入ったのは地獄の閻魔でもなければ天国の天使でもない。ギョロりと大きな目で水木を見下ろす白髪の男がそこにはいた。
「?!ッ!?いっってぇ!!」
「お?目が醒めたか?無理に体を動かすな、骨が何本かイッておるそうじゃ」
カッと目を見開いた水木は咄嗟に体を動かそうとしたが、その瞬間全身がギシリと音を立て悲鳴をあげる。
「死にたくなければ大人しくしておることじゃな」
暖かいと思っていた床は布団だった。乱れた掛け布団を直してやりながら男は再び水木を見据える。
心の内を見透かされそうな赤い瞳に、水木の背筋をゾクッとしたものが走り肌が粟立つ。ただの男では無いことは明確だった。物腰柔らかそうな男は耳触りの良い声で水木に語りかける。
「お主、龍賀の狂犬…水木じゃな?」
「?!おま、え…はっ」
「儂か?儂はゲゲ郎という。妖組の大将とも呼ばれておるよ」
「!!」
この男が妖組の大将だという。コイツが自分の標的…?!と思うも最早1ミリも動かせないこの体ではその首をとる事も出来ないだろうと、水木は頭を働かすことを諦めた。
「…で、その大将さんが、何で俺なんかを?」
骨が折れていると言われた。きっと医者でも呼んだのだろう。外に打ち捨てれば良いものの、手厚く看病されている。考えられるのは回復してからの尋問くらいだが…。
キッとゲゲ郎の顔を睨み上げる水木。ゲゲ郎は青い目と視線を絡ませると、ふと笑みを浮かべた。
「お主が欲しい」
「…あ?」
「儂の後添いにする」
「の、ち…?」
ゲゲ郎は布団に手を付き水木に幾分近付いた。
衣擦れの音と共にふわりと香った仏具のような香りは不思議と落ち着くものだった。
ゲゲ郎の手が水木の頬に伸ばされ、大きめの絆創膏を貼られた頬をするりと撫でる。
チリッとした痛みが走り「んッ…」と息が漏れる。
「意味が分からない」そう告げようと口を開いた矢先、その口は柔らかいもので塞がれ言葉を飲み込む。額に当たるサラリとした銀糸。目と鼻の先にゲゲ郎の顔。
「?!」
チュッと唇を吸われ、水木の思考は停止した。
ゆっくりと離れていく熱。ゲゲ郎は未だ困惑した水木の顔を覗き込む。ほんのり染まる頬にニタリと笑った。
「一目惚れとでも言うておこう。お主が欲しい。儂のモノになれ水木」
柔らかい声の裏に隠れる謎の執着。水木はゴクリと唾を飲み込み喉を鳴らした。
「い、いやだ…って言ったら…」
余計な事を聞いたかもしれない、そう思っても遅いのだが。
「ふぅむ、そうじゃの。嬲り犯した後、海にでも沈めるか…」
顎に手を当て突き出した唇から漏れた物騒な言葉。
「さて、どうする?」
まるで妖のように笑うゲゲ郎に(あの時、死んどきゃ良かった)と後悔する水木。
そうは思ってもやはりもう遅いのだ。
「まぁ、返事は今でなくてもよい。お主がその体では流石に儂も抱けぬ」
「だ…抱けぬって…」
「なんじゃ?後添いなのじゃから可笑しくはなかろう?お主の腹の奥に子袋を宿す」
布団の上から水木の腹の当たりを狙ってトンとゲゲ郎の指先が落ちる。「は…?」と声を漏らす水木。ちょっとどころかこの男が言っている意味が分からない。
「こ、子袋…って子宮のことだろ…?俺は男だぞ!?」
「そんなもん見たら分かるわい。粗末ではないが可愛らしいチンポも付いておったしの」
「なっ?!てっ、めぇ!!ッッぅ、ぐッ…ッッ」
どうやら介抱する時に見られていたらしい。確かに今の水木の格好はあの時着ていた服ではなく、浴衣だった。
怒りと羞恥で逆上するも、体がミシリと軋み怒気を孕み染まった水木の顔は苦痛に歪む。
「お主はすぐに頭に血が上るタイプか。まさに狂犬じゃの。難しい話はお主の体が治ってからじゃ」
「うっ、ぐっ…」
ゲゲ郎は再び水木に近寄ると、苦痛に歪んだ顔に手を伸ばし顎を掴む。
額に浮かぶ玉のような汗。ゲゲ郎は水木の瞳を覗き込みケケッと笑った。
「ほんに、面白いほど苦痛な表情が似合う男よのぉ。このまま取って喰らいたい気分じゃ」
「ヒッ?!んぐッ」
ゲゲ郎は自身の唇を舐め上げた後、齧り付くように水木の唇を塞いだ。
先ほどの触れるだけのものとは明らかに違う。唇をぬるっと這う舌に、水木はぎゅっと目を閉じた。
しかしぬるりと濡れた舌先は容赦がない。真一文字に引き締められた水木の唇の隙間に舌先が捩じ込まれた。
「んんッ、ん!?」
体を動かせば節々が悲鳴を上げるし、強い力で顎を掴まれ顔を動かすこともできない。出来るのはくぐもった吐息を漏らすことだけで、好き勝手に口内を舐めしゃぶる舌に、なすすべもない。顎さえ解放されればこの好き勝手に動く舌に齧り付いてやるのに…!逃げる水木の舌は容易く捕まえられ舐られる。
じゅるりと唾液が絡み合う音が立つ。ゲゲ郎の舌から唾液が伝い喉奥に流し込まれる感覚。得体の知れないものを拒むように喉が引き攣るも、抗うことが出来ず水木の喉はゴクッ、ゴクッと音を立てた。
「んぐっ、んんっ、ッッ」
(やばっ、苦しいッッ)
鼻で呼吸をすれば良いだけなのだが、今の水木はそこまで頭が回らない。うまく呼吸をすることが出来ず意識が白み始める。
そんな水木を気にするそぶりもなく、ゲゲ郎は水木に覆いかぶさり口付けを繰り返した。水木の青い瞳が上を向く。
(む、りッ…、とぶッ)
水木の体からくたりと力が抜ける。そこでゲゲ郎は漸く水木の唇を解放した。
互いの唾液で濡らした口元を手の甲で拭い目下の男を見下ろす。そこには長い長いキスにより気絶した水木。ゲゲ郎はクスッと笑みを浮かべた後、水木の黒髪を指先に絡めながら優しく声をかけた。
「おやすみ、儂の後添い」
無論その言葉が水木に届くとこはなく、ゲゲ郎はもう一度水木の顔を覗き込んだ後、静かに部屋を後にした。
◇
「どう、なってんだ…?」
庭から聞こえるのは雀が戯れる鳴き声。その鳴き声に水木はうっすらと目を覚ます。視界に入ってきたのは見慣れない天井。大怪我をしていることを忘れ体を動かした。しまった!と思った時にはもう体を動かした後なのだから遅いのだが、昨日少し体を捩じっただけであんなにも悲鳴を上げていた体は何ともない。全くの無痛というわけでもないが、自分で体を起こせるくらいには回復していた。
(骨だって、折れてたんだぞ…)
水木は布団から起き上がり、改めて部屋を見渡した。なんの変哲もない和室。その中央に今水木が寝ている布団が敷かれている。枕元にはご丁寧に水差しとコップ。もしかしたら毒が混ぜられているかもしれない、そう思いもしたがここを抜け出し組に帰ったとてタダでは済まないだろう。さすがに喉もカラカラで、水木はコップに注いだ水をがぶがぶと飲みほした。乾いた喉が潤されていく。手元が狂いコップから零れた水が浴衣を濡らす。その時和室の襖がすっと開き、水木はそちらに視線を向けた。
「水も上手に飲めんのか、さすがは狂犬じゃのう」
「!」
そこに立っていたのは、妖組の組長である白髪の男ゲゲ郎。昨日水木を介抱して、命を取られるかと思いきや「後添いになれ」と訳も分からない要求を突き付けてきた男である。
「随分と顔色がよさそうじゃの」
「……そりゃ誰かさんが気絶するまでキスしやがってよく寝たからな」
「それは何よりじゃ」
「それにしても、おかしいことがある。俺は昨日死にかけるくらい大怪我をしていたはずだ、なのに起きてみりゃ普通に起き上がれるくらいには回復してやがった。アンタ、何しやがった」
水木の鋭い目がゲゲ郎の大きな目を捕らえる。その言葉にゲゲ郎は「ほぉ、もう効果が出たか」と顎に手をあてながら感心したように言った。
「効果…だと?まさかアンタ、おかしな薬物を……」
「儂は麻薬や可笑しな薬には興味はない。お主昨日気をやる前に儂の唾液を飲んだじゃろう」
「飲んだ…というかアンタが無理に飲ませたんだろ」
蘇る昨日の記憶。思い出せば思い出すほど、キスで気絶したのが恥ずかしくなり、水木はふいと視線を逸らす。
「それじゃよ」
「あ…?」
「儂の唾液には怪我や傷を治癒する効力がある。前提として治癒する相手の気力がないとこうも早くは回復せんが…お主には並外れた生命力があるようじゃの」
「は、?え…っと?ちょっと待ってくれ。そんな話信じられるわけないだろ」
「なんじゃ、龍賀組のくせに何も知らんのか。お主の大将はコレが狙いじゃよ」
ゲゲ郎は水木の手首を掴むとあろうことかその腕にがぶりと噛み付いた。
「っ?!」
鋭い牙が肌に食い込み激痛が走る。ブツリと皮膚に穴が開きジワリと血が滲む。
とっさに腕を引こうとも力強く握られた腕はびくともしない。ゲゲ郎は水木の腕から手を離すと出来上がった傷口にベロリと舌を這わせた。沁みるような痛みに「んっ…」と声が漏れる。しかしどうだろう、その痛みはいつの間にか消えていた。腕に付けられた傷と共に。
「!?き、えた?!」
「どうじゃ?これで少しは信じられるか?儂は人間ではない。幽霊族という人ならざるものじゃ」
「ゆう、れい…?」
確かに、この組の名前は妖組と可笑しな名前だなと思ったこともあったがそこまで深く気にすることもなかった。それはどうやら妖怪から文字を取った名前だったらしい。
「幽霊族の体液には様々な効力がある。ソレを手に入れれば、組の未来は明るいとでも考えたのじゃろう。まったく人間の考えることはわからん」
「身一つでここに乗り込んできたお主の思考も理解はできんがのう」というゲゲ郎に「うるせぇな」と水木は悪態付く。自分は龍賀組の一員であったはずだが、蓋を開けてみれば、あの爺の目的も知らない、知らされない。必要な時だけいいように使われる、やはり自分は龍賀の犬だったらしい。もう主人に尻尾を振ることもないが。
「お主はもうあの組に帰ることはできんじゃろう。返り討ちにあったと帰ったところでお主の行き先は海の底じゃろうな」
「それで?俺を後添いにってか?」
「けして同情などではないぞ。お主に一目惚れしたというのは本当じゃよ。だから水木よ、その命儂によこして後添いになれ」
「あのな…なってたまるか。助けられた手前ではあるが、俺の命は俺のもんだ。ましてやアンタみたいな妖怪なんぞに渡してたまるか」
「ふふ、恩義を知らん男じゃの」
ゲゲ郎は、布団から立ち上がった水木の腕を掴みニタリと笑う。水木は頭一つ分くらい背の高いゲゲ郎を見上げた。思ったよりも身長差があり少し癪だった。
「じゃが、そんな狂犬こそ躾がいがあるというものよ」
「俺を躾ける?ハッ、やれるもんならやってみろ」
小馬鹿にしたように笑う水木にゲゲ郎は相変わらず笑みを浮かべたままである。
「安心せい、今にお主の方から儂に縋ってくるようになるじゃろう」
「なに、言って…!」
ゲゲ郎は掴んだままの水木の腕を引き寄せた。回復したとはいえ、さすがに反応は鈍くなっていた。気付いた時には後頭部をがしりと掴まれ口付けれられていた。
「んんっ!」
密着した体を離そうとゲゲ郎を押し退けようと胸板を両手で押してみるもその体はびくともしない。無遠慮に捻じ込まれる舌先。また気をやるまで口付けられるかもしれないと腰を引くも、水木の腰にはゲゲ郎の腕が回っていて逃げることは叶わなかった。ぬるり、水木の舌に触れるゲゲ郎の舌。ゾワッとした水木は、その舌にガリッと齧り付いた。
「!」
咄嗟に離れるゲゲ郎。口元を片手で抑え一歩後ろに後退する。水木はペッと血交じりの唾をその場に吐き捨てる。嫌悪感を滲ませる青い瞳に睨まれ、ゲゲ郎は血の滲んだ舌で自身の唇を舐め上げ笑った。
「ほんに、躾のなっていない犬よの」
「ハハッ、そりゃ褒め言葉だな」
ゲゲ郎から離れた水木は部屋を見渡す。探し物は自分の荷物、煙草が吸いたかった。「おい、俺の荷物どこだ」そう問いかける水木にゲゲ郎は「必要ないじゃろう」と言った。
「あ?」
「煙草なんぞ、吸うとる暇もなくなるじゃろう。儂は駄犬の躾が上手いからのう」
まるで馬鹿にするようにくふくふと笑うゲゲ郎に、水木はコメカミに青筋を浮かべる。しかしここで切れるのは得策じゃないと感情を抑えた。
「へぇ、そりゃあ見ものだ……な…?…ぁ?」
負けじと馬鹿にしたような笑みを浮かべた水木。しかしその表情は一変する。
「なん…ッ、うっ…ッ」
急にズクンと疼きだした心臓。水木は浴衣の上から心臓のあたりをギュッと握りしめると、耐え切れず布団の上に座り込んだ。ハッ、ハァッと息が上がる。
まさか本当にさっき飲んだ水に毒が仕込まれていた?しかしそれにしては息苦しさが弱い気もした。毒を摂取したことがないから違いはわからないが、水木は苦し気に息を吐きながら目の前に立ったままのゲゲ郎の顔を睨み付けた。
大きな瞳を細めそれはそれは楽しそうな笑みを浮かべるゲゲ郎。いい性格してやがる、と腹を立てるも今はそれどころではない。
(くそっ…なん、だッ、これッ…)
疼くのが心臓だけだったらまだマシだったかもしれない。水木は片手で心臓あたりを押さえたまま、もう片方の手を下腹部に持っていき、臍の下あたりをグッと押さえた。「あッ…♡…?!」腹を押さえた瞬間漏れた自分の声に水木はギョッとして声を詰める。それは感じ入ったようなそんな声だった。
腹の奥、女でいう子宮の辺りがズクンと重くなり甘く疼く。
「て、めぇ…!何、しやがった…?!」
額に浮かんだ玉のような汗が水木の顔を流れ落ちる。
「…なぁに、儂は何もしておらんよ。お主、先ほど儂の舌に齧り付いた時、儂の血を舐めたじゃろう?」
「ハッ…ッ、血…?」
そこで水木はゲゲ郎の言葉を思い出す。『幽霊族の体液には様々な効力がある』どうやら唾液だけではなく、血にもその効力があったらしい。
「儂の血を摂取すれば、それはそれは気持ちがよくなるそうじゃぞ」
ゲゲ郎は腹を抱えるように蹲る水木の項を指先でツゥっとなぞり上げた。
「あっ、んッ」と漏れる声は甘さを孕む。
「催淫効果のある血じゃよ。自白させるのに使うこともある。まぁ、人間にはちと効きすぎるやもしれんがのう」
「ハッ、ぅ…ッ、くッ…」
最後のほうの言葉はもはや水木の耳には届いてはいないだろう。
体を支えるのもしんどくなり、布団に向け前のめりになり蹲る。その表情はトロリと蕩け先ほどまでの狂犬のような覇気はない。
「ッ♡、あっ…♡」
甘い声を漏らす口からは涎が零れ布団を濡らす。
(やばっ…ッ♡、なにも、かんがえ、らんねぇ…ッ♡)
「ふふ、つらそうじゃの、水木や」
ゲゲ郎は水木の前にしゃがみ込むと、乱れた髪を大きな手でギュッと掴み上げ、快楽に溶けた顔を上げさせた。
「ッ、ぐ…ッ」
「苦しいか?どうじゃ、儂の後添いになる気になったか?」
目尻に生理的な涙を浮かべた水木の青い瞳を覗き込み柔らかく笑う。しかし細められた目の奥に潜む赤い瞳は冷え切っていて感情が読み取れない。
水木の背筋をゾクッとしたものが駆け抜ける。それは恐怖にも似ていた。
しかし水木もなかなかに強情な男だった。赤い目をキッと睨み上げる。
「ハッ、ッ、ッッ、だ、れ…が!!」
互いに上がる口角。ゲゲ郎は水木の髪を引っ掴んだままその体を起こさせる。
「う゛ッ、ぐ、ぅ…ッ」
「これは、きっちりと躾が必要なようじゃの…」
ニタリと妖めいた笑みを浮かべるゲゲ郎。鋭く尖った牙で己の唇をガリッと噛み、血を滲ませたまま水木の唇に齧り付くように口付けた。
◇