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    Daisy_mhyk

    @Daisy_mhyk のまほやく小説置き場

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    Daisy_mhyk

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    現パロブラネロ【大学生ブラッドリー×女子高生ネロ】
    二人が社交ダンスを通じて出逢い、想いを繋げていく少女マンガ風ラブコメディー
    二人が想いを自覚し、両片想い状態で初デートにテーマパークへ行くお話です。
    ⚠先天性女体化
    ⚠世界観の都合でネロの一人称が「あたし」です

    逸る想い(前編) 最近、やたらとネロが可愛くて困る。
     きっかけは……恐らく、この前の喧嘩だろう。あの日以来、ちょっとした仕草や反応に心臓が騒いで仕方がない。年下に、ましてやパートナーになんて興味は無かった筈なのだが、ネロの事を恋愛対象として見ている自分に心底驚いた。
     ダンスレッスンの休憩中、スポーツドリンクを一口飲み下し、ブラッドリーはどうしたもんかと溜息を吐く。
     ほら、また。
     少し離れた場所から、チラ、と寄越された視線は一瞬で逸らされてしまった。そのくせ、刹那の交わりは熱を帯びているようにも思う。
     自意識過剰なのだろうか。うーん、と唸っている間に休憩時間が終わり、レッスン再開となった。
     レッスン中は今まで通り、変わりなくホールドを組めている。ネロの成長速度は目覚ましく、もう大会へ出ても難なく上位に食い込めるだろう。
     けれど。
     大会に出て見せびらかしたい気持ちと、このままお披露目せずに自分だけの物にしておきたい気持ちがせめぎ合う。
    「どうしたの、ブラッドリー。考え事? 珍しいじゃない」
     踊り終えたタイミングで、レッスン指導を終えたフィガロが揶揄うように声を掛けてきた。雑念を言い当てられたのも腹立たしいが、この全部見透かしたような態度が気に入らない。
    「あ? うるせえよ」
    「まぁまぁ、そんな噛みつかないでよ。この前双子先生からリズニーランドのペア招待券を貰ったんだけど、いる?」
     胡散臭い笑顔を見せながら、はい、と差し出された二枚のチケット。ブラッドリーは正直興味は無かったが、ネロの瞳が喜色を帯びるのを見逃さなかった。何だかんだ言ってもまだ高校生だ。こういったテーマパークへ行きたい盛りだろう。
     ブラッドリーはチケットを受け取りながら、チラ、とフィガロのニコニコ顔を睨み上げた。
    「……何か裏があんだろ」
    「はは、裏なんてないよ。あ、でも、今度スクール内で大会の雰囲気味わってもらうために模擬会やるんだよね。そこで二人にも踊ってもらえたら嬉しいかな」
     じゃあよろしくね。と去っていく背を見送りながら、やっぱあんじゃねえかとため息を漏らす。その傍ら、ネロがそわそわと手元を覗いてきたので、ブラッドリーは毒気を抜かれてしまった。
    「ネロ、今度の休みにでも行くか?」
    「えっ、あたしと?」
    「当たり前だろうが。じゃ、八時に迎えに行くから、ちゃんと起きろよ」
     一方的に約束を取り付けると、お疲れさん、とネロの頭をポンポンと撫でその場を離れる。平静を装ったが、これでもかと言うくらい心臓が早鐘を打っていた。レッスン後に何度か食事はした事があるが、二人で遊びに出かけるのは初めてだ。
    「……くそ、調子狂うな」
     着替えを済ませ愛車へ乗り込むと、ブラッドリーは小さく零す。
     遊びに誘っただけの事が、こんなに緊張するなんて初めてだ。断られるのが怖くて逃げて来てしまったが、押しに弱いあいつは反故にしないだろう。
     借りだなんて思いたくもないが、誘う口実をくれたフィガロには感謝しなければならない。……大変不本意だが。
     ブラッドリーはらしくない胸の高鳴りに苦笑を漏らし、逸る心を抑えアクセルを踏み込んだ。

    ***

     どうしようどうしようどうしよう。
     鳴りやまない早鐘に、ネロは更衣室でへたり込んでしまった。
     ブラッドリーと、リズニーランド? 心臓が持たない!
     先ほど交わした約束を反芻するたび、顔から火が出そうに熱を帯びる。
     自分には似合わないため隠しているが、リズニーランドは大好きな場所だ。リスのキャラクター・スクワールくんが特に好きで、グッズを密かに集めている。その影響で、リスの小物も見かければ思わず手に取るほどだ。いつか好きな人とデートなんて出来たら……と憧れてはいたが、急展開過ぎる。週末までに心の準備が出来るはずがない。
     そもそも服がない。靴も、バッグも、どうしよう。髪型は? いや、気合いを入れ過ぎて引かれたらどうしよう。
     バタバタぐるぐる悩んでいると、スマートフォンがピコン、と新着メッセージを報せた。恐る恐る開いてみると、ブラッドリーの名前にドキッと心臓が跳ねる。
    『土曜日、朝8時な。寝坊すんなよ』
     用件だけの短いメッセージだが、改めて文字にされると夢ではないのだと実感が湧いてきた。
     でも、朝八時に待ち合わせなんて、もしかしてブラッドリーは行き慣れているのだろうか。リズニーランドへ行くのだから早い待ち合わせは嬉しいのだが、本人は然程楽しみにしてなさそうだったため、引っかかってしまう。
     まあ、デートの定番スポットだし……。女慣れしてそうだし……。
     と、ネガティブになりかけたので考えるのを辞めた。
     約束したのは自分だ。ブラッドリーと付き合っている訳でもないのに、二人で遊びに行けるのだから、楽しまないと。
     ネロは俯きかけた顔を上げると、ブラッドリーへ返信後にリサへ連絡を入れた。
    『明日、ちょっと買い物に付き合って欲しいんだけど』
     数秒後、物凄いテンションで返ってきたOKの連絡に思わず吹き出してしまう。
     確かに、自分の買い物のために誰かを誘ったのは初めてだ。
     ブラッドリーと出会ってから初めてだらけだな、と、ネロは小さく独り言ちると更衣室を後にした。

    ***

     午前六時。セットした目覚ましがけたたましくブラッドリーを眠りから覚ます。昨夜なかなか寝付けなかった割にはスムーズな目覚めだ。
     遠足前の小学生かよ、と自分が可笑しくなってくる。
     ネロと遊ぶ約束をして数日、らしくない程浮ついていた。普段夜型に近い生活をしているのだが、せっかく行くならと朝早くに取り付けた約束も難なく守れそうだ。
     いつも約束には遅れて行く方なのに、余裕で間に合いそうで笑ってしまう。
     それだけ楽しみにしていたのだ。ネロと出掛けられるのが。
     ポーン、と、スマートフォンが新着メッセージを報せる。
    『おはよう。ちゃんと、起きたから』
     可愛げのない短いメッセージに、思わず口角が上がる。ネロも朝が苦手だと言っていた筈だ。
    『おはよ。いい子に起きれたな。少し早く出れそうなら、朝飯一緒に食うか?』
     ネロが支度にどれ程時間を掛けるか分からないので、探るように誘う。少し考えたのか、数分後にイエスと返ってきた。
     朝のルーティンワークをこなし、それでも少し余裕を持って愛車の鍵を回す。聞き慣れたエンジン音も、心做しか弾んでいるように耳へ響いた。
     車で三十分程離れたネロの住むマンションへ着くと、エントランスの前にネロの姿があった。階段に座って居たが、こちらに気が付くと車道まで小走りに駆け寄ってくる。その姿に、ブラッドリーの心臓は大きく跳ねた。
     いつもはラフなTシャツにデニムパンツというボーイッシュな服装ばかり目にしていたが、今日は膝上丈のデニムスカートを履いている。ブルーのトップスは首周りが肩口まで開いたゆったりしたシルエットで、胸下でギャザーが入っており、よりスタイルの良さを魅せていた。
     これは、反則だろうが。
     ブラッドリーはネロが助手席へ乗り込むまでの数秒で、必死に平静を取り戻した。取り戻せたかは自信がない、が、顔が緩むのは抑えられた筈だ。
    「…はよ。迎え、ありがとな」
    「おう。そういうのも似合うじゃねえか」
    「…ッ! え、あ、これはそのっ、友だちが、せっかくリズニー行くならこれにしろって…!」
    「ハハッ、そうかよ」
     真っ赤になって言い訳を始めるネロの目元が、ほのかに煌めいている事には気付かない振りをしておこうか。艶やかな唇にも触れられないのが惜しい。
     もしかして、今日は我慢比べになるのかもしれない。
     そんな予感を抱きつつ、ブラッドリーはアクセルを軽く踏み込んだ。


     一時間程のドライブはあっという間に終わり、リズニーランドの駐車場へと車を停めた。途中、朝食の調達に寄ったブラッドリー気に入りのカフェはネロにも好評を得たので、また後日ゆっくり訪れる約束をした。
     開園前だが、既にゲート前には人だかりが出来ている。チケット購入の必要がないため、二人はそのまま入園待機列に並んだ。晴れているが快晴ではなく、適度に風も涼しい良い天気だ。直前までの荒天予報の影響か、事前情報より人も少ないように見える。普段よりはスムーズにアトラクションを回れそうだ。
     まだ開園まで時間があるため、ブラッドリーはネロの肩を軽く叩くと園内地図を広げた。
    「なあ、何か乗りてえやつとかあんのか?」
    「えっ、えっと…これと、これとか…?」
     おずおずとネロが指差したのは、定番のジェットコースターと絶叫系アトラクション。意外な所を選んだなと思いチラ、と顔を盗み見たブラッドリーは、その表情から当たりを付けて頭の中でルートを組んだ。
    「じゃあこれのファストパス取って、こっちから回るか。昼飯はここな」
    「え⁉ ここで食うの⁉」
     トン、と指差した場所に、ネロが素っ頓狂な声を上げる。その反応に、やっぱりな、とブラッドリーは組んだルートで回ることを決めた。
     指定した場所は予約制のレストランで、パークのキャラクターがランダムで遊びに来るためファンの間では人気の店だ。元々荒天予報だったためか直前でも予約が取れたのだが、本来なら一週間以上前から予約が埋まっている。この店を知っている、という事は、だ。予想通り、ネロはリズニーランドがそれなりに好きらしい。何故か隠そうとしているが、小物などにキャラクターグッズを持っているのを見かけて好きなのだろうと察していたので、予約を取って大正解だったようだ。
    「たまたま予約が空いててよ。ほら、天気荒れる予報だったろ」
    「あ、なるほど……」
    「良かったな、晴れて」
    「……おう」
     前方が動く気配がし、ざわめきが波紋のように広がった。少し早いが、開門したらしい。
    「せっかく朝イチから来たんだ。しっかり満喫しようぜ」
     そう笑いかけると、やっとネロが笑ってくれた。
     メイクの効果か、はにかむような笑顔がいつもより可愛らしく見えて簡単に心臓が跳ねる。
     ブラッドリーは手を繋ぎたい衝動をグッと抑えると、気を紛らわすよう再び園内地図へと目を落とした。


    「なあ、アレ買わねえの?」
     ブラッドリーの指差した先を見て、ネロは思わずぎょっとした。そこにはパーク内に点在するグッズ販売のワゴンがあり、所狭しとキャラクターを模したカチューシャや帽子などがぶら下がっている。
     もちろん、ネロは家に何点か持っているし、今年は周年記念の物を購入したいと思っていた。が、一人だけで身に付けるのは寂しい物があるため、スルーしようと思っていたのだ。(帰りにこっそり買うつもりだった)
    「ああいうの付けた方が楽しめんだろ。どれが好みだ?」
    「え、や、あたしだけ付けんのはちょっと…」
    「は? 二人で同じモン付けるんじゃねえのか? 俺はキャップにするけど、てめえはカチューシャがいいならそれでも…」
    「あたしも同じキャップにする!」
     思わず食い気味に答えてしまうと、ブラッドリーはふは、と笑い、ネロの頭をくしゃくしゃ撫でる。
    「分かった分かった、同じのな。で、柄はどれだよ?」
    「えっと…周年のやつ…」
     モゴモゴと告げ、ネロが財布を出そうとすると、いつも頑張ってるご褒美だとブラッドリーがサッと支払いを済ませてしまった。
     ほらよ、と頭へ乗せられたキャップをそのまま目深に被る。まさか、ブラッドリーとお揃いのグッズを身に付けられるとは思っていなかった。
     俯き気味のネロの首へ、ふわりと紐が掛けられる。手元へ落ちてきた紐の先には、周年記念デザインのパスケースがぶら下がってきた。
    「オマケな。ついでに俺のも持っといてくれよ」
     そう言ってパスケースへ自分のチケットを差し込むと、じゃあ行くぞ、とブラッドリーは歩き出した。
     どうしよう。今日一日、心臓がいくつあっても足りない気がする。
     ネロは鎮まらない高鳴りを押さえながら、数歩離れてしまったブラッドリーを追って足早に歩き出した。


     あっという間に時間は過ぎ、昼食の時間が近くなった。普段より混雑していないため午前中だけで何個もアトラクションを楽しむことができ、ネロは跳ねる心を抑えるので必死だ。
     予約したレストランへ入ると、ネロは小さく感嘆を漏らした。気になってはいたものの、中々予約が取れず、ずっと来られなかった憧れの店だ。
     ほわほわと浮足立ちながらスタッフのエスコートに続くと、二人は窓際のテーブル席に案内された。その眺めにハッとし、慌ててパンフレットのスケジュールを確認すると、丁度もうすぐパレードのフロートが目の前を通過する。
     ガイドブックに良く載っている、食事をしながらパレードが見られる席だ!
     ブラッドリーは知っていたのだろうか? チラ、と窺うが、表情からは読み取ることが出来ない。
     料理はコースを予約してあるようで、飲み物だけをオーダーした。
     提供待ちの時間、ネロが内装の拘り部分を見つけては心の内で感動、を繰り返している間もぺらぺらとメニューを眺めるだけのブラッドリーへ、恐る恐る抱いたモヤモヤを投げかけてみる。
    「……なあ、ブラッドはこういうとこ、よく来んの?」
    「あ? そりゃまあ、来たことくらいはあるけどよ、よくは来ねえな。前に来たのも五、六年前くらいじゃねえか? 覚えてねえな」
    「えっ」
    「えって何だよ」
    「いや、その……アトラクションとか色々、詳しいなって思ったから…」
    「あ? ……そりゃ、来るんだから、調べるだろ。色々」
     そう言ってふい、と視線を窓へ向けられてしまい会話は途切れたが、その頬へ朱が差したのに気付いたネロは自分の頬も熱くなるのを感じた。
     それは、自分とここへ来るのを、ブラッドリーも楽しみにしていてくれたと思っていいのだろうか。
     緩みそうになる口元を必死に堪える。
    「お待たせいたしました」
     ウェイターの声にハッと顔を上げると、サッとコースターへ飲み物が置かれた。ブラッドリーは炭酸水、ネロは期間限定ドリンクだ。高めの細長いグラスは秋らしい赤と紫の二層に彩られ、飲み口にデコレーションされたホイップにはキャラクターを模した飾り付けが施されている。キャラクターはランダム、と書かれていたが、一番好きなスクワールくんだ。
    「写真、撮らねえのか?」
     そわそわ眺めるだけのネロを、ブラッドリーがやんわりと促す。
    「そ、そうだな。せっかくだし……撮ろうかな」
     平静を装いつつ、言い訳を前置きしてからスマートフォンを取り出した。
     カシャ、カシャ、と角度を変えて二回。二枚目には、こっそりブラッドリーが映り込むように撮ってしまった。
    「おい、顔が赤ぇけど、どうした? 具合でも悪くなったか?」
    「へ⁉ いや! 何ともない! 大丈夫!」
     心配そうに覗き込まれ、ネロはブンブン首を振る。
     訝し気な視線を躱しながら、料理楽しみだな~とメニューを捲ってみたが、我ながらわざとらしいなと余計に恥ずかしくなり顔を伏せた。

     コースは前菜、スープ、メイン、デザートといった軽いものだったが、どれも美味しく、盛り付けもキャラクター要素が含まれていたりと拘りが詰まっていて、料理好きなネロは一品一品に歓声を上げ夢中で味付けや素材についてを語ってしまった。そのどれもに、ブラッドリーは優しく相槌を打ってくれる。ブラッドリーがあまりに聞き上手で、気付けば子どもの頃の思い出や、実はリズニーランドが好きな事まで話してしまっていた。
    「ネロは料理が好きなんだな」
    「お、おう……一応…」
    「今度食わせてくれよ、ネロの料理」
    「えっ、……そんな、大したもん作れねえけど……それでもいいなら、まあ……」
    「うしッ、決まりな。楽しみにしてるぜ」
     ニッと八重歯を見せられ、その笑顔に途端にデザートの味が分からなくなる。
     と、その時、店内のBGMが明るい曲調へ変わった。ワッと歓声の上がった方を見ると、店内でスクワールくんが手を振っている。もう片方の手にはデザートプレートを持っていた。
     花火が添えられたケーキは、これもよくSNSで見かけるバースデープレートだ。誰かの誕生日を祝いに訪れたらしい。
     憧れの店で好きなキャラクターと間近で会うことができ感動しているのも束の間、スクワールくんがゆっくりこちらへ近付いてくる。
     近くの席に誕生日の人が居るのだろうかと首を振り隣席を見るが、それらしき反応の客は居ない。
     そんな、まさか。
    「ちょっと前に誕生日だったろ?」
     ブラッドリーが、ニヤニヤと、悪戯が成功した子どもみたいな笑顔を浮かべている。
     その笑顔が涙で歪んだ直後、スクワールくんが二人の席へ到着した。
     握手をし、ハグしてもらい、三人で写真を撮ったが、泣き過ぎて最高に不細工な一枚になった自信がある。
     まさかこんな、こんな風にブラッドリーから誕生日を祝ってもらえるなんて、思っていなかった。
     涙ですっかりメイクが落ちてしまった目元を拭いながら、ネロはブラッドリーへの想いがどんどん募っていくのをケーキと共に噛み締めた。
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    Daisy_mhyk

    DONEあったかい事と、いい匂いがする事しか分からない。


    現パロブラネロ【大学生ブラッドリー×女子高生ネロ】
    二人が社交ダンスを通じて出逢い、想いを繋げていく少女マンガ風ラブコメディー
    バレンタインのお話です。

    ⚠先天性女体化
    ⚠世界観の都合でネロの一人称が「あたし」です
    心に触れて ——ついにこの日が来てしまった。
     製菓会社の策略に乗せられているのは十二分に分かっている。自分はキリスト教徒ではないし、そもそも聖バレンタインという人物が何をしたのかすら分からない。
     分からないが、毎年のように町中がピンクとチョコレート色に染まり、雑誌もチョコレート特集に埋め尽くされ、この日に向けて色めき立つクラスメートたちに囲まれ年を重ねれば自然と意識が向いてしまうものだ。
    「……そう、だからこれはなんつうか、空気に流されたというか……」
    「ブツブツとドアに向かって何言ってんだてめえ」
     背後から聞こえた訝し気な声に、ネロの心臓は盛大に跳び上がった。
     レッスン場があるビルの入口前、立ち尽くしていたネロが反射的に振り向くと、そこには大きな紙袋を片手に下げたブラッドリーが首を傾げて立っていた。見慣れぬ紙袋に自然と視線が向いた先、その中には可愛らしくラッピングされた有名店のチョコレートたちが所狭しと収まっている。
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