転生オメガバゆちょ13「お兄さんはΩの方ですか?虎杖悠仁さんは旦那さんですよね。Ωの方にとって番を失うことは非常にストレスなんです。最悪後を追う方も少なくありません。この状況も長引けば長引くほどお兄さんの精神面には悪影響でしょう。どうかご家族の方が寄り添っていてあげてくださいね」
壊相は医師からそう伝えられ、悠仁の叔父が病院に電話と金を入れて用意したという病院で一番良い個室へと入っていく。
ベッドに横たわる悠仁は自発呼吸はしているものの、未だ何本か管が繋がれている。骨折した右足は固定され、身体中の小さな傷や打撲痕が痛々しい。傍らには椅子に腰掛け、ベッドに突っ伏している脹相。背中におんぶ紐が見えるので四番目を抱いたままらしい。
「兄さん、赤ちゃん潰れちゃうよ、貸して」
脹相は無言でのそりと体を起こすと素直におんぶ紐を解いて末っ子を壊相に託した。末っ子はすやすやと眠っている。
「兄さんこの子図太い子だね、起きないの」
「うちの子はみんな眠ったら、腹が減るかおしめの交換でしか起きないんだ」
「誰に似たのかな」
壊相は赤子を抱きながら眠る顔に優しく語りかける。脹相はベッドに肘を付き、手の指で俯いた額を支えていた。ぐす、と鼻が鳴る音がした。
「……俺はもう二度と弟を失うのはごめんだ……」
「悠仁は弟じゃないでしょ」
「弟だ、悠仁もずっと俺の弟だ……」
「兄さん」
「あの世界の悠仁は、ちょっとやそっとじゃ倒れないような体だった。今は違う……運動神経はいいが、それだけだ……もしこのまま……」
「兄さん、事故の写真見たでしょ、車あんなぺちゃんこでこれだけの怪我で済んでるのは相当強運だよ。じゃないと兄さんにも出会えなかっただろうし。虎杖悠仁が持ってるのは強い体だけじゃなかったんだよ」
「…………」
「今日泊まるんでしょ、着替えとか持って来るよ、必要なものメモして。明日は血塗が子供達連れてきてくれるって。私は仕事だから、今日出来ること手伝って行くよ。あと、この子、ウチの人が預かろうかって」
壊相のパートナーも第一子を出産し、一年くらい経つ。歳も近いので一人くらいなら平気らしい。だが脹相は首を横に振った。
「まだ授乳中なんだ、世話をしていた方が気が紛れる」
「そっか、さっきみたいに潰さないでよ」
「ああ……壊相、ありがとう」
「いいよ、兄弟なんだから」
そのあとも壊相は脹相の身の回りの世話をしてくれ、夕飯がてら売店で買ってきてくれた弁当を並んで食べた後、家に帰って行った。腹が減ったと鳴いた末っ子にお乳をあげると満足気に寝息を立てている。病院だけあって、乳飲み子が居ると分かるとベビーベッドまで用意してくれた。脹相のベッドも用意されていたが、どうしても悠仁の傍を離れられなかった。
夜の病室は静かだ。悠仁は穏やかに呼吸している。
「悠仁、起きろ、子供達が待ってる……俺も……朝、俺にキスし忘れただろう……怒ってないぞ……けれど忘れた分をしてくれないと分からないからな……悠仁………………一人にしてすまなかったな……置いて行きたくなんてなかったのに、でも悠仁の言葉で俺は報われたんだ、それは確かだ…………悠仁、今も一人なのか、お兄ちゃんはここに居るぞ、今は伴侶だ。まだ悠仁の子供を産みたいんだ、頼む、帰ってきてくれ……」
朝、赤子の泣き声で目を覚ますと、夜の姿勢のまま悠仁のベッドの脇で椅子に座り眠っていたようだった。
「ああ、どうした?おしめだな……たくさんしたのか……」
オムツを変えると、再びぐずり出す赤子に脹相は笑ってお乳を与える。
「まったく、みんな分かりやすい子達だ……お父さん似だな」
四番目は初めての女の子でαだった。黒い髪は脹相に似、将来美人になるぞと悠仁が喜んでいたのを思い出す。
懸命に柔らかい頬を動かして乳を飲む顔を見ていると段々と心が落ち着いてきた。帰って家のことをしないといけない。長男は学校が好きだから、休ませたら可哀想だ。間二人も他者と触れ合う大事な時期だ。血塗が来たら、悠仁の顔を見せてみんなを連れて帰ろう。脹相はそう決心した。
脹相は病院の入り口で血塗と子供達を出迎えた。長男は大人しく血塗に着いて歩いているが、下二人は暴れん坊盛りで血塗の腕を好き勝手引っ張っている。
「血塗すまんな、大変だったろう」
「まあな〜動物園みたいだったぜ、でもお兄ちゃんがちゃんと弟達の面倒見てくれたもんな」
「アイス買って貰ったから大人しくなったんだよ」
「それは内緒って言っただろ〜」
「そうだった!」
血塗と長男はクスクスと笑い合った。アイスくらいは多目に見よう……と脹相はため息をつく。母親に甘えようと脚にまとわりつく子供達の頭を撫でていると、抱っこ抱っこと二人同時に叫ぶので、末娘を抱えたままの脹相は逡巡する。
「僕抱っこしようか?」
すると長男が赤子を抱くと提案してきた。いいのか?と聞くと、妹が可愛いから平気だと言う。疲れたら俺が変わるからなと血塗も言ってくれたので、長男が末っ子を抱いて、脹相は下二人を抱き上げた。
「今日学校お休みして良かったの?」
「お父さんが大怪我をしたんだ、先生に言ってあるから大丈夫だ。お父さんを見て、もし明日学校を休みたくなっても、ちゃんとそう教えてくれないか?」
「うん、僕大丈夫だよ」
「そうか……」
エレベーターでの脹相と長男の会話だ。
病室のある階に付き、悠仁が眠る部屋まで皆を案内する。脹相が抱き上げたままの二人は、普段と違う様子の父親を少し怖がった。
「お父さん?」
「そうだ、大変な怪我をしたらから眠っているんだ」
「死んじゃうの?」
「……死なない、大丈夫だ」
二人の子供を下ろして、末っ子はベビーベッドへ。上三人の子供達は椅子に登って膝をつき、ベッドの悠仁を眺めていた。
「お父さんの管、触ったらダメだからな」
「なんで?」
「死んじゃうから!」
「お兄ちゃん本当」
「ほんとうだぞ、だから静かに見てないとダメだぞ」
「分かった」
子供達のやり取りを遠目に、血塗と脹相は窓辺で会話をしていた。
「なんで起きないんだ?」
「昏睡状態らしい、頭を打ったからそのせいかと」
「そっか……兄者大丈夫か?」
「ああ、これ以上お前たちに迷惑はかけられない」
「迷惑じゃないって〜壊相兄は子供いるし難しいかもしれないけど、俺は割と自由だからさ、手伝えることあったら言ってくれよな」
「ありがとう……今日は一旦家に帰ろうと思う。子供達がどう感じるか不安だしな」
「そうだな、まあ、俺も仕事の合間とかお見舞いに来てみるよ」
その日脹相は、子供達と家に帰り家事と育児に追われながらも布団に入った。バタバタはしていたが、病室から帰ってきた長男が逞しく、弟たちによく言う事を聞かせてくれた。
普段は夫婦と子供達は別の部屋で寝ていたが、今日は流石に不安がった為、皆で並んで眠ることにした。寝付く前、脹相は長男に確認する。
「学校、お休みしなくてもいいのか?」
「行くよ、僕がお休みして父さんが起きるならお休みするけど……お父さんと約束したし」
「何を約束したんだ?」
「お兄ちゃんは強く居るんだって。お母さんもお兄ちゃんだから強いんだって言ってたけど……あと、もしお父さんに何かあったらお母さんを守るんだぞって」
「…………」
「だから僕大丈夫だよ、弟達も保育園に行かせてね、お父さんが起きた時に皆でサボってたら笑われるもん」
「……そうだな、お母さんも頑張るぞ」