愛、離してたまるものか【佐久春】「わたし、佐久間さんが…好きです。」
オレの手首を掴んでいる小さい彼女の手は、柔らかくて、じっとりとした熱を孕んでいた。
潤んだ瞳はオレの目を真っ直ぐに捉えていて、彼女の丸い頬は真っ赤に染まって林檎のようだ。
「大好き、なんです。」
小さな唇から、再度愛の言葉が紡がれる。
震えながらも、しっかりとオレに好意を伝えるために絞り出されたような声がいじらしくて、愛おしくて、オレの鼓動も彼女に聴こえてしまうんじゃないかってくらいうるさく鳴り続けていた。
彼女に触れられている手首も、見つめられている目も、顔も熱くて熱くて今にも思考が止まってしまいそうだ。
オレはゆっくりと彼女の手を捕まえて、指を絡めて見せると彼女の手は驚いたようにぴくり、と微かに動いた。
ずっと熱いままの手と手が溶け合ってしまいそうだ、それも良いかもしれないだなんて思っている頭こそすっかり溶けきっているのかもしれない。
「…オレも、」
春奈ちゃんのことが好きだ。
彼女と同じように、彼女の純な瞳を見つめながら伝えると彼女は目を見開いた後に、緊張の糸が解けたようにへにゃりと柔らかく笑うのだからそれがまた、可愛くて、繋いだ手をオレの元に引いて彼女を抱き寄せていた。
「うわっ!」だなんてお世辞にもこの状況で色気があるとは言えない小さな悲鳴を上げる彼女が愛おしくて、オレは耐え切れず笑いながら彼女のふんわりとした柔らかい髪を撫でた。
手も髪も、抱きしめている体も全部が柔らかくて、小さくて、温かい。
そんな彼女をずっと腕の中に閉じ込めておきたくて、しばらく抱きしめたままでいたのだった。
「……あの、佐久間さん」
「……なんだ?」
「いつまで…こうしてるつもり、なんですかぁ…?わ、わたし、ずっと恥ずかしいんですけど…!」
「んー…もう少しだけ、このままでいさせてくれ。」
そう言って抱きしめる力を強めると「ひぃ〜〜〜…」とまた色気のない情けない声を上げる彼女の反応が一々ツボに入って仕方がない。
…解放してやるタイミングがわからないなんてダサいことは口が裂けても言えないけど、ずっとこのままでいたいのも事実なのだからもうしばらくこうさせて欲しいというわがままを、想いの通じ合った幸福を噛み締めることをどうか許して欲しい。