気の置けない友人であり、良く知る大事な仲間でもある彼は、勇気を爆発させて逝ってしまった。
実力はあるのに命令違反やおふざけなんかが多い奴で、手がかかってしょうがなかったけど、お前のそういうところは好ましいと思っていたし、正直少し羨ましくもあったよ。
でもな、勇気だけじゃなくて、自分自身が爆発しちまうなんて、さすがに笑えないぜbro。
アラカイ大尉も、旧タイタンの面々も逝っちまって、俺一人になって。
敵は絶対にとる。だからお前の勇気、俺にも少し分けてくれよ。
スミス達の簡素な墓の前で、そう感傷に浸っていた時だった。
「アウリィ中尉?」
「……リオウ三尉?」
控えめに背中に声をかけたのは、同じくブレイブナイツの隊員だったヒビキ・リオウだった。
「どうしてここへ?スミスの墓参り?」
「それもあるけど……アウリィ中尉を探してて」
「俺を?」
彼女の目的に見当がつかず首を捻る。
スミスとアオ三尉が拳で語り合った後の打ち上げや、ブリーフィングの後なんかで彼女と話す機会はそれなりにあったけれど、わざわざ探しにきた理由はなんだろうか。
「その……大丈夫?」
「え?」
「貴方達の隊長も、スミス達も、いなくなっちゃったから。敵を取りたいって気持ちはわかるよ、でも、気負いすぎてないかな、とか。ごめん、勝手に心配になっちゃって!」
ぎゅうと自身の腕を掴む彼女の掌が微かに震えている。
もしかしたら、誰にも相談せず1人で戦地に赴いたアオ三尉のことを思い出したのかもしれない。
重責を自分一人で背負い込んでしまう人はいる。そしてそんな人は得てして視野が狭まり、思いもよらぬ結果を招いてしまうものだ。
あまり他人に心を開いていなさそうなアオ三尉が彼女とはフランクに話していたから、きっと仲が良いのだろう。
彼もスミスの死、大事な人の死を経験した者だから、俺と彼を重ねてしまったのかもしれない。
だとしても。
「心配してくれてありがとう。君も…、アオ三尉は、きっと大丈夫だ。ブレイバーンがついてるんだしな」
アオ三尉のことを口にすると、ばっと顔を上げた彼女の瞳が見開かれる。
黒目がちな瞳が僅かに潤んだように見えて、それから柔らかく細められた。
「…そうだよね、うん、きっとイサミは大丈夫。絶対、戻ってくる」
「ああ、それで戻ってきたら、心配かけさせるなって一発殴ってやったらいい」
「はは、そうする。……ありがとう、アウリィ中尉」
「ヒロでいいよ。あ、えっと、本所属は違えど一緒の隊にいたこともある訳だし、アウリィって日本人には発音しにくいだろうし」
はにかんだようにお礼を言う彼女の表情を見たら、無意識に口が動いていた。咄嗟にそれらしい理由を並べてみたけれど、何言ってんだ俺……。
「わかった、私のこともヒビキでいいよ、ヒロ」
「…じゃあ、そう呼ばせてもらう、ヒビキ」
改めて名前を呼ぶと、何だか胸の奥がむず痒くて、どちらともなく苦笑した。
「ヒビキ、その、ありがとう。おかげでいい意味で肩の力が抜けた」
「私こそありがとう。ヒロと話したら少し安心した。そういや、前も気にかけてくれたよね。ヒロって良い奴だね」
「良い奴なのはヒビキの方だろ。優しいってよく言われないか?」
「どうかな、世話焼きなだけだよ」
「それを優しいって言うんだ」
「ありがとう……なんか、照れるね!」
「はは、そうだね」
お互いを褒め合う形になったのに気付いて、顔に熱が上る。
ヒビキの方も顔は前髪に隠れて見えないが、耳が赤くなっていて可愛い。
……ん?俺今可愛いって思ったか?
「明日は、勇気出していこ!」
照れ隠しのようにかぶりを振って、ヒビキが拳を突き出してくる。
その面差しはすでに任務にあたる兵士としてのもので、俺も襟を正して拳を打ち合わせた。