放空(タイトル未定)空は一人夜の塵歌壺に佇んでいた。目に光の無い暗い瞳は天を見ているようで、空虚を覗いている。碧がそのような様子を初めて見つけたのは彼が屋根の天辺に座っている人影を不思議に思って登った時だった。旅人として人や動物、物の気配に人一倍敏感な空にしてはおかしいほど、近づいても碧に気づく事は無かった。「きみ、どうしたんだい?」と声をかけてようやくこちらを向いたぐらいだ。いつもは朝日のような瞳が澱んでいるのを見て、碧は少しばかり動揺した。それもそうだろう。さながら"人形"のような硝子玉の瞳であった。
碧を捉えたその硝子は二三瞬きをした後、朝日にすり替わっていた。
「どうしたの?」
「『どうしたの?』って、それはこちらの台詞なんだけど?きみ、僕が近づいてきた事に気づいていなかっただろう?」
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