家を訪ねたおれを出迎えた恋人は、おれの姿を見るなりあからさまにがっかりした顔をした。
「なんだ、無事なのか……」
「はい?」
「きみ、今日は卒業式だったんだろう?きみのことだから、きっと第二ボタンどころか全てのボタンや装飾を毟られてくるかと期待していたんだが……きみ、案外モテないんだなぁ」
「いやいや、あんたねぇ……」
卒業式を終えた恋人に最初に言うことがソレなのか。ガックリくるが、この人に『普通』の反応を求める方が悪いのだと、短くない付き合いでおれは学んでしまっている。
「そりゃーチコっとは追い回されましたけどね。ちゃあんと断ったっスよ」
「へぇ、どうして?」
「どうしてってそりゃあ……」
どうせ渡すんなら、あんたにもらってもらいたいって思って……。という声は思いのほか小さくなった。なんだか恥ずかしいこと言ってねぇ?と思ってしまったもんだから。
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