おれの恋人は好奇心旺盛な人だ。何か興味が向くことを見つけると一直線、周りの迷惑も過ぎる時間も全部すっ飛ばして夢中になっちまう。しかもそれを当然のことと思って悪びれもしない。
出会った頃はなんてヤベー奴なんだとドン引きしていたそんな部分も、恋人同士になった今では魅力的に感じてしまうからどうしようもない。一つのことにそこまで集中できて、自分の漫画の糧にする。その真剣な姿勢は尊敬できると思うし、純粋に子供みたいに瞳をキラキラさせている様子もかわいい。うん、そう、かわいいんだけども。
「おーい、露伴先生ー？」
道ばたにしゃがみ込んで一心不乱にスケッチしているその背中に声をかけても、振り向きもしなければ返事もしない。一体何をそんなに、とスケッチブックを覗き込んでみれば、なんの変哲もない雑草(露伴がこんなに夢中になるくらいだからひょっとしたら雑草じゃないのかもしれないが、興味のないおれからしたら雑草も同然だ)が次々と描かれていた。
「おーいってば」
せっかく今日はいい天気で、冬の冷えて澄んだ空気も気持ちよくて、最高のデート日和だってのに。露伴の機嫌も上々で、人通りがないのをいいことにこっそり手なんか繋いだりして。繋いだ手から露伴とおれの体温が混ざり合っていくみたいで嬉しくて、これってスゲーいい感じなんじゃねぇ？とさっきまで浮かれた気分でいたのに。
この雑草を見つけた途端、露伴はおれの手をさっさと振りほどいて『集中モード』に入ってしまった。そんなとこもかわいいとは言ったが、デートそっちのけで、しかもおれより雑草を優先されるのはさすがの仗助クンも面白くない。
「ろはーん、もう行こうぜ〜？こんな道ばたでじっとしてたら仗助クン凍えちまうっスよォ〜」
ひょっとしたらおれがいることさえ忘れてるかもしれないその背中に、多少大げさなくらいに震えてみせながら、ナァ〜寒ィよ〜ろはん〜ろはん〜と半ばヤケっぱちに何度も呼びかける。しばらくそうしていると、ようやく露伴の鉛筆を持つ手が止まった。振り向きざま、ものすごい形相で睨まれる。
「うるっせぇなァ〜〜！少しの間くらい黙って『待て』もできないのか！」
言いながら露伴は自分のコートのポケットから何かを取り出して、おれに向かって投げつけてきた。慌てて受け取ったそれは、露伴がさっきまで使ってたんだろう使い捨てカイロだ。どうやら、寒い寒いと喚いていたのもしっかり聞こえていたらしい。
まだ微かに熱を持つカイロがじんわりと冷えた指先を暖めていくのを感じながら、おれは唇を尖らせた。
「……おれが欲しいのはこういうんじゃあねーんスけど」
またスケッチに戻ってしまったその背中に呟くけど、もう返事はない。
まぁ、一人で帰れとか言われないだけマシか……と、おれはため息をついて、さてここからどうやってもう一度手を繋ぐ流れに持っていこうか、ぬるいカイロを握りしめながら考えることにした。