空の生き写し 向かいの壁に飾られた大きな美しい絵。
真っ赤な薔薇の結われたプラチナブロンドの髪、翡翠の瞳を縁取る、瞬きの度に星が目尻に迸るほど長く描かれた金の睫毛。小窓から薄く日の差す静かな部屋で、つい眼を細めてしまうほどに美しい女性が、クリノリン・スタイルの金糸の薔薇の刺繍がなされたドレスを、着て薔薇の花一本を華奢な指で遊んでいる。
奇跡とも思える美しさに、一目で、恋に落ちた。
「こんにちは」
緊張で、少し声が上擦った。彼女は目を丸くし、そして小さく笑い、軽く手を振って答えた。
「ねえ貴方。私の名前、教えてくださる?」
ステンレスの絵画名板には作者と西暦、そして作品名であろう《Cherie》という文字が一際目立つように記されている。
3472