「嘘と」「一ちゃん」
「どうしたの、マスターちゃん」
「ちょっと、疲れちゃった」
カルデアの広く長い廊下の真ん中で、斎藤は息を呑んだ。目の前の男がこうも容易く弱音を吐いたことに、至極驚いたのだ。
「立香ちゃん、」
なんと声をかけるべきか。夜食をともにしたあの夜言葉にしたそれは嘘ではなかった。嘘ではなかったけれど、準備はまだ、整っていない。その不甲斐なさに己を呪うことだけして今に至っていたのだった。
斎藤は大きく息を吸い込んで、そして
「立香ちゃん。いや、マスター」
「───なんて、ね」
「へ?」
「今日、エイプリルフールって言うんだ」
「えいぷりる、ふーる?」
「そう。嘘をつく日。ん?嘘をついてもいい日、だったかな?」
目を丸める斎藤に反して、マスターは口元に笑みを浮かべていた。両の手を顔の前で合わせて、「みんなの反応が毎年面白くて。騙すようなことしてごめんね」と戯けている。
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