わんにゃん🩸9朝起きるとベッドに一人だった。よくあることだ。犬と悠仁はどちらも朝が強いのだ。だからこうやって俺を置いて先に起き出す。
のそのそとリビングに行くといい匂いが満ちていた。パンケーキの匂いだ。
「おはよ、寝坊助さん」
キッチンにいる悠仁はエプロンを付けてフライ返しを持っている。昨夜のことを思い出してしまい、少し恥ずかしい。照れ隠しに悠仁に背後から抱き着いて肩に眠い目を押し当てると頭にキスをされた。
思わず顔を上げると今度は唇同士のキスをされた。
「なん、な……っ」
「言ったじゃん、恋人みたいにするって。違った?」
悠仁がキョトンと首を傾げる。違うくはないが、そんな、いきなり……。
カカッと顔に血が上る。驚かせた悠仁が悪い。再び顔を肩に預けて悠仁の袖をぎゅっと握るとわしゃわしゃと頭を撫でられた。
「昨日は自分から乗っかってきたのに、そんなに恥ずかしいのかよ、おかしい」
「猫も、ゆうじに甘えるの、好きだもんな」
テーブルに皿を運んでいた犬がキッチンに入ってきてヘラヘラ笑う。お前の方が甘えたなくせに。ペしっと尻尾で犬の腹あたりを叩いてやった。
「そういえばさ、なんか両方ともそういう関係になっちゃったけど、ヤキモチとか無いの?お前ら」
悠仁が焼けたパンケーキを大皿に移しながら言った。俺と犬は声を合わせて無いと答えた。
「猫がヨシヨシされてるの、いいなと思うことはある、けどゆうじが同じくしてくれるから、俺はいい」
「犬は世話がやけるだろう?だからしょうがない」
「ふうん、変な関係だな俺ら」
その日悠仁は休みだったようで、三人でスマホとやらを買いに出掛けた。釘崎が買ってくれた(ほんとは悠仁の金だったらしい)服に着替え、ブーツを履くと、悠仁は少し眩しそうな顔をした。
また「あの人」を思い出している顔だ。「あの人」を思い出している悠仁からはほんの少し寂しい匂いがする。そんな時悠仁の体に尻尾が巻き付いてしまうのは本能みたいなものだからしょうがない。
三人連れ立って歩くも、やっぱり犬は好奇心にフラフラし出すので、悠仁と手を繋いでいる。ずっと尻尾を振ってご機嫌だ。耳もずっと寝ているが大丈夫なのか、戻るのか。
悠仁はショップでスマホを購入し、ストラップ?を付けて俺の首にぶら下げた。犬が、悠仁が目の前に居るのにスマホで悠仁とお話しすると騒いでいる。
悠仁が笑って帰ったらな、と宥めていた。
「なあ、まだ時間あるし、カフェ行く?映画とか?」
犬も落ち着きが無いが、悠仁も段々とスキップしそうなくらい足取りが軽くなってきている。楽しい匂いがする。犬と手を繋いでくるくる回って歩く姿はなんだか可愛い。
「かふぇ?」
「甘いもの食えるんだぜ、パフェとか、ケーキとか」
「ぱふぇ!」
「オニイチャン甘いの好きか?アニキは?ケーキ食べ行く?」
悠仁と犬がキャッキャッと会話している間、俺は人間の女2人に声を掛けられていた。
「お兄さんカッコイイですね、耳カワイ〜」
「インスタとかやってるんですか?モデルさん?アカウント教えてください」
「俺は……」
そこまで話しかけられた時、悠仁がこちらを振り向いた。
「お姉さん達すみませ〜ん、ソイツ俺の兄貴なんす〜数年ぶりにアメリカから帰ってきたばっかで日本語分かんなくって〜ほら兄貴、行くよ」
悠仁は何やら捲し立てると俺の腕を引っ張って歩き出した。
「悠仁、俺はアメリカ?には行ってないぞ」
「あれでいいの!お前黙ってるとイケメンなの忘れてた……アイドントスピークジャパニーズ、はい、練習して!」
「あいどん……」
「ゆうじ、俺も!」
「オニイチャンはまあ……ん〜男が寄って来そうだな……はあ……」
「ゆうじ、ヤキモチの匂いだ」
「ん〜そりゃまあ……」
悠仁は俺に腕を絡めて、もう片方の手は犬と手を繋いでカフェとやらに向かって歩く。俺は腕を緩めて、犬と同じように悠仁と手を繋いだ。犬はそれを見てゆったりと尻尾を振る。自信満々でこう宣った。
「ゆうじ、両手に花だな!」