雨の日のピタアロピーター・ヴィンセントは自室の大きな窓に打ち付ける雨粒を眺めながら深いため息をついた。
「今日は会えないな…」
誰も居ない広々とした部屋に自分の声だけが静かに響く。
この街に不満はないが、唯一欠点をあげるとするなら雨が多い事だ。あと観客のノリが悪い。
以前なら雨など気にも留めなかったが、今や酒を煽らないと気持ちが落ち着かずイライラしてしまう。
なぜ俺がここまで気持ちを乱さないといけないのか。
原因は恋人であるヴァンパイア、アロにある。
俺の生い立ちを知っている人が聞けば信じられない話だろうが、俺たちは本気で愛し合っていた。デートもするし人間の恋人同士がする事は大体やった。もちろん身体の関係だってある。
アロはヴァンパイア一族の長であり、名声もあり力も段違いに強い。最初の内は力加減が難しいと言いながらハグをするだけで俺の肋骨を数本折った事もある。あの時は流石にビビったが…時が経つにつれてアロも分かってきたのか最近は骨を犠牲にする事は無くなった。いや、概ね無くなった。
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