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    did_97

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    マサセイ前提でセボさんがやろさん、ねずさんと交流する話

    託した想い マサルがチャンピオンの座につき、ビートがアラベスクタウン、マリィがスパイクタウンのジムリーダーに新任してから、初のジムチャレンジが開催された。例年通りエンジンシティスタジアムで行われた開会式ではビートとマリィを含んだメジャーランクジムリーダーがコートに並び、最後に彼らの前に進み出でたチャンピオンは、とても十代前半の少年とは思えない程に、堂々たる振る舞いを見せた。
     マサルが登場するまで年若いチャンピオンへの不安を口々に述べていた観衆達は、彼がチャンピオンマントを翻し、迷いのない足取りでコートの中心に立つと、瞬く間に熱狂しだした。去年までの開会式はチャンピオンは出ず、ジムリーダーとチャレンジャーのみの紹介だったが、今年はマサル本人の提案で最後にチャンピオンが登場する段取りとしていた。結果試みは成功し、ガラルの民はマサルを新チャンピオンとして受け入れ、彼ならばこの地方を任せられると安堵したのだ。
    「それじゃ……ターフタウンに向かうとしますかね」
     セイボリーの隣で開会式を見ていたネズが、ヘルメットを手渡す。彼は元スパイクタウンのジムリーダーであり、今は歌手活動に専念していた。ローズがポケモンリーグ運営委員長を務めていた頃は毎年開会式をボイコットする常習犯だったようだが、今回はマリィがジムリーダーに就任して初の開会式だ。兄として、元ジムリーダーとして彼女の晴れ舞台にエール団を率いてやってきていた。
     式の終了後、セイボリーはネズのバイクに相乗りさせてもらう形でターフタウンに移動する。まだマイナーランクのジムリーダーであるためにジムチャレンジ期間中は日常業務以外の仕事がない。しかし未来のメジャーランクを目指す者として、最初のジムを守るリーダー・ヤローの試合模様を観戦させてもらう約束を事前に取り付けていた。
     ターフタウンに到着すると、既にアーマーガアのタクシーや電車で移動していたジムチャレンジ追いかけ組がスタジアムに殺到しており、ヤローのバトルを見ようと観客席を埋めていた。セイボリーとネズはリーグ関係者であるために混雑を避けて通用口から入れたが、まだ先発のチャレンジャーがミッションに挑戦している頃だというのに、熱気が凄まじい。このジムチャレンジが如何にガラル全土に注目されているか、セイボリーは肌で感じていた。そしてメジャーランクジムリーダーは、彼らの期待を背負った者として恥じぬ戦いをせねばならないのだ。
     普段温厚を絵に描いたような男であるヤローは、一体どんな試合を展開するのだろうか。ミッションをクリアした最初のチャレンジャーが、ヤローと対峙する。途端、スタジアムに割れんばかりの歓声が広がった。
     チャレンジャーを迎えたヤローは柔和な笑みでミッションクリアを褒め称え、しかしいざリーダーとしてコートに立つと顔つきが変わった。穏やかな目が吊り上がり、深緑の瞳に相手を圧倒する闘志が宿る。その様は、まさにチャレンジャーの前に立ち塞がる壁だった。くさタイプの持ち味を存分に生かし、一人、また一人とチャレンジャーを退けていく。
     見事打ち破ったチャレンジャーには心からの賛辞と共に、リーグ公認のバッジを渡していた。セイボリーが言葉もなくヤローのバトルに見惚れている一方で、ネズは自分の腿に両肘を乗せ、口の前で手を組んでいた。手の下に隠れた唇は弧を描いている。彼の戦いぶりを熟知しているからこその、信頼を込めた笑みだった。
    「あいつの人を見る目は確かです。おそらくこの時点で既に、勝ちあがれるチャレンジャーを見極めているでしょうね」
     ジムチャレンジは、当然ながらここを突破した後も続いていく。最初の試練を担当するヤローはバトルの楽しさだけではなく、シビアな現実をも突きつけていた。ここを乗り越えられない者に、チャンピオンへの道筋はない。チャレンジャーの覚悟を試す場を任された者として、彼は務めを十二分に果たしていた。



     本日の全試合が終了し、スタジアムのバックヤードでネズと別れたセイボリーは、宙に浮いたような足取りでターフタウンを歩く。ここに到着した頃はまだ青空が広がっていたが、今はすっかり夕焼け色に染まっていた。この町は半分以上が畑や牧場で埋まっていて、あちこちで季節に相応しい花が咲いている。
     そういえばネズから、ヤローは花卉栽培もやっていると聞いたが、彼が担当する畑はどこにあるのだろうか。ジムリーダーとして多忙な一方で家業も両立しているとは、筋骨隆々な見た目に違わず精力的な男性だ。
     ポケモントレーナーとしての本能か、彼の試合を見て高揚した熱がまだ体内に残留している。この後開会式終了を記念し、マサルと二人で細やかな祝いの会を行う予定なのだが、タクシーを捕まえる前に少しでも興奮を冷ましておかなければ。セイボリーは身を屈め、近くの花畑を眺める。茎を囲むように総状の花をつけているそれらは、名をヒヤシンスといった。紫、白、ピンクと色によって区画が分けられている。
    「ええと……セイボリーさんですよね。それ、気に入って頂けました?」
     声をかけられ、首を後ろに向ける。ジムリーダーの仕事を終えたばかりのヤローが少し膝を曲げて、問いかけてきていた。
    「この辺の花は、全部ぼくが育てたんです。もうじき出荷しないとなので、ちょっと寂しいんですけどね」
     ヤローは両腕を広げて四角の形をつくり、どこからどこまでの範囲が自分の担当なのかを説明する。彼が手塩にかけただけあって、花はどれも瑞々しい生気に溢れていた。
    「はい。実にエレガントですね」
    「もしよろしければ、少し差し上げましょうか?色によって花言葉が違うので、セイボリーさんが気に入るものがあればいいんじゃけど……」
     ヤローはそれぞれの色を指で差し示しながら、淀みなく花言葉を述べていく。花の生育方法だけではなく込められた言葉にも造詣が深いのは、単に自分が取り扱う商品の知識を蓄えているだけでなく、送り送られる者の立場を考えているからだろう。
     三種の内これから会う人物に最も相応しい花言葉を持つのは、白だった。セイボリーが躊躇いがちに注文するとヤローは一旦自宅に戻り、花バサミとラッピングペーパーを持って戻ってくる。ジムチャレンジ初日で疲れているのに申し訳ないと謝罪したが、彼は気にすることはないと微笑んでくれた。
    「ぼくが育てた花が、セイボリーさんの大切な人に贈られることを考えるとそれだけで嬉しいですから……」
    「な、何故ホワイそれを……ワタクシは何も……」
    「お顔を見れば分かりますよ。ああ、これは誰かのことを思い浮かべてらっしゃるんじゃなあって」
     ヤローがいそいそとペーパーにヒヤシンスを包む一方で、セイボリーは瞠目していた。ふとネズの言っていた”人を見る目”の話を思い出す。仕事の挨拶以外で交流するのは初めてなのに、感情の機微に聡く、まるでテレパシーを使ったかのように鋭く見抜いてくる。自分ではあまり意識していなかったが、彼に気づかれるほど表出していたのか。急に気恥ずかしくなり、頬が熱くなる。
    「それじゃあ……こちら、どうぞ」
    「あ……ありがとうございます……」
     セイボリーは渡された花束を受け取る。白いヒヤシンスは“あなたのために祈る”という花言葉が込められている。いつかメジャーランクジムリーダーとして相対するまで、マサルにはチャンピオンでいてほしいと伝えていた。しかし初日でターフジムを突破した新進気鋭のチャレンジャー達は、誰もが本気で勝ち星をあげようと駒を進めてくるだろう。
     彼らの気迫にマサルが押し負けてしまわぬよう、勝利への願いを花に託す。指先に力を入れて花束をしっかり持ったセイボリーは、深々と頭を下げて感謝の意を表明した。
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