転生オメガバゆちょ12その日は雨降りだった。ジメジメとしていて薄暗く視界も悪い。脹相は産まれたばかりの四番目の子供を抱いて、玄関で悠仁の見送りをしていた。

「こんな日に運転するのか」
「うん、今日はちょっと地方に行かないといけなくてさ」
「こら、遅れるぞ」

脹相は悠仁に弁当を渡すとリビングの奥でもたもたしている長男に声をかけた。あの子は今年の春から小学生になった。真新しいランドセルは悠仁の叔父が買ってくれたもので、少しオシャレすぎるのが恥ずかしいようだ。玄関へ駆けてきた長男に悠仁が雨合羽を着せてやる。

「気を付けるんだぞ」
「うん、お母さん」
「ん？」

長男は脹相に屈むよう促すと背伸びをして行ってきますと頬にキスをした。それを見て悠仁が長男を思い切り抱き締めぐりぐりと柔らかいほっぺたにキスをしてやる。痛いと悠仁の腕を叩く、そんな父子の様子に脹相は微笑んで見守っていた。

「じゃあ、下の子達も頼む」
「うん」

長男の下の子、間二人は悠仁が会社に行く途中、保育園へ送っていくことになっていた。二人は既に車のチャイルドシートだ。
悠仁が、じゃあ、とドアノブに手をかけた瞬間、脹相に抱かれていた四番目が火をつけたように泣き出した。

「どうした、さっきお乳を飲んだろう？おしめも変えたし……」
「俺がちゅーしてないからだな！」
「僕も！」

悠仁と長男が交互に頬にキスをするも、四番目は泣き止まなかった。脹相は苦笑しながらも大丈夫だから、早く行きなさいと二人を見送った。

午後、末っ子がようやく寝付いて脹相がひと息ついた時、けたたましく家の電話が鳴る。いきなりの音に少し驚きつつ、脹相は受話器を取った。

「はい虎杖です……ええ、そうです……え？どうして……え……は、はい……あ、あの市内の総合病院ですか？はい、分かります……あの、容態は……はい、すぐ行きます」

脹相は震える手で受話器を置くとスマホを取り出して弟達に連絡を入れた。その後すぐに悠仁の叔父にも。次いで末っ子をおんぶ紐で抱き上げ、荷物をまとめて家を後にした。

病院に着くと、眼鏡をかけた金髪の男が声をかけてきた。

「脹相さんですか？虎杖くんの上司の七海です」
「お世話になっています。あの、悠仁は」

七海は脹相の受付が済んだ後、集中治療室まで連れて行ってくれた。
悠仁は地方での仕事が終わり帰る途中、居眠り運転をしていたトラックに衝突された。路面状況も悪くハンドル操作も間に合わず乗っていた自動車は大破。右足だけがシートドアに挟まり骨折をしたが幸い重篤には至らず。しかし事故当時頭を強く打っていて意識が無く、救急で搬送されたのだった。

「すみません、こんな悪天候の日に虎杖君を地方に派遣した私にも責任があります」

七海はそう謝罪をするが、七海に責任などなことは脹相も分かっている。ただ、声を出すと今にも泣きだしそうで、ふるふると首を横に振ることしか出来なかった。脹相の顔は元々色白だが、今は悲惨なくらい青ざめている。ふらつく体を七海が支え、ベンチに座らせたとき、通路の奥から兄さんと声がした。
駆け付けたのは壊相だった。七海は先ほどと同じ挨拶をすると、脹相を支えていた場所を壊相と変わり、後は家族に任せ自分は会社へ戻って報告すると言って病院から会社へと戻って行った。

「真ん中の子たちは血塗が保育園に迎えに行って、上の子と留守番してくれるって。あとさっき看護師さんに、警察の方が来るから自動車保険のこととかお話してって…私がやろうか？」
「……頼む…」

その後、一晩ICUに居た悠仁は意識は戻らないものの、容態が安定した為、叔父が指定した無駄に広い個室へと移動させられたのだった。