「お前が好きだ、付き合ってほしい」
若干の緊張を隠し、不自然にならないように実行された、牧紳一渾身の告白。一世一代の、不退転の決意で行ったそれを、告白された当人───仙道は「そーですか」と、至極あっさり受け止めたのだった。
あ、これ全然本気にしてねえ奴だ。
全国大会決勝前のような気迫で臨んだ告白を軽くあしらわれたようで、牧は少々複雑な気分になる。
もう一度言ってみようか。恋愛感情で好きだってことだ、承諾すればオレと恋人同士になるってことだぞ、と念を押してみようか。いやいやそれは格好悪くないか? しかし冗談だと思われて、何も無かったことにされるのも業腹である。
表情を変えずに牧が考え込んでいると、返事をしたきり黙ったままだった男に、ぐい、と肩を引き寄せられた。
「え、」
そのまま顔が近付いて、柔らかい感触が唇に押し付けられる。あまりに予想外の出来事に、キスされたのだと理解するのに数秒かかってしまった。
「え……!?」
目を丸くし動揺を隠せない牧を、唇を奪った張本人の仙道は楽しげに笑いながら見つめてくる。
「付き合ってるなら、キスしてもいいんすよね?」
いたずらが成功した子供のような表情に、牧の心臓は見事撃ち抜かれてしまった。そして、仙道が自分の告白をちゃんと理解していたこと、恋人同士になった途端こちらに触れようとしてくる積極性に、強烈な愛おしさがこみ上げてくる。オレの恋人がこんなに可愛いなんて聞いてない。
だが、やられっぱなしでは男の沽券に関わるし、負けず嫌いな性に合わない。牧は、もう一度その唇を堪能するために、今度はこちらから腰に手を回し、顔を近づけることにした。