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    tozuma_w2r2d

    @tozuma_w2r2d

    有料・イベントなどのネタバレやTRPGの感想など。捏造を含みます。

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    tozuma_w2r2d

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    前後編見てからご視聴下さい。
    教団捏造ストーリー

    カミサマの定義教団メンバーの「神様」についての捏造小説です。
    いわひら前後編を見てからご視聴下さい。
    ──────────

    「おはようございます、教祖様」

    部屋を個々に別けるためだけの扉。音なんて簡単に通してしまう木の板一枚を隔てて、落ち着いた声が寝起きの星辰の耳へ届く。
    ああ、気ぃ悪いな。
    ボソッと呟いた声すら反応出来るのか、部屋の主に許可も取らないで扉をバン!と開けた武太郎が慌てた調子で入って来る。

    「いつものお返事がなかったのですが!?気ぃ悪いとは私のことですか!?」
    「ごめんね。違う、違うから。ちょっとさ、ほら、夢見が悪かっただけというか」
    「はあ……夢、ですか?どんな内容で?」
    「君って偶にズケズケ入り込んでくるよね」

    こうして星辰は、時たま悪夢を見る。自分がこの拝掌教の教祖として信者の前に立つよりもっと前─力も立場も弱い、子として家族からネグレクトを受けていた頃の記憶。愛情というものは早々放棄され、孤独に生きていたあの頃。思い出すだけでこの双眸は下を向く。
    しかし、ここで武太郎に「孤児院に来る前の記憶」なんて伝えたところで、きっと彼も自身の境遇を思い出してしまうだけ。ならば誤魔化す方が賢明か。

    「あー…えっと、上手くお祈りが出来なかった夢かな?」
    「どうしてご自身の夢なのに疑問系で話されてるんです?しかし教祖様が夢とはいえ祈りに失敗するとは…逆夢ではないですか?」
    「逆夢ねぇ、だと良いんだけど」

    伏し目がちになった星辰の顔を、武太郎が不思議そうに覗き込む。お加減が優れないのでしたら今日はお休みされますか?なんて提案をもらうが、生憎そうも言っていられない。自分は"教祖"なのだ。救いを求める者には、等しく手を差し伸べなければならない。教祖としての意地が、星辰を突き動かす。

    「ごめん、待たせちゃったね。朝のお祈りを済ませて朝食にしようか」
    「本日もパンとトマトスープですよ。収穫が多かったらしく、笹くんが喜んでました」
    「そう。武太郎くんもしっかりトマト食べるんだよ?」
    「いえ、私はトマトアレルギーなので」

    真偽の掴めない返答を得て、星辰はベッドを離れる。てきぱきと祭服に着替え、武太郎を引き連れ大聖堂を訪れる。信者たちは熱心なようで、星辰達より早く聖堂に腰掛けていた。此方に気付いた者へは挨拶を返しつつ、二人は邪魔にならぬよう後ろの方で時間を待つ。

    「みなさん、おはようございます。本日も二週間後の大拝祭に備え、各人仕事に取りかかっていただけると幸いです。それでは、今日も健やかに過ごせるよう神に祈りましょう」

    前口上を述べ、大喜が祈りを先導する。星辰と武太郎も同様、神に祈りを捧げて大聖堂を跡にした。
    今日も昨日と同じよう、一日が始まる。

    「教祖様!本日も怠ることなく教祖様への祈りを捧げましたよ!昼を過ぎたら次は展望デッキで祈らせていただきますが、」
    「あのね武太郎くん。祈る相手は僕じゃなくって神だって何度言えば、」
    「おはようさん、二人とも。これから会議室だろ?俺も連れてけよ」

    武太郎の狂信ぶりを諌めようと発したところで、横から真菰が会話に入って来る。星辰が挨拶を返すが、後ろに控えていた武太郎はどこかピリッとした視線で返していた。

    「真菰さん、教祖様と距離が近過ぎじゃありませんか?」
    「あーはいはい、武太郎は嫉妬深いからな」

    仕方ねぇなと零し一歩後ろに控えた真菰が、武太郎と同じだけ歩幅をおく。それから周りの信者が道を歩く星辰に頭を下げるのを見て、ふと切り出すのだ。

    「鬼灯が相談者を減らしてるとはいえ、信者の数も増えてきたことだし…いっそのこと星辰も大拝祭で神として祀るか?」
    「真菰さんにしては素晴らしい案ですね!教祖様が神に成られれば、この教団も益々安泰することでしょう!!」
    「ちょっと待って急に何!?嫌だよ俺!?」

    本人の意思が尊重されることもなく、真菰と武太郎はキャッキャとはしゃいで祀り上げるならばと会話している。それはもう、目の前の教祖を置いていくくらいには。
    しかし星辰の悪い癖だ。ついつい動揺すると俺、と口に出てしまい教祖としての威厳がなくなる。頼むから教祖としての雰囲気を壊さないでくれと本人が頭を抱えたところで、気付かれることもなく。そこに、上がった肩をポンと叩く誰か。

    「うん?」
    [おはようございます]

    上げた視界に飛び込んだ、真白い一面。中心に書かれた筆跡と掲げる人物を見て、星辰はやや疲れ気味におはようと返した。

    [何かお困りですか?]
    「ううん、ちょっと武太郎くんたちが暴走しててね…」
    [やっぱりイグサを育てましょうか?]
    「違うんだ。畳に張り替えて欲しいんじゃなく、っていやいやいや!?イグサからは大変でしょ!?あー……それより笹くん、トマトがいっぱい採れたてんだって?いつも美味しい野菜を育ててくれてありがとう。今日のスープも楽しみだよ」

    やや強引な話題変換からの感謝だが、笹は嬉しそうに口角を上げる。言いたいことが沢山あるのかキュッキュッとペンを走らせ気持ちを伝えようとするのを、星辰はじっくり待つ。スケッチブックを見せてくる笹の表情は、何処か誇らしげだ。

    [孤児院の子たちが頑張って育ててくれたので甘くて美味しいトマトになりました]
    「そっか、じゃあ後で僕もお礼を言いに行かないとね」

    星辰はこう見えて意外と食いしん坊だ。楽しみだなと腹を摩りながら朝飯を期待し、ヒートアップする武太郎たちの代わりに笹を引き連れて会議室の扉を開く。中には既に、大喜と鬼灯がいた。

    「おはようございます、星辰様」
    「朝食の準備が整いましたわ。子供たちの育ててくれた野菜サラダもありますのよ、さぁお席へどうぞ」
    「おはよう二人とも。いつもありがとうね。折角みんなが準備してくれたんだ、サラダが新鮮な内にいただこうかな。……ほら、武太郎くん達も席に着いて!」

    ファミパン喰らわすよ!なんて声をかければ、武太郎は飛んできて床に正座する。

    「教祖様ぁ!!でしたら左肩からお願いしても宜しいですか?」
    「いやいやいや冗談だって!流石に家族には暴力振るわないけど!?」
    「しかし先程ファミリーパンチをいただけると仰ったではありませんか!」
    「それは言葉の綾でしょ!?いいから席に着く!パンを食べる!」
    「ですがまだこの身に拳をいただけでいないのですが…あ、可能でしたら真菰さんの分のパンチもいただけますか?」
    「うぇぇ…やだよぉこの信者」
    「両肩に教祖様からの痛みを感じたい」

    グイ、グイと星辰の足元に肩を押し当てて来る武太郎を眺め、大喜から「重いですわぁ」と呟かれる。鬼灯は「仲が良くて宜しいですね」と微笑ましそうだが。

    「あーもう!!ファミパンは後で考えてあげるから!一先ずお腹空いたし朝ご飯にしよう」
    「分かりました教祖様!」
    「うーん、武太郎くんはいつも元気過ぎるんだよなぁ。…さて、お祈りしようか」

    大聖堂で大喜が述べた口上を、今度は星辰が神に捧ぐ。いただきますと感謝を口にして、星辰はパンを千切る。やっぱり朝はパンだよねと好物へ好感触を見せるので、鬼灯も大喜も嬉しそうだ。

    「本日の相談者は星辰様が三名、武太郎様が一名になります」
    「子供たちは変わったところもなく穏やかでしたよ。ただ、男子用の浴場タイルが欠け始めていて危ないですわぁ」
    [でしたら畑仕事の後で修繕に行きます]
    「ありがとな笹。もし酷そうなら業者を入れるから教えてくれ。財務からは何もないが…今朝、武太郎と話してて面白いアイデアが浮かんだんだよ!」

    一足先に朝食を平らげた真菰が、目をキラキラと輝かせつつ武太郎との会話を共有する。

    「実はさ、星辰の銅像を等身大で造ろうと思ってて」
    「始めは金にする予定だったのですが、時間と資金が足りないので材質をどうするか考えている途中なのです」

    布巾で口を拭いた武太郎が、真菰に続くように横から口を開く。銅像!?と驚いた星辰は危うくスープを溢しそうになって、大喜から布巾を手渡された。相変わらず気が利く女性である。

    [木像はどうですか?台風以来ずっと放置していた倒木が山の中腹に残ってますよ]
    「あら、木製の像も良いですわね。年長の子供たちなら薪割りもしてますし、お手伝い出来るんじゃないかしら」
    「いくら教祖様のお顔を日頃拝んでいる子供たちとはいえ、ご尊顔を表現しきれるとは思えないんですが…しかし見ず知らずの業者に依頼するよりずっと良いですね」
    「木製でしたら大拝祭後は野晒しにせず、大聖堂に飾る方が良さそうですね。いや、いっそのこと相談会の会場に、」
    「やめて!?自分の顔が二つもあったら相談者さんも困るから!というか何で像の話になったの!?」

    こと星辰のこととなれば親バカならぬ信者バカを発揮する連中だ。やいのやいのと展開される話題は星辰にも止められず、事はどんどん進んでいく。

    「星辰は笹と飯の話をしてて聞いてなかったかも知れないが、お前を神として祀るかって話しになってな。武太郎も賛成してくれたし、折角ならって」
    「折角なんて軽い気持ちでやって良い行いじゃないでしょ!?」

    純粋な真菰の視線に気圧されるも、自分のことだからと星辰が必死になって止める。慕ってくれるのは喜ばしいことだが、それとこれとは話が別だ。

    「良いじゃありませんか。星辰様の像を見れば信者の方だけでなく、相談にいらした人々も安心出来ますよ」
    「学校の銅像みたいで素敵ねぇ」
    [大拝祭には間に合わせますから]
    「どうして肯定的なの…!!誰か俺の味方はいないの!?」

    鬼灯や大喜あたりが止めてくれると思っていた星辰だが、思惑は終ぞ頓挫する。ならば、一人で止める他ない。

    「あのさぁ、俺は神様じゃないんだよ?拝掌教にはちゃんと神がいるの!一神教なの!言い換えればただのリーダー、大きな教会さんで言うところの神父みたいなもんなの。媒介に過ぎないんだって。もっと神を敬ってだね、」

    この教団の家族たちは、偶に認識が擦れている。祀るならば本来、神を崇めるのが正しいのだ。

    「真菰くんだって小さい頃から一緒に見てきたんだし理解してるでしょ?!」
    「俺?…俺はそうだな、星辰が神様になってくれりゃ嬉しいと思ってるよ」
    「なっ、なんで…?」

    この十数年は何だったのか、つい零した言葉に反応し、真菰が口を開く。

    「だってさぁ、俺から見れば願っても助けてくれなかったヤツより、星辰の方がよっぽど神に見えるし」
    「だからといって媒介である俺を祀られても困るんだって」
    「いいや、違うね。星辰は自分の意思で力を使ってるんだ。その神の力を、な。だから神と言っても過言じゃない」
    「そんなの、ただ使えてるってだけだよ。神は平等であるべきで、」

    まるで禅問答。開祖と信徒のやり取りにしかし、鬼灯が横槍を入れる。

    「いいえ星辰様。貴方はお優しいだけなのです。全てを平等に救いたいと仰っているところを、私の手で数を狭めているから不平等と認識しているだけで」
    「まさか、俺なんて優しくもなければ平等でもないよ」
    「そのようなことはありません。星辰様が開いている門扉までの道を、私がこの手で細く舗装しているのが原因なのです」
    「だったら相談者の数を増やせば良いんじゃねぇか?」
    「真菰さん、何度も言いますが」

    また始まった。残された面々も呆れる鬼灯と真菰の意見のぶつけ合いはしかし、直ぐさま武太郎の一言で止められる。

    「鬼灯さん。私も神の力に慣れてきましたので、私の相談者を増やして下さい」
    「ですが武太郎様…」
    「私が行うのもまた教祖様と同じ神の御業。ならば誰が振るおうと、信者からすれば同じこと。差違もないでしょう」
    「……わかりました。話が逸れましたが、私も星辰様の像を祀るのは良い考えだと思いますよ。神のように祀られる星辰様は、さぞお美しいことでしょう」
    「"神のよう"じゃなく星辰は"神"そのものになるんだよ」
    「真菰さん、そこは履き違えてはなりませんよ。我々が星辰様を祀るのは、あくまで拝掌教の象徴として。星辰様とて人の子ですから、神に近しい存在には成れてもそれ自体にはなれないのです」
    「星辰が人の子?何言ってんだよ鬼灯。お前だって星辰の力に救われた身だろ?コイツは間違いなく神になる存在だよ」
    「恥ずかしいからやめてぇ…!」

    星辰も所詮は人の子だ。幾ら己を人でなしだの化け物だと卑下しようとも、褒められれば顔を赤らめ照れる。人間としての感情を捨てた神でも、ましてや怪物でもないのだ。

    「ねっ、ねぇ!笹くんも大喜さんも忙しいんだし止めてよ!第一に俺、神様じゃないし!」

    ならばせめて話題の相手を変えようと、星辰が話を振ったところで後の祭り。笹は事前に何を言おうか決めていたらしく、スケッチブックをぱらりとひっくり返すと星辰に文字面を見せつける。

    [教祖様のことは子供たちみんなの父のように思います。見守ってくれる優しさはお父さんみたいです。でも困っている人に祈りを捧げる姿は神様の姿そのものだと思います]
    「笹くんまでそんなぁ…」

    当てが一つ外れた。ぐぬぬと呻く。それにしても、25歳結婚歴も子供もなしで父親に似ていると思われていたとは。言動がおじさんからではないと思いたい。

    「私はそうですねぇ…孤児院で子供達とお喋りするお姿を拝見すると、先生のようにも感じますわぁ。悪いことをした子たちに言い聞かせる姿が特に。その点で言えば父親というのも強ち間違いじゃないのでしょうね」
    「じゃあ大喜さんも思うよね!?俺は神様なんかじゃないって!」
    「ふふっ、それとこれとは別問題でしょう。お力を使うところは正しく神の権化。あれを人と呼ぶのは些か難しいかと」
    「おっ、お願いだから孤児院でそれを言いふらしたりしないでね…?」
    「ですが、子は皆等しく神の子ですから。神の奇跡、親の行為は子に正しく伝えませんと。そうだ、教祖様にお仕えするあの子たちもまた天使なのでしょうね」
    「それは子供が可愛いって親バカ目線の話では、」

    あら教祖様、何か仰いました?聞こえない振りの問いかけに、星辰の背へ一筋汗が滑り落ちる。ひッ!?と短く零して声の主を見遣れば、ニッコリ微笑む大喜の姿。それは院長でもあり、母親の顔でもある。逆らわない方が吉と見るべきか。

    「兎に角、これで僕には反対してくれる人間がいなくなったって訳だ…ハッ!?そうだ武太郎くん!武太郎くんは俺の像なんて要らないよね!?」
    「私個人としては欲しいですが」
    「あああ…やっぱりそうなるのね」

    一縷の望みに賭け尋ねるも、武太郎とて同じらしい。ここは「教祖様がそう仰るなら」と拒んで欲しかったのだが。

    「ですが、教祖様がご不快なのでしたら諦めましょう」
    「…えっ?」
    「教祖様が我々の愛を受け取って下さらぬは残念ですが、」

    おいおい泣く振りを始めた武太郎の肩を、みしりと星辰が掴んで前後に揺さぶる。力も圧も強過ぎて、武太郎はいよいよ壁に追い込まれた。きっと脳みそは、ぐわんぐわん揺れているのだろう。

    「ちょっと待ってよ!?君、さっきまで銅像を造るとか神として祀るって言ってたよねぇ!?」
    「あっ、教祖様!教祖様の色白で華奢な指が私の肩にめりめり入り込んでッ!朝から壁ドンなんてそんな大胆な!」

    弾んだ声を出す武太郎に、悪寒の走った星辰は直ぐ手を離す。ごめんと軽く謝ってから、どういう心境の変化か問いただした。

    「何故と言われましても…教祖様が嫌だから止めろと言われれば、私共も止めますが」
    「どういう気の変わりよう!?君だって俺のこと神様だ何だ言ってたじゃないの!」
    「ええ。私の人生を変えて下さった、手を差し伸べていただいたあの日から"私の神様"であることに変わりはありません。それは例え貴方様が何と言おうとも、変えるつもりもありません」
    「だったらどういう…?」

    星辰の頭上には、もう数え切れぬほどの疑問符が浮かび上がっていた。ただでさえ家族から神だ父だ先生だと言われ混乱していたのに、追い討ちをかけるが如く返されては思考も割けない。グルグル目を回して唸るのを、気付いたら真菰に心配される。

    「だって、教祖様は一度たりとも"像は要らぬ"と仰らなかったでしょう」
    「はへ?」
    「貴方様が神かどうかと、大拝祭に向け像を建てるかどうかは話が別です。神が否かと問われれば、此処にいる者は皆救われた身。肯定を示すでしょうが…像に関して言えば、本人に要らないと言われた時点で計画もおじゃんですよ」
    「はあああああ!??」

    あんなに必死になったのに!?と大声上げる星辰に対し、真菰も鬼灯も汗を垂らす。造る方向で事を進めようとしていただけに、武太郎からの発言には驚かされた。流石は狂信者、星辰第一主義である。弄ばれた星辰なんてほら、握り込んだ拳をプルプル振るわせて目線を下げていた。

    「ですが、もし教祖様が我々信者の行為を無碍にして申し訳ないと思うのでしたら…口噛み酒や野犬の皮を使った教祖様とお揃いのお召し物なんていかがでしょう!酒を嗜みつつ、教祖様とお揃いの服に身を包むッ!どれほど素晴らしいことか!」

    ゴキャッ。右耳に飛び込んできた音と風に、一拍遅れて武太郎が横を向く。目線が動けば、反対に口は止まった。にゅっと伸びた白い蛇の頭が、パラパラと壁材を床に落とすと持ち主の元へ帰っていく。祭服についた埃を、隣に来た笹がぱたぱた叩いている。

    「ごめん真菰くん。今月の修繕費、また増えちゃったね」
    「あー…大丈夫だよ、星辰。元から壁の修繕込みで予算計上してるからさ」

    ガラス細工のような精巧な作りを持つ黒い瞳が、にんまり細まる。陶磁器に似た白い顔に浮かぶ口は、端をニィッと上げて当人の機嫌を窺わせた。綺麗な拳の後が、白い壁に出来上がる。星辰の拳のサイズを実感し悦に浸るのは皆が見て見ぬ振り。あわよくば私が受けたかった、なんてめり込んだ拳跡を撫で恍惚とした武太郎の肩に、ポンと手が置かれる。

    「武太郎くん、後でお話ししよっか」
    「教祖様と二人きり!?後と言わず今からでも!」

    冷え切った空気の中、一人温度とテンションの上がる武太郎を眺めては「星辰にそんな態度取れるの、お前だけだよ」と真菰を始めとする面々は呆れ返るのだった。朝食が終われば、またいつもの日常が始まる。
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