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    ikawanarenohate

    @ikawanarenohate

    カ!ファ。狂聡 無法組
    あいかわやしろ/昭和生まれです/文字を書きます/カ!→映画(落ち)→ファ。/3914ダメな方フォロー非推奨

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    ikawanarenohate

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    狂聡学パロ4116
    教師×高校生です
    なんでも許せる方向け!

    成田先生と悪人ホイホイ岡くんの話「だからぁ、岡くんにしか頼めへんのよぉ~」
    「はあ」
    「はあ、やって! 聞いた~!?」

     同級生が怒鳴ると、狭いカラオケボックスは爆笑の渦に包まれた。

    (……あかん。完全にいつものやつや)

     僕はすでに諦めムードで、いかに意識を遠くに飛ばすかを考えている。岡聡実という性別判断困難な名前をもらって十六年、両親は何ひとつ苦労しないよう僕を育ててくれた。が、なぜか僕には、あらぬところから災厄が降ってくるのだ。

    (幼稚園のころから小学校までで誘拐と誘拐未遂で十二回、空き巣、強盗、痴漢現場に居合わせたことは数知れず。学校では空気になっとるのに、気づけば不良に目ぇつけられる)

     犯罪巻き込まれ体質、とでもいうのだろか。
     僕は最寄りの警察署も困惑するくらい、年中犯罪に巻き込まれる。
     おかげで転校歴も壮絶で、今の学校も転校してやっと三日だ。

    (ほんで、その三日目に不良にカラオケボックス連れ込まれとるし。前世でよっぽど罪でも重ねたんやろか、僕は)

     ガラの悪い高校生が五人も詰まったカラオケボックスで、はぁ……と深いため息を吐いていると、金髪の同級生が目を丸くする。

    「なんやその態度。ずいぶんキモすわっとるやん、岡くん!」
    「あー、すみません。ほんまに、お金はさっきのだけです」

     僕は深く頭を下げる。カツアゲにも慣れているから、ダメージが浅い金額だけを持ち歩く癖はついていた。だけど今回の同級生は諦めない。

    「うんうん、お小遣いありがとなあ。でもさぁ、ちょーっと金額足りへんから、おうちから持ってきてほしいなあって、そういうお願いなんよ」
    「ああ……」
    「な、タダでくれとは言わへん。岡くんさ、おもろいお菓子に興味ない?」

     首に腕を巻かれてニキビ面をどアップで見せられつつ、目の前に小さなジッパー付きポリ袋を吊り下げられる。中身は色とりどりのラムネに見えた。

    (けどなあ僕、知っとるで。これ、合成麻薬や)

     日々犯罪に巻き込まれていると、こういうことには詳しくなる。
     僕は死んだ目になって答えた。

    「それ、いくつ買ったら帰してくれます?」
    「ええ~~! 素直!! てか、そんな真面目な顔して、これがなんだかわかっとるやん。やっぱおもろすぎん!?」
    「……僕は、はよ家に帰りたい。それだけなんや」
    「あはは、そっかー! そしたら、三個からいってみよ」
    「はい。それ、いくら?」

     僕の雑な返事に、ニキビ面は、にいっと笑う。

    「おくちにあげる。あーん、や」

    (……めんどくさ)

     これでラリったらこいつらと同類だ。それよりもっと大量に飲んでぶっ倒れて病院行ったほうが、親が事情を察してくれる気がする。

    (うん、そうしよ)

     僕が雑に決意を固めたとき。
     ドンドンドン。
     カラオケボックスのドアが叩かれる。
     ちら、と見ると、黒い人影。

    「誰や~、何か頼んだ!?」
    「間違いやないの~?」
    「そんなことよりさぁ、気持ちよぉなてきたー……」

     ドンドンドン。

    「ええいうっさい、今ええとこなんやぞ! 黙らせとき!」

     ニキビ面が叫ぶと、ひょろりとした同級生が慌てて立ち上がる。
     ガチャリ、と鍵を開け、

    「あのなあ、間違い、」

     まで言ったところで、ドアが外から勢い良くけり開けられた。

    「がっ!」

     顔面にドアを叩きつけられ、同級生が大きくよろめく。

    (ヤバ)

     僕はぎょっとして腰を浮かせた。
     が、逃げ場なんかない。
     唯一の出入り口であるドアを開けたのは、真っ黒な人影だった。
     真っ黒。そう、どこからどこまでも、真っ黒。
     仕立てのいいスーツも、シャツも、ネクタイも、オールバックの髪も、ぴかぴかの革靴も、カラオケの照明で妙にギラッと光る瞳も。

    (ほんもの)

     僕の経験が、ぴこーんと警報を鳴らす。これは、ほんもの。チンピラや不良なんかとは桁が違う、ほんものや。
     そのほんものは、うっそりとボックス内に入ってくると、カシャリとスマホのシャッター音を響かせた。その顔には、貼り付けたような薄笑いが浮かんでいる。

    「失礼します~。ひー、ふー、みー、よー。学生さんが、六人かあ」
    「何しにきやがった、てめえ!」

     威勢よく叫んだのはニキビ面だ。目がぎゅっとつり上がっている。まるでピンチのときの小動物みたいだ。
     黒い人影はニキビ面を見ると、薄ら笑みのまま、ぽん、と肩を叩いた。
     それだけで、ニキビ面の体はびくんと反応する。頭の前に、体のほうが、黒い人影におびえているのだ。黒い人影は改めて背をただすと、圧迫感のある長身をさらして周囲を見渡した。なんだか、王様みたいな所作だった。

    「カラオケ来たら、店員さんが愚痴っとってなあ。学生さんの部屋の様子がおかしいて。ほんだら確かめたろ~言うて来たんやけど……ずいぶん気持ちよさそぉな子おるなあ? ん?」

    (……このひと、ええ声しとるな)

     こんなときなのに、僕は黒い人影の声に少し惹かれる。長身の大人特有の、よく響く低い声だった。自分でもそれを知っていて、体で奏でるように喋っている。小柄な僕には、一生手に入らない類いの声だった。

    「なんやオッサン! 部外者やないか! はよ出てかんかい!」

     ニキビ面はまだ吠えているが、黒い人影は気にせず座席に割り込んでくる。そうして合成麻薬でよっぱらった奴の隣に座ると、そいつの胸ポケットから学生手帳を取り出した。身分証部分を自分のスマホでカシャリと取って、元に戻す。
     さらにそいつ首に腕を巻きつけ、黒い人影はにっこり笑った。

    「やっすい匂い。ガキは体大事にせなアカンよ?」

     次の瞬間、黒スーツの腕に力がこもる。
     程なく、酔っ払った奴がぐるん、と白目を剥いて、力なくカラオケボックスのソファにくずおれた。ざわり、ボックスの中が恐怖で沸き立つ。

    「お、おま、今、何……」

     一転して真っ青になったニキビ面が、ぶるぶる震えながら囁いた。
     黒い人影は座席から出てくると、気絶した奴を指さしてこともなげに言う。

    「これ回収して、はよ帰り? こんなぐだっぐだのとこに踏み込まれたら、全員一発退学や。なんや具合悪いから送っていきます~でごまかして、あとは二度と手ぇださんどき」
    「で、でもっ」

     ニキビ面はまだ粘る。
     黒い人影はそいつの顔を見下ろすと、ぽん、と頭に手を置いた。
     そうして何をしたかというと、まるで子供にするように、くしゃくしゃと撫でたのだ。さらに顔をのぞきこみ、ぞっとするような美声で甘く言う。

    「はよお帰り。ネッ」

    (こ、こわっ……!)

     さすがの僕でも気絶するような迫力に、ニキビ面も負けたのだろう。

    「は、はい……」

     蚊の鳴くような声で答えて、どたばたと気絶した同級生を回収しにかかる。
     僕はその隙に黒い人影の脇をすり抜け、廊下に飛びだした。
     そのまま一目散に逃げていこうとすると、のんびりした美声に引き留められる。

    「きみ~。巻き込まれたときは、もっと気合い入れて逃げて~。せやないと、死んでまうよ?」

    (僕が巻き込まれたって、わかったんか)

     一歩、二歩、走り出してから、足を止めて。
     僕はおそるおそる振り返った。
     カラオケボックスの廊下で僕の方を見ている黒い人影は、こうして見ると、なんだかぞっとするほど造作が整っている。だからこそ、ますます怖い。

    「……抵抗しても、死ぬときは死んでまうので……でも、ありがとうございました!」

     僕は最後にそれだけ叫んで、カラオケボックスを脱出した。

    ■□■

     その翌日の、放課後のこと。
     僕はなぜか、引きつりながら地理準備室にいる。
     地図やら地球儀、さらに古い資料が山積みになったほこりっぽい部屋。その隅に置かれた事務机に座っているのは、腹が立つくらい足の長い男だ。

    「岡くん、昨日は大変やったなあ」

     白シャツ、グレースーツ、青のストライプネクタイを身につけた、彫りの深い長身の男。服装と笑みの種類はあまりに違うけれど、声と造作は完全に昨日見たのと同じ。カラオケボックスに乱入してきた、真っ黒な人影。
     そいつが今、昼下がりの学校でにこにこと笑っている。

    「……ほんまに、先生、なんですか」
    「他のなんだと思ったの~? 今日から地理の先生として赴任しました、成田狂児です。よろぴく」

     差し出された名刺を受け取っても、まだ戸惑いが抜けない。
     今朝の朝礼で体育館にやってきた成田先生は、女子の嬌声と、男子の無関心と嫉妬と、僕とニキビ面たちの卒倒しそうな青い顔で迎えられた。さらに僕は朝礼で成田先生とバチーンと視線が合い、放課後こうして呼び出されてしまったのだ。

    (昨日は絶対反社の人間やと思ったのに……いや、今の笑顔かてうさんくさいわ。こういう笑顔で寄ってきて、さらっと搾取してくのが反社や)

     やっぱりこいつ、ヤクザなのでは。昨日僕に目をつけて、搾取しようとしているのでは。
    疑いつつも、昨日助けてもらったのは本当だ。僕はおそるおそる頭を下げる。

    「……成田、先生。あの。昨日は、助けてくれて、ありがとうございます」

     成田先生は足を組み、その膝で両手を組みながら、小首をかしげた。

    「ん~。きみって、悪い奴に好かれるやろ?」
    「なんで、そう思うんです」
    「俺が岡くんのこと、好きやからかなぁ」
    「……は!?」

     何? 今、さらっと、何……⁉
     あっけにとられていると、成田先生はぬうっと立ち上がる。そうして鼻先三センチの位置まで近寄ってくると、妙に甘ったるい笑みを浮かべる。

    「なあ、これからたまに、先生のお手伝いしてくれへん? 俺さあ、この学校の悪いやつ、お掃除したいねん。そのための赴任や」
    「お、お掃除て……そんな先生おりますか!? 大体僕に、そんなお手伝いなんかできません!!」

     僕は必死に叫んで後ろに下がる。下がったぶんだけ先生が前に出る。まるで影がついてくるみたい。

    「岡くんはそこにおってくれるだけでええよ。いるだけで悪いやつ寄ってくるやん? そしたらそいつら、先生が退治したる」
    「退治て! い、嫌です、そんなん怖すぎます!」

     一歩下がる。先生が一歩出る。
     先生の目が細められる。黒い目、きらきら。

    「断っても、どうせ悪い奴、寄ってくるんちゃう?」
    「…………」

     脳裏にちらっと、今までの思い出が蘇る。きらきら光るカミソリとか、ナイフとか、男の、女の、怖い目とか、寒い空に出た白い月とか、裸足で走ったアスファルトとか。僕の目の前をよぎっていった全部の悪と、こいつの目、まったく同じ色しとる。
     息を詰める僕の前で、先生は囁いた。

    「ふ。怖がってる岡くん、かわええなあ。こんなんやから、ついつい寄ってきてしまうんやろなあ」

     いやや。
     もう一歩、下がる。背中が、壁につく。もう逃げられへん。
     先生は相変わらず、鼻先三センチから甘ったるく囁いてくる。

    「うんって言うて。そしたら守ってあげる。送り迎えもしたるし、GPS持たせてピンチのときにも必ず駆けつけたるよ。きみだけは絶対に傷つけさせない。約束する」

    (こいつは、悪い。ほんまに、悪い)

     僕は、唇を震わせる。

    「……こ、」
    「こ?」

     やさしー声。
     そいで、ほんまに悪い声。
     僕は言う。

    「……こわ、すぎたら……そのとき、は、やめます。お手伝い」

     それで、ええですか、と言ったら、先生の目はぱあっと輝いた。

    (うわ。子供の目ぇやん)

     僕はびっくりして瞬きをする。
     やっぱりそうなんか。このひと、絶対、すっごい悪い。
     悪いけど、声に嘘がない。
     昨日もそうや。僕を労った声にだけは、嘘がなかった。
     ……つまり、僕だけはほんまに心配してて、ほんまに守る気でいる。

    (でも、なんで……?)

    「ええよ! もちろんそんなん強制やない。いや~~嬉しいわ~! これからは毎日一緒やね♡ 合唱部の、さとみ、くん」

     女子高生並みにウキッウキした調子で言われ、僕は目を丸くした。

    「……へ!? ぼ、僕が合唱部だったこと、どこで知りはったんです!?」

     合唱部なんて、中学限りで辞めてしまった。中三では全国にも行けなかったし、中学がある学区からはとっくに引っ越している。偶然知られているなんてことはないはずだ。
     僕はまじまじ先生を見つめたが、彼はとぼけて視線を逸らした。

    「どこやったかな、遠い記憶すぎてはっきりせんな~。ひとまず今日から帰り、送ったるよ。せんせの支度が終わるまで、図書室で宿題でもやりながら待っとって?」
    「でも、あの」
    「聡実くん、お返事は?」

     名前で呼ばれると、心臓が跳ねる。
     なんでだかは、わからない。
     わかるのは、なんだか、とんでもない明日が来そうなことくらい。
     僕は返事に困ったけれど、視線の先にはさも嬉しそうに僕を見る先生の顔があって。埃がきらめく午後の教室で見るこの男は、やけにきれいに見えたので、

    「はい……」

     と、消え入りそうな声で答えてしまった。

    「お上手さん」

     低い声と共に頭にのっかった先生の手は、大きくて、思ったよりもよっぽど、温かいものだった。
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