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    drsakosako

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    あやまちの定義
    タル鍾

    #タル鍾
    gongzhong

    普段は食事処で酒を舐め、見目麗しさと簡素さにとらわれず肴を愉しむものだが、何方かの居宅で飲み食いするのも趣があって良い。
     逸品が手に入ったんだ、一人で空けるには勿体なくて。先生もどう?
     そんなタルタリヤの誘いに、鍾離は二つ返事で快諾した。少しくらいは表情をけぶらせるかとも思ったが、杞憂でしかなかった。
     幾つかの小さな椀に盛られた肴は、此処に来るまでの道中に通り過ぎる飲食店で買ったものだ。シンプルな椀や皿に盛られた肴を小器用につまみ、口に運ぶ。火酒で唇を湿らせてから少しだけ口に含み、舌の上で味を確かめてから嚥下する。無駄のない鍾離の所作の一つ一つは、己の飲み食いする手が止まってしまう程に美しかった。僅かに伏せた瞼の奥にとろけそうな梔子色が潤んでいるのを知ったのは、一つの卓を共にするようになって三度目くらいの頃だったように思う。
    「酔った?」
     冗談めかして訊ねてみると、鍾離は決まって悪戯っぽく笑ってから再び酒で口を潤す。一気に呷れば喉が焼け付きそうな程に強い酒を、口の中で飴玉転がす幼子のようにちろりと舐めるのだ。
    「そちらこそ、杯が中々空かないようだが?」
     卓の下で、対面に座る鍾離の足の爪先がタルタリヤの靴の甲をつん、と小突く。まだ酒を嗜むようになってから日が浅いんだから、大目に見てほしい。おまけに、慣れ親しんだ故郷の酒の味とは大分違うせいか、心なしか酔いが回るのも早いような気がするくらいだ。揶揄う様に小さく笑われたのが何となく癪に障って、猪口に満たされていた清澄な酒を一気に呷る。
    「張り合えるくらいの余裕はあるよ」
     目の前がくらりと揺れて臓腑が轟々と燃え上がるように熱くなっているのに、余裕もへったくれもあったものではない。それでも普段感情が滲みにくい目がぱちくりと瞠目するのを見られたのだから、悪い気分にはならなかった。
    「威勢はいいが、それは酒を愉しむ飲み方ではないな」
     つ、と指で差し出された杯をちらりと見ると、先程飲み干した酒と同じくらい澄み切った水がちゃぷりと揺れていた。別に楽しんでいたのは酒の味じゃない、などと言うに言えない。差し出された水を素直に口に含み胃の中へ落とすと、熱を持っていた額の辺りから熱の波が引いていくような気がする。
    「煽りには、滅法弱くてね」
     ちかちかと火花さえ散っていた眼前が幾分か晴れると、頬杖をつき、ほんのりと赤く染まる鍾離の微笑みと目が合った。そういえば、酔ったのか、という問いかけに是とも否とも答えなかったっけ。普段こそ天然じみた幼さも垣間見せるが、基本的に鍾離の表情は怜悧な硬質さを思わせる。けれど今は、熟した果実のようにやわらかく、匂い立つような甘さを纏っていた。
    「見ていて飽きないな」
     僅かに喜々とした気配を乗せた吐息に乗って零れたのは、酒に、熱に、とろけた声音だった。紅を薄ら引いたように赤みを帯びた唇が、再び火酒の水面にそっと触れる。杯の水面にやわやわと揺れているのは、冷え冷えとした月ではなく煌々と部屋を照らす灯火だ。それを嚥下すれば、そう、きっと身体に火が宿ってもおかしくはない。かもしれない。
    「先生、やっぱり酔ってるよ」
     一応、目の前にいる俺という男は、一度は貴方の『心臓』を狙った身であるのに。
     杯や椀を超えて、己の唇に触れるタルタリヤの指。鍾離は叩き落とすどころか、抵抗する素振りすら見せなかった。
     酒で火照った鍾離の紅色の唇を、端からそっと親指の腹で撫ぜる。酒と唾液の湿りが残るふくらみはなめらかだった。時折、ふ、とかすかに指にかかるなまぬるい吐息で、唇に触れる己の指にもあえかな熱が宿りそうになる。
    「公子殿こそ」
     男の戯れに興が乗ったのか、酒に浸された舌先がタルタリヤの指を掠めた。
     嗚呼、何て事をするんだ。まぎれもない暴挙に思わず喉が鳴ってしまう。胸にあるはずの心臓はどうやら耳元に移動してしまったらしい、どくどく、ばくばく、脳髄を叩くように脈打っている。
    「煽りには弱いって、言ったばかりなのに」
     弧を描き閉じられた唇を割り開くように、狭間に親指をゆっくりと沈める。指の表面に触れる濡れた粘膜の感触。美しく揃った歯列が指をゆるく食んで、指先を弄ぶように熱を持った舌が触れる。
     お互いに酩酊し、意識はぐらつき、そして、焦れていた。
     二人を隔てるものは空いた杯、酒瓶に残った酒、口に馴染む料理が乗った椀だけ。椅子から腰を上げ、お互いの熟れた粘膜を舌で確かめ合うまで、然程時間はかからなかった。
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