ファーさんはカレー作るのめっちゃ得意 星の民屈指の天才であるルシファー所長率いる星晶研究所、その一角。廊下を歩いていたベリアルは、嗅ぎ慣れた匂いにすんと鼻を鳴らした。直近で嗅いだのは確か六週間ほど前のことだったか。やれやれと肩を竦め、ベリアルは目的地へ向かう足を早める。入り浸りの所長室――に隣接する、第一研究室である。
書類を抱えているのと反対の手で扉を押し開くと、廊下に漏れていた芳香が一段と濃くなった。香気の発生源が間違いなくこの部屋である証拠だ。部屋の最奥、金属で生成された机の上にドンと据えられた寸胴鍋を睨み下ろすようにして、部屋の主が立っている。
「ファーさん、またやってるのか」
声を掛けつつ手近な長机の端に持ってきた書類を置く。声に反応してちらりとベリアルを見返したルシファーは、しかしそのまま興味をなくしたように再び鍋の中へと視線を戻してしまった。
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