薄暮まるで長い夢を見ていたようだった。
憎き相手に列車のレール沿いで辱めを受けたことは不本意ながら記憶しているが、どうやらそこから先の夢も現実だったらしい。
公安のスーツを纏い、自分が何者か勘違いしたまま傀儡でいた事実はとんでもない屈辱だ。しかしそれを理解できているということは、マキマは死んだのだろう。
ボタンを留めたままの上着とシャツには己の血がべっとりとついたままである。今の身体には傷一つないため、靴が壊れていなければ歩くのに苦労はなかった。
爺ちゃんを殺したアイツはまだ生きている。
歩き続けていると、夢から覚めた直後はぼんやりしていた頭がようやく冴えてきた。そうだ。この身体はそのために手に入れたものじゃないか。
気の抜けていた身体に力が戻ってくる。目的を持っている者というのは、どうやらそうでない者より活発に動けるらしい。マキマに使われていた時の自分は、元来の何分の一の力のみ発揮していたのだろうか。まだ自分の心臓を悪魔にしたあの女の方がマシな扱いだったなと、ふと思い出す。
...きっとあいつも死んだのだろう。
解いたネクタイは既に捨ててある。ヘビと奴との合流予定場所に辿り着いたが、当然誰もいない。
まだ何かを忘れているような気がしたが、きっと大したことではないと思うことにした。