家を訪ねたおれを出迎えた恋人は、おれの姿を見るなりあからさまにがっかりした顔をした。
「なんだ、無事なのか……」
「はい?」
「きみ、今日は卒業式だったんだろう?きみのことだから、きっと第二ボタンどころか全てのボタンや装飾を毟られてくるかと期待していたんだが……きみ、案外モテないんだなぁ」
「いやいや、あんたねぇ……」
卒業式を終えた恋人に最初に言うことがソレなのか。ガックリくるが、この人に『普通』の反応を求める方が悪いのだと、短くない付き合いでおれは学んでしまっている。
「そりゃーチコっとは追い回されましたけどね。ちゃあんと断ったっスよ」
「へぇ、どうして?」
「どうしてってそりゃあ……」
どうせ渡すんなら、あんたにもらってもらいたいって思って……。という声は思いのほか小さくなった。なんだか恥ずかしいこと言ってねぇ?と思ってしまったもんだから。
ほら、聞いた露伴もきょとんとしてる。
やっぱ今のナシ!と言うのも恥の上塗りな気がして、おれはただ熱くなる頰を隠すように俯いて、露伴の言葉を待った。
「……確かに、卒業する男子高校生から第二ボタンを渡される経験はまだないし、いいかもしれないな」
「えっ、じゃあ……!」
「まぁ、いらないが」
「えー……」
本日二度目のガックリに肩を落とすと、露伴は楽しそうに笑い声を上げた。そしてぐいっと距離を詰めてきたかと思ったら、おれの学ランの襟を上から下へそっとなぞって、トン、とおれの胸、心臓の辺りへ手のひらを置く。
「ボタンはいらないよ。ぼくは『ここ』をもらうから」
そう言って露伴が笑う。いつものガキっぽかったり皮肉っぽい笑い方とは違う。見たことないくらい優しくて、幸せそうな笑顔。
その瞬間、目の奥がじんわり熱くなってきて、とにかくたまらない気持ちになって、おれは「きみ、鼓動早すぎないか。死ぬんじゃあないの?」なんて空気読めてねーこと言い出したこの愛しい人を、力一杯抱きしめた。
「卒業おめでとう、仗助」