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    お題箱より
    同棲🎈🌟 おせっせした日の翌朝のお話です。
    お題ありがとうございました〜!

    ##類司

    熱はまだ冷めなくて◾︎熱はまだ冷めなくて

    その日は珍しく、先に起きたのは類だった。ゆっくりと瞼を開くと、視界の先にはすやすやと穏やかに寝息を立てている司がいる。
    普段、先に起きるのは司の方が多く、類が起きるとベッドはもぬけの殻で…ということが多いため、こうして類が司の寝顔をじっくりと見られるのは稀だった。

    「(あ……、そうか。昨日、あのまま寝てしまったんだね)」

    司の寝姿を見ていて、司が裸のまま寝ていることに気付く。無論、類自身も裸であった。
    脱いだ寝間着を着直す余裕もなかったくらいに求めあったのだと、まざまざと感じさせる。今は穏やかな寝姿をさらけ出している司だが、数時間前までは激しく自分を「欲しい」と求め、可愛らしい嬌声で喘ぎ、名を呼んでくれていたな、とも思い出す。

    「(…ふふ。司くん、お疲れ様。昨日もほんとうに可愛かったな。司くんの「欲しい」に、応えられていたのならいいのだけれど)」

    類は司の頭を撫でながら、彼を労う。きめ細やかな、さらさらと滑らかな髪ざわりが、肌に気持ちがいい。このまま、ずっとこうして司の毛艶を味わいたい気持ちにもなりつつ、ベッドの脇に置いてある置時計を見やると、普段の司ならばとっくに起きているだろう時間を表示していた。

    「(……いや。今日は、このままにしておこう)」

    司を起こそうとした類だが、司の寝顔を見て思いとどまる。今日は休日で、時間的なしがらみは無い。何より幸せそうに眠る彼を起こすのは無粋なことだと思ったのだ。

    「(それに、昨日の疲れもあるだろうし。司くん、ゆっくり休んでね)」

    だから今は。
    まだ冷めやらぬ熱と、君との一日が始まることだけは伝えておこう。

    類は司をもうひと撫でし、ゆっくりとその頬に顔を埋め――愛おしいその寝顔に、口付けをした。






    「(さて…司くんがいつ起きてくるかは分からないけど、色々やっておこうかな)」

    着替えや洗顔を終えた類はリビングにやってくる。締め切られたカーテンを開き、日光を浴びながら、何をすべきか思い浮かべていく。

    「(朝食と洗濯、掃除と…ああ、あと買い出しのメモも作っておきたいね)」

    その日の午後は買い出しを予定している2人。週末の休日のいつものルーティンであり…類にとっては、司と一緒に外出…言わば買い出しという名のデートでもあり…毎週の楽しみの1つでもあった。

    まずは朝食を作ろうと思った類は、キッチンへと向かう。簡単に済ますならトーストやシリアルでもいいか、と考えるが、冷蔵庫の中にあるもの見て考えを改める。

    「(…たまにはいいかもしれないな。簡単なものなら…)」

    元々料理がそこまで得意ではない類は、普段から精を出して積極的に料理を作ろうとは思うことは少なく、日々の料理は司任せなことが多かった。もちろん、全くしないわけではなく、同棲を始めてからはそれまでよりは格段に増えたのだが。
    司と同じ食卓を囲むために料理をし、司に「美味しい」と言ってもらえるその喜びと幸せは、他に変え難いものでもあった。

    「(ふふ、司くんの笑顔のためなら、何でも頑張れてしまうね)」

    その先にあるのは司の笑顔。
    そのためにも、まずは朝食作りから類の一日は始まるのだった。





    キッチンとリビングに、香ばしいソーセージの香りが漂っている。

    無事に朝食作りを終えた類は、次はどうしようか、と考えを巡らす。朝食の匂いにつられ司が起きてくるかもしれないと思っていたが、未だ司は姿を現さない。

    「(買い出しメモは司くんと相談しながら作った方が良いだろうし…あとは洗濯と…あ、お風呂掃除もしようかな)」

    司と同棲するようになって、料理とともに類がすることの頻度が高くなったのがこの掃除というカテゴリだ。
    掃除が苦手な類ではあったが、司と寝食を共にするにあたって、必然的に掃除や片付けをきちんとすることが増えたという。同棲する前までは自分のペースでそういったことをしてきた類だが、部屋を散らかしがちな類とは対照的に几帳面で部屋の整理整頓はしっかりしている司が相手ではそうはいかない。
    最初は司に言われて…ということも多かったが、最近では言われずとも掃除をよくするようになった類。

    「(好きな人と一緒に生活していると、私生活をも変えてしまうんだねえ。それに、部屋や色んな所を綺麗にするのは、気持ちがいいことだというのも分かったしね)」

    苦手意識があったものが、恋人の影響を受けて認識が変わっていく―
    それまでも類が司の影響を受け変わってきたことは多い。司無くして今の自分は無い、と類は改めて感じつつ、風呂場へと向かうのだった。




    寝室。
    類が風呂掃除を始めた頃、ようやく司が目を覚ます。

    「ん……ふぁあ……うぅ…んッ…」

    大きな欠伸をしつつ背筋を伸ばす。普段ならシャキッと目を覚ます司だが、この日はぼんやりと、とろんとしていた。体も…特に腰の辺りの鈍痛が酷く、司はしばらく身体を起こした状態でぼーっとしている。
    置時計を見やると、普段ならとっくに起きて行動している時間を表しており、司は顔をしかめる。

    「(う……オレとしたことが、随分と寝過ごしてしまったようだな…今日は休日とはいえ………む…?)」

    司はそこで、ようやく部屋…というか、ベッドの違和感に気づく。ベッドの中でいつも感じている気配と重みが全く無い。

    「ぬ…っ!?類がいない…!?い、いや当然か…さすがの類でも起きている時間だしな…」

    普段は割と朝早い時間に司の方が先に目覚めるため、司が目を覚ますとだいたい隣で類がまだ寝ており、司が朝起きて一番に見るのは類の寝顔、ということが多かった。
    司にとってそれは朝の密やかな楽しみのルーティンでもあったのだが…まあこういう日もあるか、と思い直す。

    「…あの後。あまり記憶が無いが…あのまま寝てしまったのだな…、パジャマを着直す余裕も無いほどに…」

    自分が裸のままだということにも気付き、脱ぎ散らかされていたパジャマや下着を見つけると、じわじわと昨晩のことが思い起こされていく。
    数時間前まで、ここで。何度も何度も類と交わり…何度も類に抱かれながら果てて…何度も類の名を呼んだ。

    「(何だか…いつに増して、類を求めてしまった気がするな…)」

    それは類が優しく、だけれど激しく求め…「好き」という気持ちを沢山伝えてくるからだ。自分を欲する類に、司は全力で応えたいといつも思っていた。

    「類の「好き」という気持ちに、応えられていたのならば良いが…」

    司は腹をさすりながら、ぽつりとそう呟く。行為中はとにかく必死で無我夢中で一心不乱で、自分が何を言ったかや自分がどうなっているかなどを考えている余裕は全く無かった。

    ただ、こうして身体をさすっていると、まだ昨晩の熱が残っていると感じられる。確かに、類と繋がっていたのだと。彼の迸りをここで…受け止めたのだと。

    「るい……」

    類への思いを募らせる司。確かに残る昨晩の熱を思い出し、身体が火照っていく。

    「(あの時、オレは類に「好きだ」という言葉を伝えたのだろうか…いや、あの時だけじゃない。今だって…類に好きだと言いたい…類に、触れたい。類を感じていたい…)」

    司は途端に、隣に類が居ないことに寂しさや不安を感じ始め、類のことで頭がいっぱいになる。一緒に暮らしているのだから、離れた所にいる訳ではないと分かっていても、類に早く触れたいという気持ちが司を焦らせた。

    脱ぎ散らかされていたパジャマと下着を着直し、ベッドメイクをし…類を探すべく寝室を後にする。



    寝室を出ると、まず鼻をついたのは香ばしいソーセージの香りだった。
    その匂いで、司は類が朝食を作ったのだと察し、キッチンへと向かう。
    リビングにもキッチンにも類は居なかったが、キッチンの机の上に2人分の朝食が用意されていた。

    「焼いたソーセージとベーコン、目玉焼き…それに一人分だけ…つまりこれはオレの分だけなのだろうが、サラダまで作ってあるではないか…!類のやつ、野菜を触るのも見るのも嫌なはずだろうに…」

    しかも、レタスにトマト、ツナにコーンまで入った、しっかり彩りもある野菜サラダとなっている。

    司は驚く。
    朝食がここまでしっかり作ってあったこともだが、何より自分のために苦手な野菜に触れ、盛り付けたということに。類自身の分は無い辺りやはり食べるのはNGなのか、と思わせられるが、それでも十分だった。
    しかも、用意はしてあるが手はつけられておらず、自分が起きてから一緒に食べるつもりなのだろうと、司は理解する。

    「ううっ…類…!」

    思わず感極まりそうになりながらも、早くこの嬉しいという感情を伝えたい司は、引き続き類を探す。
    と言っても、ここにいなければ類が居そうな場所は限られてくる。朝食のことを踏まえれば、外出はしていないのは明らかだ。

    恐らくここに、と予想した浴室兼洗面所に近づくと、シャワーの音が漏れ聞こえてきた。類はここにいる、と確信する。
    シャワーを浴びている最中かもしれないと一瞬過ぎったが、気持ちが急いていた司は構わず突撃してしまう。

    「むっ……!」

    扉が開け放たれていた浴室から、類の背中が見えた。しっかり服は着ており、腕まくりをして泡のついたスポンジを握っている。類はシャワーを浴びていたのではなく、風呂掃除をしていたのだと司は瞬時に理解をする。
    風呂掃除に精を出すその大きな背中も…たまらなく愛おしく感じた。

    だから、その背中に。ようやく、触れる。気づけばもう、体は動いていた。


    「るい…っ!」
    「わっ…!?」


    背後から不意をつかれた類の手から、音もなくスポンジが落ちる。
    冷たい水とぬめりを帯びた泡、そして浴室洗剤の香りしか無かったこの空間が…一瞬で変わっていく。今、類を支配するのは、司の匂いと司の重み、温かみ。それだけだった。

    「つ、司くん…!いきなりびっくりしたよ」
    「るい…るいっ……」

    ぎゅう、ともう一生離さんと言わんばかりに、類を後ろから強く抱きしめ、彼の項辺りに顔を埋める司。
    何か並々ならぬものを感じた類は、蛇口から水を出して手の平についた泡を洗い流し、司に触れられるよう準備をする。

    「…司くん?大丈夫かい?…僕は何処にもいかないよ」
    「何処かに行かれては困る…朝起きてからずっとこうしたかった…類に触れていたかったのだ…」

    震える声で、司はそう吐露する。そのいつになく弱々しく、余裕の無い姿を耳と背中で感じ取った類は、少しでも司が落ち着けるよう、彼の手をぎゅ、と握る。

    「司くん…、ふふ…なんだか今日は朝からとても情熱的だね。…何か、嫌な夢でも見たのかい?」
    「いや…そういう訳じゃない。…驚いたのだぞ。目が覚めたら隣に類がいなくて、お前を探しにリビングに行ったら朝食が作ってあって。オレの分だけだったが、野菜サラダまで作ってあった…」
    「司くんはよく朝に野菜を食べているからね。せっかく作るなら、司くんのそのルーティンは崩さないように、と思ったんだ」
    「お前…野菜は触るのも見るのも嫌なんじゃないのか…?」
    「…そうだね。でもなんだか不思議と、司くんの為に…と思ったら自然と触れていて、自分でもびっくりしたんだ。あ、できてしまったなって。食べようとは思えなかったけど…司くんの為なら、苦手なものも触れるんだなって思ったよ」
    「類…オレの為に…、そうか…嬉しいぞ」

    堪らなくなった司は、さらに力強く類をぎゅうと抱きしめる。すごく愛されている…と深々と感じ、ただひたすらに、「好きだ」という感情が沸き起こる。

    「わ…、ふふ、力強いハグだね。そんなに嬉しかったのかい?」
    「あ…すまん、その…堪らなくなって、つい力が入りすぎてしまった…苦しかったか…?」
    「いや、大丈夫だよ。むしろ朝からこんなにいっぱいぎゅうってしてくれて、嬉しいよ」
    「オレの方こそだ。サラダのことだけじゃない。昨晩だって…オレに「好きだ」という気持ちを沢山くれた。オレを優しく…だが激しく求めてくれた。あの瞬間、類から与えられる全てが気持ち良くて…すごく…嬉しかったぞ」
    「司くん…」

    ああ、と類は思う。
    最初に抱きついてきた時に「触れていたかった」と言ってきた理由を、何となく察する。

    「(きっと、昨晩のあの熱がまだ冷めていなくて。司くんはまだ…僕を欲しているんだ。だけど、目が覚めたら僕がいなくて、少し寂しくなってしまったんだろうな)」

    類は、司の「欲」を背中越しに感じる。こうして力強く抱きしめるのも、触れていたかったと言うのも。全部全部、あの熱に応えたい。まだ「好き」だということが伝えきれていない、もっと伝えたい、という司なりの「欲」なのだと。

    「…司くん。顔、見たいな」
    「え……う…うむ…、オレも類の顔…見たい」

    それまで背中越しだったのが、類がくるりと向きを変え、司に向き直る。ようやく、お互いにどんな表情をしていたのかを視界に捉えられた。

    「ふふ…、司くん、顔が真っ赤で、かわいいね。それに…余裕も無さそうだ」
    「し、仕方ないだろう…!感情が抑えきれんのだ…!る…類は…、ぬぅ…涼しい顔をしおって…」
    「おや、こう見えても今とても高揚しているのだけど。…司くん。僕もあの時、すごく嬉しかったんだよ。司くんがいっぱい僕を求めてくれて…気持ちよさそうにしてくれて、僕を受け入れてくれた。司くんだって、僕に沢山の「好き」をくれたよ。それに、司くんは…とっても欲張りさんだな」

    類は、司の頬に手を当て、その柔らかくすべすべとした頬を愛おしそうに優しく撫でる。

    「んっ……ぁ…、るい…」

    顎を撫でられている猫のように目を細め、気持ちよさそうにする司。時折後頭部まで撫でてやると、さらに感度が良さそうに反応した。

    「昨日もあれだけおねだりして...「好きだ」って言ってくれて...それでもまだ物足りないだなんて。僕に触れていたかった、というのはそういうことなんだろう?」
    「う...全てお見通しというわけか...。単純な話だ。目が覚めても...あの時類がくれた熱が、まだ残っているような気がしてな。そう思ったら、途端にお前が欲しくて触りたくてたまらなくなってしまったんだ。それに...不安だったのだ。オレはあの時、ちゃんとお前に、「好きだ」と伝えていたのだろうかと。だが...お前がそう言うのならば、ちゃんと言えていたのだな」

    司は安堵の表情を見せ、微笑む。
    そして、熱を孕んだ瞳で、上目遣いで類をまっすぐと見据える。

    「ならば...今も、言っていいか?いや、言いたい。欲張りでは駄目か...?」
    「....ううん。全然、構わないよ。欲張りさんな司くんの想いに応えられるのなら...僕は何だってするからね」
    「ん...嬉しいぞ、類。そんなふうに言ってくれるお前が...大好きだぞ。今日も、その先も。ずっとずっとだ」
    「うん。僕も...大好きだよ、司くん。これからもずっと一緒に、この「大好き」を重ねていけたら嬉しいな」
    「うむ...!な、なんだかお互いにプロポーズのようになってしまったな...」
    「ふふ、もう一緒に暮らしていて、結婚しているようなものなのにね。でも司くんになら毎日プロポーズされるのもいいね」
    「ぬ...さすがにそれは重くないか...と思うがまあオレも類ならば...こういう気持ちを伝えるのも、悪くは無いからな。ああ、そうだ。もう一つ言わねばならんことがあるな」
    「おや、何だい?」

    本当に大好きで愛おしい存在が、毎日ずっと、傍に居る。毎日「好き」や、プロポーズのような言葉を言っても飽き足らないような存在が、お互い求め合える存在が。日々、傍にいるのだ。

    そんな日常が、今日もここにある。
    この幸せな日常を噛み締めることができる喜びを、この言葉で伝えよう。

    「おはよう、類!」
    「…ああ。おはよう、司くん」



    2人の気分が盛り上がったのは言うまでもなく…類が盛り付けた野菜サラダや朝食は、2人の甘い時間に先を越されしばらくお預けとなるのだった。







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