ただの偶然 行ったことがあるわけでもなく、新しくできたというわけでもない喫茶店にその日、足を向けたのは、ただの偶然だった。
◇
立ち寄ろうとした店の前で見覚えのある姿を見つけ、近寄って声をかける。
「おや、奇遇だね」
「浄さん」
こちらに気付いて振り返るなり、やわらかい笑顔がパッと咲いた。
「浄さんもこの喫茶店に?」
深水は少し驚いたように店と俺とを見比べるので、頷いて見せる。
「ああ、レディからここのパフェがおすすめだと聞いて、話のタネにでもなればってね」
なんて、半分本当で半分嘘。自分の知らない美味いパフェがまだあったのかと、仮面カフェへ行くのをやめてたまたまこちらに来たのだ。
なるほど、と相槌が返ってきたので、深水の瞳──紫水晶(アメジスト)のような輝きの色だ──を見る。
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