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    うるめ

    小説とからくがきとか

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    うるめ

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    6月18日はジュン茨の日2023!ギリギリ滑り込みなので誤字確認してません。教官殿については茨がそう思ってるというだけで、そうだと言ってるわけじゃないです。

    デリバリーは満足いただけました?『了解っすよ~!仕事ならしょうがないっすからね!残念ながら食材はもう買っちゃって下ごしらえもしてるんで~』
    電話口からは屈託ない明るい声が聞こえてくる。
    今日は寮内サークルの活動日で、茨も参加予定だったのだがトラブルが発生した。こんな場合、仕事が優先なのは当然だけれど、主催に断りを入れるのも当然だ。多忙なアイドル同士が集まるため、できる限り全員が集まれるように日程を調整し、キッチンを抑え、食材を手配した人間がいるからだ。
    今回に限っては、その労力を費やした人間が特定できているからこそ代表の椎名にかけた。代表に話を通すという大義名分があってよかった。あの『教官どの』に連絡した挙句謝るだなんて絶対に嫌だ。言い負けるつもりはなくても絶妙に嫌なところを突いてくるのも確実なのでこの後の仕事に影響しかねない。気楽に声を掛けられる椎名を選ぶのは逃げではない。ここまで自分に言い訳をすること自体が
    まあ、人数が多少減ろうが椎名がいる限り食べ物が余ることはないとわかっているので気が楽ではある。
    「いえいえ!間際のドタキャンでご迷惑をかけているのは自分ですからね!金を返せなんてことは言いませんので、皆さんでいいように分けていただけたら!」
    話は済んだとばかりに切り上げようとしたら、電話口の向こうで「あ!」と叫ぶ声が聞こえた。
    「どうかしましたか、椎名氏」
    「あ~、副所長が参加しない分人を誘ってもいいっすかね!」
    なぜそんなことを自分に聞いてくるのかわからないが、適当にうなずいた。
    「ええ、ええ、全くかまいませんよ!人手が減って作業に支障がでるならどうぞご自由に」
    「あざっす!じゃあまた~」
    なんとも軽い挨拶であっさりと通話が切られた。コズプロの上層部としてはこの口調で仕事をされては差し支えるのでは……という危惧が頭を掠めたが、まあ椎名が前面に出る仕事はそうないはず。とりあえずこの件は解決したと頭から追いやり、また別の連絡先をタップした。

    **

    「こんばんは~、デリバリーです」
    結局、ひとつのトラブルが巻き起こした余波は夜まで片付かず、あれからずっとコズプロの事務所に詰めたままの茨は昼も栄養補助食品をかじっただけ。さすがに夜も食べないのは体に悪いと判断し、顔を出したコズプロの事務員に適当なデリバリーを頼んでもらうように頼んでいた。冷めても食べられるもの、なるべく片手で食べられるもので、とだけ頼んでいた。
    「は?」
    誰もいなくなった会議室に入ってきたのは、Edenのメンバーである漣ジュン。特に今日は一緒の仕事は入っていないし、特段事務所に用があるはずもない。
    「だから、デリバリーですって。多分仕事でまともなメシを食べられないだろうって、ニキズキッチンからのお届け物っすよぉ~」
    「……神崎氏なら言い出しそうですが」
    「よくわかってますねぇ~」
    へらりと笑ってジュンは担いできたバッグから次々と紙袋やタッパーを取り出し、いそいそとセッティングを始めた。
    「で、なぜあなたが配達を?」
    欠席の茨にできた料理を届けようと言い出すまではわかる。神崎なら言い出しそうだし、椎名が賛成すれば教官殿だってあえて反対はしないだろう。ただ、それをジュンが持ってくるのは不思議だし、単なる使いっ走りにEdenのメンバーが使われるのは業腹だ。たとえ日和にいつも奴隷のようにこき使われていようと、よその人間に使われるのはわけが違う。
    「たまたま昼から仕事がなくて、昼飯でも作ろうかなってキッチンに寄ったら……」
    「……椎名氏に捕まったわけですか」
    「なんで分かったんすか!?」
    電話中に奇声を上げたときに見つけたのがジュンだったということか。
    何一つ茨にとって悪いことはないけれど、自分のいないところで勝手に自分の話をされて、ジュンを使われるのは面白くない。
    「ジュンとは違うので!ご迷惑をおかけしましたが自分が頼んだわけでは!」
    「別に迷惑なんかじゃないっすよ、楽しかったし美味かったし。茨、機嫌悪いっすねぇ~、まあ人間腹が減ってたらダメっすもんね、ほら!」
    差し出されたのは、色とりどりのサンドイッチだった。今日作るメニューは全く違ったはずで、一瞬戸惑う。
    「やっぱ本職ってすごいっすよねぇ~椎名さん。食材はそのままでちょちょっとアレンジ加えてどんどん違うメニュー作っちゃうんっすよ」
    「え、自分のせいでメニューが変わったんですか」
    「いや、大枠は一緒ですけど一部取り分けてアレンジしてましたよぉ~」
    今日のメニューは茨と弓弦のリクエストで季節の野菜メニューのはずだった。確かに落ち着いて見なおすとパンに挟まっているのはサラダや和え物、夏野菜のラタトゥイユだ。
    「……おいしいです」
    「オレも作ってすぐ食べましたけど美味かったっすねぇ~、レシピは聞いてきたんで今度ナギ先輩に作ってあげたら喜びますよぉ~」
    確かにサンドイッチは美味しい。多分、そのままだと水分が多いからパンにはさめるようにアレンジしたのだろう。
    いつもあのサークル活動の時は弓弦と張り合ってけんかになり、意地を張り合った微妙な空気を椎名や瀬名にぶち壊してもらうのが常だ。
    もとより、サークル選びは「利があるかどうか」で選んだ。文字のレシピだけでは掴み切れない料理のコツやレパートリーを増やすこと。
    突然参加しても馴染んでしまうジュンに対して抱くこの気持ちは嫉妬か劣等感か。
    「いつもあのレベルのメシが食べれるサークルっていいっすね、みんないい人だし」
    「……ええまあ」
    ひとりだけ引っかかる部分はあるし、瀬名泉がいい人かと言われたらそうではないという気がする。確かにああ見えて値は善良ではあるだろうが、それ以前に全員癖が強い。
    「いやあ~オレ、実は明日提出の課題があって、茨に聞こうかと思ってたんですけど」
    「課題は自分でやるものでは」
    「自分でやってもわかんなかったんすよぉ~」
    「ジュンに高成績を求めはしませんが、イメージ的に落第は避けてもらわないと」
    「わかってますよぉ~、でも今回は伏見さんに助けてもらったんでばっちりです。あの人執事さんでしたっけ?優しいし料理もうまいし頭もよくて教え方も上手くてすげえっすよね」
    思い出すようににこにこ笑いながら言うジュンは心からそう思っているに違いない。確かに親切にはしてもらったのだろうし、茨だったら一言二言文句も言うだろうし、下手したら突き放しただろう。教官殿にとっての判断基準は主人で、たしかジュンとは漫画のサークルで一緒のはず。ジュンが誰かを害するはずもなく、普通に良好な関係を築いているだろう。であればジュンに対しては親切に振る舞うので、そこに悪感情など生まれようもない。
    でも、それがあいつの本質じゃないとどうしても説明したい衝動に駆られて顔を上げる。
    「あれが優しいのは見せかけですよ」
    「えっ、いやそんな」
    「……昔、少しだけ面識がありまして。あれは主人に害があるか否かが全ての判断基準であるサイコパスです。そして優しさなんてかけらもないスパルタ鬼教官ですよ、騙されないでくださいね、ジュン!」
    思わず両肩を揺さぶりながらそう言い聞かせると、驚いたらしくされるがままだったジュンが突然なにかを悟ったような顔でがしっと茨の手を取った。
    「すんません、昔からの知り合いの茨を差し置いてオレが仲よくしたらいい気持ちしないっすもんねぇ~」
    「は?」
    思ってもみないことを言われて固まると、わかっているという顔で頷かれた。
    「あれっすよね、オレに伏見さんを取られたような気がしたんすよね、茨もかわいいとこありますよねぇ~」
    「断じて違います!!」
    いくら否定してもジュンはわかっているという顔を崩さず、呆然とした茨を残して笑顔で帰って行った。
    仕事を再開してもさっきの会話に意識が戻っていく。
    確かにあの瞬間感じた焦りといら立ちは嫉妬だ。取られたくない、と強烈に思った。
    けれどそれはどちらに対して?
    正直、あの教官殿に対して今そんな親しみは感じていない。幼く拙いころの自分を知られているという点において互いにけん制しあってしまうだけだ。
    教官殿だけじゃなく、サークルメンバー全員に思ったのが証拠だ。
    ジュンを軽く見られるのが嫌で、ジュンが自分の知らないところであのメンバーと、特に教官殿と親しくするのが嫌で……つまるところこれはジュンに起因している。
    「あ~……くっそ……」
    気づかなければ平和でいられたのに。気づいてしまったらもう無視はできない。
    恋心が美味しくラッピングされてデリバリーされてしまった。
    まだジュンは自分が何を届けたのか全く知らない。
    「面倒くさいですが……気づいたからには手に入れないと!自分は強欲なので!」

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