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    舞木ヨモギ

    @yomogibl

    松をあげる垢。24多めの予定。

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    舞木ヨモギ

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    『風と来たりし猫の恋』展示小説その6です!パスワードは『旅日記に君をのせて』でした!

    グラいちオムニバス第陸話 難敵 草木も眠る丑三つ時。町外れの廃ビルが何やら騒がしかった。建物の中では男が二人、睨み合っている。片方は坊主頭にサングラス、和服といった格好で刀を構えている。もう片方は全身を白のスーツに包み頭にも真っ白な帽子を被っている。坊主頭が刀を鞘から出した途端、白スーツが銃を撃った。パン、パンッとテンポよく放たれたそれは、坊主頭の刀によって斬られた。白スーツはくつくつと笑い声をあげる。
    「相も変わらず鋭い刀だなあ、カラマツ?」
    対するカラマツ―カラ松もサングラスの奥で笑った。
    「そっちこそ、ちっとも落ちぶれていないじゃないか、一松」
    実はこの二人は、これまでに何度もエンカウントし、その度に激しい戦いを繰り広げてきた。しかし、互いに命を狙っているわけではない。いつからだったか、もう戦いが出会った時のお約束のようになっていたのだ。
    きっかけは数年前のよく晴れた日だった。海の見える町をぶらぶらと歩いていたカラ松が一松の組織の取引現場を目撃したのだ。それが違法なものと分かるやいなや、カラ松は突撃しその場にいた人間は全員捕まえた。事件はその夜起こった。ひっそりとした路地でカラ松が眠りにつこうとしていたその時、目の前に白い影が現れた。
    「ズドラーストヴィチェ!いい夜だな」
    見上げると全身白を纏った男がこちらを見ていた。
    「ずど……?」
    「あぁしまった!こんばんは、だな、マツノカラマツ」
    「何故オレの名前を?」
    カラ松は自分の顔が割れていることにはそこまで疑問を持たなかった。しかし、名前は違う。日本中旅を続けてきたが、カラ松の名はグラサン風来坊で通っているのだ。オレの本名を知っている奴なんて数えるほどしかいない。しかもこの男、顔は日本人っぽいが喋りに海外特有の滑りやつっかかりを感じる。一体何者なんだ?カラ松の眠気は吹き飛び、臨戦態勢に入っていた。それを見てか、白い男は内ポケットから銃を取り出した。
    「なっ……ここは日本だぞ!銃なんて何処で」
    「それならアンタの持ってる真剣はどーなんだよ」
    「あ、それは」
    「ま、そんなのどーでもいい。昼間はおれの仲間が世話になったみたいじゃねえか」
    「昼間……お前まさか」
    カラ松の刀を持つ手に力が入る。あの違法な取引。アイツ等の仲間だとしたら、コイツも捕えるべき存在だ。カラ松は相手を睨んだ。相手はけたけたと笑い出す。
    「ははは!そのカラッポの頭でもようやく分かったみたいだな」
    「お前は何者なんだ」
    「ハッ……名乗れるような名前なんてねえよ」
    「何故犯罪に手を染めたんだ」
    「アンタには一生わからねえよ」
    「お前の未来を棒に振ることになるんだぞ!」
    「うるせえないっちょまえに説教しやがって!」
    銃口から弾が出てくる。あ、これオレ死ぬな。実弾とやりあったことなんて一度もない。……でも、それを捌ける者だって存在する。オレにも切れるか?その間ゼロコンマ一秒。カラ松は第六感を頼りに刃を振るう。キンッ、と金属同士がぶつかる音がして、弾は地面にぽとりと落ちた。
    「あ……」
    できてしまった。カラ松が呆気に取られていると上気した様子で男が歩み寄ってきた。
    「お前すごいな!これがサムライってやつか?」
    「いや、」
    絶対違う。チャカとやりあう侍なんて聞いたことない。けれど、男は目を輝かせてカラ松を見つめている。
    「気に入った!おれのこと、好きに呼んでいいぞ!」
    「えぇ……」
    そう言われても、さっき名乗る名はないと言われたような。カラ松は頭を捻る。なんて呼べばいいんだろう。これがアイツの気に障ったら、いよいよまずいんじゃないのか?男は銃をくるくると回しながらカラ松を見ている。
    「一松、はどうだ?」
    咄嗟に思いついた言葉が口をついた。一番ヤバそうな奴。でもいち、とかだと捻りが無い気がする。そこで自分の名前から松の字をとった。男、命名、一松は嬉しそうに自分の名前を口ずさんでいる。一気に獅子の牙が抜けたな。一松は銃を仕舞った。
    「次会う時が楽しみだな!じゃあな、カラマツ!」
    「えぇ……」
    一松は手を振って帰っていく。え、これいいのか?アイツ仲間の仇を討ちに来たんだよな……。一体何がしたかったんだろう。その日は目が醒めてしまい一睡もできなかった。
     飛んでくる弾を斬る。初めての出会いから何度も何度も刀と銃を交わした。一度ガトリングガンを持ち込まれた時は危なかった。あのせいで首に巻いている布がボロボロになった。今日はいつもの銃、もう慣れたものだ。なかなか間合いを詰めることはできないが、距離を離されることもない。その時だった。不敵な笑みを浮かべていた一松の顔が曇る。銃からはチャッ、と間の抜けた音がした。弾切れだ。好機。カラ松は一気に距離を詰める。それに気づいた一松も弾を込めながら後ろへ逃げようとするが、カラ松が一枚上手だった。足払いをかけて一松を転ばせ、刃を向ける。
    「これで終わりだ」
    カラ松は刃を振り下ろす。刹那、柔らかい感触がした。不審に思うと、一松の右手がカラ松の刀をしっかりと握っていた。その手からは血液が滴り落ちていた。真っ白なスーツの袖口が朱に染まっていく。カラ松は焦った。怪我をさせない、殺さないのが二人の暗黙の了解だった。その均衡が崩れ落ちてしまった。
    「すまない、一松!怪我をさせるつもりはなくって」
    「別に気にするな」
    「でも血が」
    「いつ死んだって構わねえ人生送ってんだこっちは」
    「駄目だ!」
    一松が驚いた顔をした。
    「オレはお前をお縄にするために今まで戦ってきたんだ。今いる組織から足を洗うんだ。死んで逃れようったって、そんなこと許さない」
    「お厳しいこった」
    一松はゆっくりと息を吐いた。
    「それじゃあ夜も長いし、ちょっとばかしおれの昔話にでも付き合ってよ」



     一松の生まれはスラム街だった。スラムと言っても、小学生が教科書で見るようなものじゃない。金がない上に、治安が悪く、人ばっかりがごちゃごちゃしている。そこでは女子供は虫けら同然だった。一松には名前が無かった。無くても全く困らなかった。毎日毎日農場に駆り出されても、満足に飯も食えない。長く働こうものなら夜道で乱暴に遭う。一松の住む所は特にひどかった。働きに出た近所のお姉さんが体液まみれで死体になって帰ってきたこともあった。どうにもここの治安が悪いのは裏社会との繋がりが深いかららしい。ある日一松は畑に行く所を捕まえられ、奴隷として売りに出された。結論、買われた所は最悪だった。初めてスラムが良い場所だと思えた。一松は使用人というよりも、ご主人様のおもちゃだった。殴る蹴るは日常茶飯事。色々な拷問を試された。幸い再生ができないようなことはされなかったが、死んだ方がましだと何度も思った。後から聞いた話だと、ご主人様にそういう趣味がなく性的に求められなかったのもかなり興奮な方らしい。何処と比べてんだよ、と内心舌打ちしてソイツを殺した。爪を剥した所に焼きごてを押し付けられたこともある。痛みに意識が飛んでも決して終わることのなかった拷問の数々。そんな日々は突如終わりを迎える。奴隷を買ったことから薄々感づいてはいたが、ご主人様は裏社会の人間だった。そして、かなり恨みを買っていたらしい。家にマフィアが押し入り、家は血まみれになった。一松が奴隷なのは分かっていたらしく、突入してきたマフィアのリーダーのような人が一松に声をかけた。
    「一緒に来るかい?」
    来なければ、死。一松に選択肢は無かった。
     マフィアに加入してからの一松の勢いはすごかった。あっという間に同時期に加入した者達の中でも頭角を現し、加入後半年程で幹部にまで上り詰めた。今まで先輩風を吹かせていた奴等が媚びを売る姿を見るのは実に愉快だった。一松が十五歳の時に、先代のドン、ひいてはあの日一松をマフィアへと導いた男が寿命で亡くなった。この世界にいながら生命を謳歌できたのはかなりレアケースだ。それだけ一松の所属する集団はしっかりしていた。先代の遺書にはまだ十五歳の一松をドンにするように、とあった。反対の声も多く上がったが、一松はそれらを全て実力でねじ伏せた。何一つ不自由のない暮らし。呼べば誰だって来るし、足りないものがあってもすぐに補填される。しかし、そこにはいつも何かが足りなかった。所属している人は皆自分をドンとして慕ってくれる。それじゃあ、もしおれがドンじゃなくなったら?あり得ない話ではない。今の立場じゃなくなったら?自分が上司になった瞬間に腰が低くなった元上司を一松は知っている。これから自分よりも有能な人が現れて、そいつに組織を任せることになったら?不安は尽きることが無かった。



     一通り話し終わって、一松は大きく息を着く。血はほとんど止まっていた。傷が刻まれた手を閉じたり開いたりしながら一松は呟く。
    「おれ、アンタが初めてなんだよ」
    「オレ?」
    「カラマツだけだ。おれをおれとして見てくれたのは。馬鹿みたいだよな、組織に戻ってもお前のことばかり考えてる。おれはもう何も恐れなくていい、自由なはずなのに」
    「一松……」
    「会う度に心が躍るんだよ。戦ってる時、この時間がもっと、ずっと続けばいいのに、って思う。何かな、もうアンタ無しじゃ生きられない気がしてる」
    「そうか……なあ一松、一ついいか?」
    「いいよ、罵倒でもなんでも、甘んじて受け入れるよ」
    「今のお前を見ていてもちっとも自由になったとは思えない」
    「は?」
    「お前はまだ、囚われてる。それが過去なのか、未来への恐怖なのか、オレには分からない。でもな、少なくともさっきのお前は『自分が自由だ』って無理やり言い聞かせてるみたいだったぞ」
    「……っ」
    虚を突かれたようで一松は固まる。その時、外が騒がしくなった。夜明けまではまだ遠いのに。サイレンの音。足音。足音。カラ松は瞬時に判断する。
    「警察だ……」
    このビルなら大丈夫だと思っていたが、意外に銃声は響くものらしい。ここから少し離れた家から通報を受けた警察が続々と廃ビルに突入してくる。これは、まずい。幸いここは一階ではないから、警察が来るまであとわずかだが時間がある。カラ松は一松に目配せする。一松は了承の意味を込めて頷いた。ビルが最後に使われていたのは数年前で、机やロッカーは撤去されている。さてどうしたものか。カラ松が考えていると、勢いよく扉が開かれた。



     「……!?」
    「……」
    静かにしろ、意を込めてカラ松は首を横に振った。何でかは分からない。体が勝手に動いていた。天井裏の秘密の場所。成人男性二人が入るのは流石にきつかったが、この際文句は言っていられない。ここでやり過ごそう。一松は混乱していた。何で。コイツおれをオナワにしたかったんじゃないの。何で一緒に隠れてんの。狭い空間に、二人。カラ松の匂いが充満している。一松は胸の高鳴りを感じていた。
     足音が遠ざかっていく。二人はようやく隠れ場所から出た。一松の顔は真っ赤だった。カラ松は肩を回している。ふと振り返る。カラ松は一松の異変に気がついた。
    「どうした一松?暑かったか?」
    「う、何でもない」
    ふい、とそっぽを向く。この感情に名前を付けてしまったらお終いだ。本能がそう告げている。一松はそっぽを向いたまま、口をもごもごとさせる。
    「何でおれのこと助けたの……捕まえたいって言ってたじゃん」
    「あぁそのことか……」
    カラ松は頭をぽりぽりと掻く。
    「すまないが、自分でもよく分かってないんだ。体が勝手に動いたというか、うーん、なんて言えばいいんだろうな」
    何だよそれ。期待しちゃうじゃん。一松は唇を噛んだ。それから二人は隣に座って話をしていた。ずっと顔を合わせていたのに、何も知らなかった。互いを知れば知るほど、夜が更けていく。本当はもっと側にいたいのに、それぞれの生き方に誘うようなことは言わなかった。



     だんだんと空が白んでくる。カラ松はゆっくりと立ち上がった。
    「もう行っちゃうの?」
    「ああ。いつもだろ。オレの旅は夜明けと共に始まる……流石に今日は少し眠いがな」
    カラ松は大きく伸びをした。
    「ねえ、次は何処に行くの?」
    一松は身を乗り出していた。カラ松は眉をハの字にして、人差し指を口元に持っていく。
    「それを言ってしまったらつまらないだろう?」
    一松は頬を膨らませる。カラ松は声を上げて笑った。
    「全く、何を心配しているんだ一松、すぐに会えるさ!この前会ったのだってたったの二週間前じゃないか!」
    それでも一松は顔を真っ赤にしてぷるぷるしている。カラ松は息を吐いて一松の側に戻った。ゆっくりとその白い背中を撫でる。互いに明日生きている保証もないのに。それなのに何故か一松とは一生ものの付き合いになるとカラ松は確信していた。
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    舞木ヨモギ

    DONE『息巻く成功への道 【GREAT CHAMPION ROAD】』展示小説となります。パスワードは『青薔薇の不死鳥』でした!
    夢を 松野カラ松には憧れの人がいた。その人はカラ松と同い年で、プロのボクサーだった。猫のように軽い身のこなしで舞うように相手を倒していく。一度も黒星をつけることがなく、彼は超新星と呼ばれた。そんな彼の影響でカラ松はボクシングを始めた。プロ一年目にして彼がタイトルを奪取した時は数々のメディアが彼を取り上げた。彼はその後も出場した大会のタイトルを掻っ攫っていった。一松と名乗る彼は、普段は気怠そうな目が印象的だった。リングに立つとたちまち殺気を纏い、まるで別人のようになることから彼のギャップに惹かれる者が後を絶たなかった。虎を相手にしているようだと、対戦相手のボクサーは言っていた。取材はほとんど断っていたらしく、そのミステリアスさも彼の人気に拍車をかけた。カラ松は一松のことをデビュー当時から知っており、さらに同い年のボクサーという共通項もあってか、彼が活躍する度に自分のことのように嬉しくなった。正直、カラ松自身のスケジュールより一松の試合日程ばかりを把握していた。リング上の猫と出会ってから、文字通りカラ松の人生は一変した。いつだって彼の中心はあの超新星だった。しかし終焉はあっけなかった。ボクシングの試合でも最高峰と言われるAKATSUKA選手権の日だった。このタイトルを獲得すると、一松は晴れて階級完全制覇となるはずだった。決勝前、一松は突然姿を消した。
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