カルナバ組のぬるい捕虜回①
「目が覚めたか」
「…?」
「忘れたか、貴様は我が軍の捕虜に…」
「…そうなの」
「おい寝るな、待て、話の途中で寝るなァ!」
②
「くそ、何をやっても起きん。なんだこいつは」
「緊張感がなさすぎるのではないか?そんな事だから第三勢力に不意打ちなどされるのだ」
「…すぴ…すぴょ…」
(しかしこうして見るとまだ幼い。それに女のような顔立ちをしているな)
「…ええい、安らかに寝息など立ておって!起きろこのたわけ!」
〜5時間後〜
「おはようアシュレイ」
「…」
「すごい、突っついても反応がない。疲れてるのかな」
「おのれラムセ…」
「声が枯れてる…。もしかしてずっと一人で喋ってたの?」
「普通起きるだろう、話しかけられたら」
「ごめん、アシュレイの声聴いてると眠たくなっちゃって」
「やめろ、臥せるな。俺は捕虜への説明義務を果たさねば…寝るなァ!!」
③
「なんか美味しそうだね。朝ごはん?」
「流石に食べてる間は眠れんだろう。食いながら聞け」
「うん」
「此度は第三勢力による襲撃を受け、俺の所轄も貴様の属する軍もダメージを受けた」
「…」
「敵機と相打ちになった挙句、宇宙空間を漂っていた貴様の機体を回収し、尋問の代わりにこの部屋に置いておく事を決めたのも俺だ。今貴様の命は俺が握っていると思え」
「おかわり」
「5歳児か??」
④
「うわ、宇宙キノコだ……」
(話を全然聞いてないなこいつは)
「我が軍のプラントで育てられたものだ。上質な物を口に出来ること、感謝しろよ」
「うぅ…」
「なんだその顔は」
「……」
「目の前で端に寄せるか普通???もういい俺が食うから寄越せ」
⑤
「ねえ、さっきの話」
(聞いていたのか…)
「なんでボクの事、尋問しないの?」
「…」
「それにこんな部屋まで」
(…貴様が俺の好敵手である以上、無様な扱いなどさせるつもりはない)
「貴様は機体を駆るしか能がないからな。尋問しても何も出てこないだろう」
「本当?」
「ええい、しつこいぞ。食事が済んだならシャワーでも浴びてこい」
「…はーい」
⑦
「あれが俺の記憶の鍵か…」
(何度見ても関わってもただの少年だ。なぜあんなものが戦場にいるのだ)
(俺が奴の機体を捉えなければ今頃宇宙の藻屑になってただろう。我が軍にとっての脅威を排除する良い機会だったではないか)
「ごめん、タオルとかないかな」
「おい待てそのままそこに居ろ。床が水浸しになる」
(細くて白い、まだ未成熟な身体だ。なぜあれほど苛烈な戦い方をする)
「これを使え」
「うわ全力投球。ありがとうアシュレイ」
(早く同じ階級まで上がってこいよ)
⑧
「ねむい」
「またか」
「召集がかからないなんて久しぶりなんだよ。布団も柔らかくて」
「貴様の軍はどれだけの勢力と敵対しているんだ…」
「アシュレイのとこ、昨日相手にしていたところ、うーん、よく考えたら4つも5つもあるね」
「貴様の上司は交渉もできんのか?」
「…分からないよ。分からないけど地球を守るためには戦うしかできないんだ」
「凄絶だな」
「そろそろ休んでもいいかな…」
「…好きにしろ」
「すぴ…」
「早すぎるだろ。入眠が」
⑨
「大佐、大丈夫ですか」
「おのれラムセェ……」
「昨日まで大人しくしていたのに一体なぜ…」
「大方敵勢力に動きでもあったのだろう。だが部屋に穴を開け機体で格納庫をぶち抜いていくのは予想していなかったが」
(うわ、凄くお怒りだ…)
「ここ数日で奴らが敵対している勢力については聞き出せた。機体の構造についてもな。軍議を始めるぞ」
「部屋と格納庫の修理費はいかがしますか…」
「俺の預金から出す。おのれおのれおのれェ……」
⑩
(寝るだけ寝て、食べるだけ食べて逃げていったな。旅行気分だったのか?)
「あの小童め…」
(レコードも好き勝手に差し換えられている。面倒だ。だがこれが奴の好む曲なのか)
「…」
(俺の声を聞くと眠くなるとか言っていたな。俺を安全地帯として認知するな)
「墜ちるなよ…俺の記憶の為、貴様には生きててもらわねばならん」
「敵機、前方に3機…いや、5機かな?」
(装備も充分すぎる。殺したくはないけれど…)
「こちらラムセ。終わりました。敵機の回収をお願いします」
(スラスターと武装を壊しただけだからパイロットは大丈夫だろう。でも相手が増えたらこんな手加減もできなくなるんだ)
「…疲れた」
(アイツは強い。ボクの腕では手加減もできないだろうし、きっと殺してしまう。いや、墜ちるのはボクのほうかもしれない)
「強くならなければ」
『各部隊に伝令!後方から多数の敵機!急ぎ迎撃せよ!』
「…まだ来るんだね。良いだろう、相手になってやるよ」
(あのレコードの曲、良かったな。今度探してみよう)
_𝐹𝑖𝑛.