「「乾杯!」」
コナビールを掲げて、ヒロは久々に会ったかつての仲間、ヒビキとのささやかな祝杯を上げた。
「いや〜やっと終わったね」
「ああ、やっとだな」
「これであいつらも、もっとちゃんと会話するようになればいいんだけど」
「イサミはともかく、スミスも変なところで不器用だからなあ」
「それなー」
揃って同じタイミングで「はーあ」と溜息をついた。お互いの気苦労が手に取るようにわかって、顔を見合せて苦笑する。
思い出されるのはひとつになったイサミとスミス、もといブレイバーンのことだ。
世界を巻き込んだ鬼ごっことかくれんぼの果てに想いをぶつけ合うことのできた二人だが、秘匿されるはずのブレイバーンの存在が公になってしまった影響は大きい。然るべき処分や諸々の対応は、現在上層部にて検討中である。
二人を見守ってきた立場からすると祝福してやりたい反面、あいつらのドタバタにこの後も巻き込まれるだろうことが容易に想像できてしまい、溜め息もつきたくなるというものだ。
今夜はつかの間の休息で、そして二人の兄姉のような者同士、手のかかる弟達のことでも語り合おうじゃないかと、そんな訳でヒビキを隊員もよく訪れる地元の店に誘ってみて今に至る。
「やっぱコナビールおいしいね」
「だろ?ここは酒だけじゃなく飯も美味いよ」
「わ、美味しそう!」
ちょうどよく前菜の盛合せが提供されたので、そこからは食と酒を楽しみつつ、積もる話に花を咲かせた。
「ーー小隊ではあるけどさー、隊長って楽じゃないよね」
「よくわかるよ。しかもこんな状況じゃあ尚更な」
「そうなんだよね…日本もまだ落ち着いた訳じゃないし」
「そういえば、ご家族は?」
「おかげさまで元気だよ。その節はどうも」
「元気ならなりよりだ」
最終決戦の後、ATF解散までの僅かな間にも余力のある隊員達は特に被害の大きかったハワイと日本に分かれて復興支援を行った。
ヒビキには両親と弟がいると聞いていたが、デスドライヴスとの戦いが集結した直後ではまだ連絡がついていないと言っていたので、念の為名前と特徴を教えてもらっていた。
そしてある地域での瓦礫撤去などを手伝って、避難所に寄った時、たまたま特徴に合致するひとを見つけたのだ。というか、ヒビキに面差しがよく似ていたからすぐにわかった。
家族と無事に再会できた後、眦を赤くして基地に戻ってきたヒビキは、上目遣いに「ありがとう」と微笑んだ。
なんでもないように「どういたしまして」と返したつもりだったが、その時の俺は彼女の可愛さに心臓を射抜かれてしまっていた。
「あーあ、うちの隊にもヒロがいたらいいのにな」
「ゲホッ、sorry」
思いもよらぬ言葉にむせてしまったが、特に気にするでもなく彼女は続けた。
「サタケ隊長と話す機会も減っちゃったし、イサミもしばらく戻って来れなそうだし。ヒロがいたら安心するし楽しいだろうなって」
「…それは、光栄だな」
『ヒロがいたら安心する』その言葉に頬が緩みそうになる。気苦労の耐えないだろう彼女にとって、安らげる存在になれているのは素直に嬉しい。
「ま、流石にそれは無理だろうけどさ。機会があったら、また飲もうよ」
「もちろん。あとな、ヒビキ」
「ん?」
「何かあったら、いや、何も無くても、遠慮せず気軽に連絡してほしい。俺でよければいくらでも話を聞くし、落ち着いたら今度は俺が日本に行くよ」
カウンターに置かれた彼女の手に自分の掌を重ねて、真摯に語りかける。
「……ありがとう。やっぱりヒロは優しいな」
そうふんわりと笑ったヒビキが、重ねていた俺の指を軽く握り込む。
あまりにも可愛い笑顔を正面から食らってしまい、心臓が大きく跳ねる。
アルコールのせいかほんのり頬を染める彼女に理性の箍が緩みそうになるが、紳士でいろと己に言い聞かせる。
けれど今夜は、もう一歩だけ距離を詰められますように。
そんなことを願いながら、泡のはじけるカクテルのグラスを合わせた。