この恋を自覚したとき、まるで夜空に浮かぶ星を手に入れるような話だと思った。
つまり、何をどうしたって不可能。手に入るはずがないってこと。
胸の奥に押し込めたぼくの不毛な恋心をそんな風に例えて、その相手である仗助本人に話してしまったのは、酒に呑まれての完全な失敗だった。
駅前でばったり会って、久しぶりじゃあないスか飲みに連れてってくださいよ〜なんて強引に引っ張ってこられた居酒屋。悪態をつきながらも振りほどけなかったのは、こいつのことが好きだからだ。久しぶりに顔を見れて、タダ酒目当てでも親しげに声をかけられて、嬉しいと思ってしまった。嬉しいけど、絶対叶わない想いを抱えたままこいつと一緒にいるのは苦しい。そんなぐちゃぐちゃな感情で安いアルコールを流し込んでいたら、ぼくは早々に出来上がってしまった。そんな時に「先生は好きな人とかいるの?」なんて聞かれたから、口が滑ったのだ。
「本当にそうなんスかねェ〜?」
唐揚げを咀嚼しながらとぼけた声を出す仗助を、ぼくはじろりと睨めつける。
「なにが、」
「不可能ってことはないんじゃあないスかね?ほら、流れ星みたいにこっちに落っこちてくるかもしれないっスよ」
「はぁ?」
何勝手なこと言ってんだ、こっちの気も知らないで。そう食ってかかる前に、仗助は素早く身を乗り出すとぼくの唇にキスをした。ガチャン、とテーブルの上でグラス同士がぶつかった音がしたけど、騒がしい店の中では誰にも聞こえていない。
「ね、ひょっとしたらもう落ちてるかも」
ぽかんとするぼくに、仗助はへへ、とはにかむみたいに笑う。その意味を、アルコールと驚きでうまく働かないぼくの頭が理解したとき、ぼくはようやく、その美しい星に手を伸ばすことができたのだった。