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    #刀神
    knifeGod

    厄介な体質 篠宮蒼葉の幼少期は、彼の両親にとっては苦々しい記録の山である。
     初めはほんの僅かな違和感だった。ただの幼児特有のものだと思っていたものが、原因不明の微熱だと発覚したのは、蒼葉が小学生の頃。
     ただ同年代の子どもよりもマイペースでのんびりとした性格だと思っていた両親は、それはもう蒼葉に謝り倒した。今まで気づいてやれずすまなかった。辛かっただろうに気付なくてごめんね。医師だった父親に至っては今にも辞表を出してしまいそうな勢いで、それを止めたのは他でもない蒼葉だった。

    「おれ、たいちょうわるくなんてないけど」

     熱でぼんやりとした顔で、それでもしっかりと告げられた言葉に両親は崩れ落ちた。蒼葉は気遣っているのではなく、心の底からそう思っているのだと。
     自身の不調に気づけていないのだ。だって、蒼葉は今まで一度だって風邪を引いたことがない。熱が引いたことも、一度とてない。

     健康を知らない子供。それに気づけなかった自分たち親。いっそ怒って欲しいけれど、目の前の我が子は心底不思議そうに見上げるだけだ。

     さめざめと泣く両親に蒼葉は困惑する。回らぬ頭で頑張って思考を巡らし、恐らく自分は何かハンデを負っていること、それに対して両親が申し訳なくなっているのだろうと何とか気づいた。
     なら、ハンデ関係なく、周囲と遜色ない結果を残せば両親の気も晴れるだろうか。試しに次のテストで満点を取り、体育で活躍し、好成績を記録した通知表を両親に見せれば、また泣かれた。

    「ごめんね、ごめんね蒼葉。お母さん達が間違ってたわ」

     息子の努力を目の当たりにし、立ち止まっていた自分たちが恥ずかしいと涙を流す母の顔。

    「お前はよく呆けてしまうから、人一倍周りには気をつけなさい」

     本当は言いたくない気持ちを押し殺して息子に告げる父の顔。
     この二つを、熱の籠る蒼葉の頭は、戒めのように記憶していた。

    ◇◆◇◆◇

     天照の存在を強く意識したのがいつだったか、蒼葉はよく覚えていない。ただ自分は父のように医者になれるほど頭の出来は良くなく、母のような愛想もなく、兄のように企業の営業が出来るほど話は出来ず、弟のようにのめり込める趣味もなかった。その上でも出来そうなことを考えた結果の進路だ。
     家族は全員口に揃えて止められたが、それでもやると言えば強くは言わなかった。蒼葉が自分からそこまで言うのは初めてだったからだろう。
     後から思えば、集中力を育てる為に弓道を習ったり、瞬発力を鍛える為に剣道を部活に選んだりと、割と最初の頃から考えていたのかもしれない。

     高校卒業後、直ぐに天照の訓練生となり豊和を手にしたと同時に、新品の刀身にヒビが入った。
     不良品だったと取り替えられたものも、数分後にはピシリと音を立てる。様子を見に来た峰柄衆の男が告げた一言は、蒼葉の人生を大きく変えるキッカケとなる。

    「生気を一気に込め過ぎたのが原因だ。今年は随分と豊作そうで何よりだが、試しに持たせるだけとは言え複数人に試させるな」

     男の言葉に耳を疑った。なにせ二本ダメにしたのは蒼葉一人だけ。それが複数人の仕業だと思われた挙句、蒼葉は全く疲労していなかったのだから。
     常人を遥かに凌ぐ生気保有量は勿論だが、何より蒼葉は人生で初めて体から熱が引いた感覚を得て、混乱していた。
     熱が引き、明瞭になった思考と軽い体はよく動く。呼吸すら楽に感じたことで、今までが如何に異常だったのか、あの時母が何故嘆いたのかを理解し、少しばかり申し訳なくなった。

     豊和を壊さない程度の加減は直ぐに覚えたが、同時に回復速度も常人の数倍であることも発覚した。加減した消費ペースでは熱が抜ける前に籠ってしまい、結局蒼葉は健康を得ることは出来ずじまいとなる。

    『原因がわかったならよかったけど、本当に何とかならないのか?』
    「少ない生気を補う方法は研究されてるけど、多過ぎることで不調を起こすのは稀らしいからな」

     電話越しに兄にそう伝えれば、明らかな落胆の声が聞こえる。

    『はぁ…まぁ、どうしようもないことだもんな。辛くないか?』
    「結局変わってないからな」

     心底心配そうな兄と打って変わり、蒼葉は至極冷静だった。
     自分が普通じゃないことは昔からわかっていた。容姿も体質も、周りと同じには決してなれないのだと思い知っている。

     だが、それがなんだと言うのか。

     蒼葉にとっては目の前のことが全てだ。過去も未来も関係がないし、興味もない。叶わないもしもの話に価値はなく、過度な期待が無為にされた時の落胆を考えれば、希望的観測も不要なもの。語られない相手の内心を察せられるような器用さない蒼葉にとっては、今、起こっていることを認識するだけで精一杯なのだから。
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