ルシアダ サンプル予定(ほぼ確定版) 暗い海の底を漂っているような、そんな感覚だった。全身が穏やかな波に揺られ、自分の意思とはまるで逆の方向へと押し流されていく。気がついた時には陸へと戻れないような深い深い水の奥底へと追いやられているような。
長く病を患った後のような靄のかかった脳みそは、己の置かれた状況をまるで理解していない。それどころか自他の境界、いや自分自身の正体さえ不明瞭で、混じり合うミルコとコーヒーのように自分というものが薄らいでいく感じがした。ただ分かることは何か大きなものを失った喪失感と、両肩からとてつもなく重たい荷物を降ろせたという安堵感だけ。
そんな風に自我すら曖昧なまま、どれくらいの時間彷徨っていたのだろう。
カーテン越しの日差しによって朝の訪れを理解するように、ふとした拍子に緩やかに意識が浮上し始めた。
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