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    kan_pen_sr

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    kan_pen_sr

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    🎭陣営所属🦚ifのレイチュリ

    彼らの第n公演 ふんふんとご機嫌な鼻唄と共に、リズムに合わせた軽やかなステップを踏む。まるで踊っているみたい。独りきりなのに可笑しなことだ。
     爪先が地を蹴るたびに、ポケットの中のチップがシャラシャラと鳴る。同胞のあの少女みたいな綺麗な鈴の音ではないけれど、あの子の耳にとっては上等の音楽だった。今日この日、覆しまくった敗北オッズへの賞賛の音だ。ああ本当に、!目の前にいた相手の顔が、馬鹿にする態度を隠そうともしない見下したツラが、みるみるうちに崩れて歪んでいく様は面白くて仕方がなかった!
     後は誰か、この軽やかな気持ちをもっと昂らせてくれるようなダンスパートナーがいれば、もっともっと愉しい気持ちになれるのに――――

    「……あは。今日の僕は、

     思わずニンマリと、口角が吊り上がっていく。はしたない、はしたない!

    「……君のその顔はいつ見ても腹立たしいことこの上ない」

     片手に本を持ちながら堅い声で言い放ったその男は、どうやらとっても不機嫌みたい。愉快げな表情をますます深くするあの子とは正反対。

    「酷いなあ、自慢の僕の顔を見て腹が立つなんて。やあ教授、久しぶりだね!数日ぶりかな?数ヶ月ぶりかな?はたまた数年ぶりかな?まあどれであろうと大した意味はないんだけど!」
    「相変わらずベラベラとよく回る舌だ。口を閉じる方法を知らないのか?」
    「さあどうだろ?首を切り落としたら止まるのか確かめてみる?」

     “切り落とせたら”、だけど。
     戯けた調子の中に忍ばせた嘲笑という名の棘に、男は更に気分を悪くしたようで、眉間に皺がどんどん増えていく。あの子の軽薄な態度も、無意味な演説も、細い流線を態と見せつけるような蠱惑的な舞台衣装も、彼にはとても不快だったみたい。もう何度も目にしているはずなのにね。

    「いい加減黙れ」
     そんな冷たい言葉と共に、その指先と筋骨隆々とした腕が閃く。瞬間、つい先ほどまであの子が立っていた場所には大きな大きなクレーターが出来ていた。まるで月面を抉る隕石みたい。
     あの子はといえばいつの間に身を翻していたのか、少し離れたところに軽々と着地してケラケラと笑う。
    「いいね、遊ぼっか?遊ぼうよ教授!今日の僕はとっても気分がいいんだ、でもちょうど独りでつまらなかったんだ!君という遊び相手ならきっと退屈しないだろうね!」
    「喧しい」
     ドゴン。ヒラリ。
     また投擲物が地面を割って、また痩身が宙を舞う。
    「釣れないなあ、僕に会いに来てくれたんじゃないのかい?」
    「君の頭にはおが屑しか詰まっていないのか?僕の仕事は君をひっ捕えてカンパニーへ受け渡すことだ。あれだけ派手な“勝ち”をすればこちらの耳に入るに決まっているだろう、阿呆め」
    「なぁんだ、ただのビジネスの関係ってこと?それは悲しい、僕はこんなに君にホンキなのに!」
    「耳障りな戯言ばかりだな、忌々しい道化師ジェスターがッ……!」
    「ノンノン、“それ”は嫌だって何度も言ってるじゃないか。僕のことはこう呼んでよ、」

     アベンチュリン、って。

     脱走したツガンニヤの死刑囚をまんまと逃したカンパニーを揶揄するその偽名。
     それをあの子は、甘く甘く舌の上で転がすように言う。
     まるで、それだけでハイになってしまうような、特上の砂糖菓子みたいに。

    「ふん、仮面の愚者はいつのまにそんな煌びやかな派手者集団になった?」
    「おっと、それは君の思い違いだね。僕たち愚者はいつだってキラキラ光ってチカチカ瞬くものが大好きさ!舞台上のコンフェティみたいで綺麗だから!」
     ただ避けるばかりのあの子に、男は痺れを切らしてきているようで、武器を投げつける勢いが増していく。いい加減この遊びも終わりにしたいらしい。
     
    「愉しいね、愉しいよ教授!君はどう?愉しくない?愉しくないだろうね。だって君ってばさっきからずっと、手を抜いてばっかりだ!」
    「チッ、なんのことだ、誰が――」
    「じゃあなんで、」

     
    「殺すつもりがないのかな」


     ひそりと。
     ピタリと背後で、耳のすぐ後ろで、吹き込むように、囁かれる。

     きっと男の背にはぞわりとした悪寒が走ったことだろうね。彼は重心を移して勢いのまま背後へと身体を回しながら、殴りつけるように腕を振り抜く。
     けれど切り裂いたのは夜の冷たい空気ばかりで、代わりに返されたのは、
     チュッと触れるだけの、鼻先への逆様のキスだった。

    「なっ、……!」
    「あっははははは!!!そうそう、その顔、その顔が好きなんだよレイシオ!僕とのギャンブルに負けた奴が絶望する顔よりも、僕を馬鹿にしてきた奴が殺される時の顔よりも、僕のことが大嫌いらしい世界のありとあらゆる顔よりも――君のその顔が、大好きなんだ!!!」
     舞台の大詰め、クライマックスの台詞を紡ぐように。あの子は手を大きく広げて嗤う。
    「なあレイシオ、カンパニーは僕をどうしたがってる?Dead or Alive生死問わず?だろうね、奴らは顔に泥を塗った死刑囚なんて息の根が止まればどうだっていいものね!なのに君はさっきから殺気のないなまっちょろい攻撃ばかり、いったいどうしたっていうんだい?そもそも博識学会の栄誉たる君に、カンパニーの賞金首なんてなんの必要もないだろうに!」
    「煩いッ……!」
    「ああそれとも、」

    「君も、?」

     ピタリと、空気が凍りつく。照明が落ちる。煌びやかなステージの上、二人だけに冷ややかなスポットライトが当たる。
     皮肉げに顔を歪めるあの子と、目を大きく見開き言葉を失う彼。

    「――そう。じゃあ今度はもっと悦んでもらえるように、もっと面白い“仕掛け”をしないとね。この程度の謎解きじゃ君はいつか飽きてしまう」
     けれど今夜はここで終幕。そう言わんばかりにあの子はどこからともなく奇妙な拵えの仮面を取り出して、そして顔へと当てる。
    「ッ、待て……っ!」

     男が掴み掛かろうとしたその刹那、ポンッとコメディックな効果音と共に煙が巻き上がる。
     マジックみたいにあの子の姿は消え、地面に落ちた仮面が立てるカラカラとした音は男を嘲るかのよう。
     酷く腹立たしそうに明確な舌打ちをした男が、床に落ちた孔雀色の仮面を手に取って――

     ――ケタケタケタケタ!!!!

     まるで自己主張の強すぎる目覚まし時計みたいな大声をあげて、舞踏会用の装飾が一人でに笑い出す。驚いて仮面を取り落とした男に、最後にあっかんべぇと舌を突き出してくるりと一回転、小さなトークンに変身して――今度こそ、それは地面で微動だにしなくなった。

    「……嗚呼くそっ……!」
     怒っている……というよりは、悔しがっている?そんな風に男は靴の裏でトークンを踏みつける。キラキラと健気に輝いていたコインの表面はあっという間に泥まみれ。
    「今に見ていろ、あの愚鈍な道化め……!貴様は必ず、」

     果たしてそれは、責任感?使命感?あるいは……もっと別の、ナニカなのかな?

    「この僕が、治療してくれる……!」

     それ言うの、何回目?あの子がそう愉しげに笑う声が、吹き荒ぶ風の中に混じっているようだった。


     ああ面白たのしかった、面白うれしかった!
     あの二人の舞台は何回見ても飽きやしない!
     どうかどうか、千秋楽なんてこないでおくれ。
     どうかどうか、また次も観せておくれ。

     アッハはとても、満足だ!
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