捻れの街にて(仮)「なー、一護ォ~~【空環駅】って知ってるか~?」
早い者は受験も終わった高校三年の三学期。自由登校になったとある冬の日のことである。
久々にいつもの面子が揃っていたからか、啓吾はふとそんな話を振った。
「空環駅? なんだそりゃ……この辺じゃ聞かない地名だな」
県内か? と首を傾げながら観光地か何かだろうか、と思考を巡らせるも、やっぱりそんな地名に聞き覚えはなかった。
すると、啓吾はやっぱ一護でも知らないか~と少しだけ残念そうな声音で云い──
「空環駅ってのはネット怪談とか都市伝説っぽいヤツ! 少し前に流行った【きさらぎ駅】みたいな!」
と人差し指を立てて見せた。
「怪談?」
「そそそ。黄昏時に空座駅から下り方面の電車に乗って暫くすると、たまに迷い込んじまうことがあるんだと! なんでも、嵯峨野っていうススキ野原に出たら、急に『次は~空環駅~空環駅~』ってアナウンスが流れて停まることがある……とかなんとか?」
普段は絶対に停まらないような場所で、そこに駅があるなんて誰も知らないのに。
で、ウッカリそこで降りちゃうと二度と帰って来れない~とか、帰してくれる人がいる~とか、そういう話らしいんだ。
「フーン」
啓吾の話に、帰してくれる人? なんだそりゃ、と思ったが──帰還例がないと都市伝説だ何だは成り立たないから『そういうもの』なんだろう。
そう一人納得していると。
「なーなー、放課後、本当にそんな駅あるのか電車乗ってみねー?」
啓吾は水色やチャド、石田を誘って皆でさ、と云った。欲を云うなら女子も! と付け加えながら。
この時はまだ、一護は信じていなかった。
本当に空環駅に辿り着くなんて欠片も思ってもいなかったのだ。