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    わたる。

    @yamasorakakeru

    過去ログとその他もろもろ

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    わたる。

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    アンガネ←ペリ←カイで、ガネに告白してフラれてヤケ酒飲んでるペリに告白するカイ、という前に描いた漫画のちゃんとしたバージョン。ラフメモをえーあいに添削してもらいながら書き上げました。

    トライアングラー?酒場の夜は騒がしく、冒険者たちの陽気な声が響いていた。
    テーブルを囲んで飲み明かす者、依頼の報酬で豪勢な食事を楽しむ者、それぞれが思い思いに過ごしている。
    そんな喧噪の中、ペリードはジョッキの中身を見つめていた。

    泡が消えかけた琥珀色の液体が揺れる。
    すでに何杯も飲んでいたものの、酔いはほとんど回っていない。

    ただ、胸の奥がざわつく。

    「……ガネット」

    低く、絞り出すような声で名を呼んだ。

    向かいに座るガネットは、手元の水を一口飲み、静かに視線を向ける。
    相変わらず冷静な顔だ。

    だが、ペリードにはわかっていた。
    その黒曜石のような瞳の奥に潜む、細やかな感情の機微を。時折、ランタンの光が反射して、赤が輝く。

    「……どうした?」

    ペリードは、握りしめていた拳をゆっくりと緩めた。
    これを言ってしまえば、今までの関係が変わるかもしれない。
    それでも、このまま何も言わずにいるほうが、ずっと苦しい。

    ペリードは息を吸い、覚悟を決める。

    「俺は、お前のことが好きだ」

    ガネットの表情が僅かに揺らぐ。
    それでもすぐに整えられた。

    「……恋愛として、ってことか?」

    「ああ」

    短く頷く。

    「俺はずっとお前を見てきた。冷静で、強くて、だけどどこか……無理をしてるように見えて。支えたいって思ったんだ」

    「ペリード……」

    「最初はただの仲間だった。だけど、一緒にいるうちに、そうじゃない気持ちが膨らんでいったんだ」

    拳を握りしめる。
    ガネットの前では、いつも冷静な自分でいたつもりだった。
    だが、今だけは違う。

    「お前が、俺の隣にいてくれたらって……ずっと思ってた」

    ガネットは目を伏せたまま、グラスを指でなぞる。

    「嬉しいよ、ペリード」

    静かな声だった。

    「お前は、本当に頼れる仲間だし、大切な友人だ。お前が俺のことをそう思ってくれるのは、正直、誇らしいくらいだ。…でも」

    「……でも?」

    「でも……俺は、お前を恋人として見ることができない…すまない」

    心臓を握り潰されるような感覚だった。

    わかっていた。
    答えがどうなるかなんて、薄々気づいていた。
    それでも、期待してしまった。

    ガネットは、微かに苦笑する。

    「俺には、今付き合ってる相手がいる。お前もよく知ってる奴だ」

    アンバールという名前を出さなかったのは、ガネットなりの気遣いだったのだろう。
    だが、今はそれが逆に辛い。

    「それに……仮にそうじゃなかったとしても、お前の気持ちには応えられなかったと思う」

    ペリードは、苦しげに笑った。

    「そっか……」

    答えは明確だった。
    もう、どうしようもない。
    せめてもと声が震えないように、言葉を紡ぐ。

    「俺のこと、嫌いにはならないでくれよな」

    それを聞いたガネットは、ゆっくりと首を振る。

    「なるわけないだろ。お前は、俺の大事な仲間だ」

    ペリードの告白に答えた後、ガネットはそっとグラスを置いた。
    酒場の喧噪が遠く感じる。

    ペリードはまだ俯いたまま、ジョッキの取っ手を指でなぞっていた。
    彼の肩はわずかに震えているようにも見えたが、ガネットはそれを見なかった。

    見てしまえば、自分の中にある微かな罪悪感が膨らんでしまいそうだった。

    「……じゃあ…俺は先に帰るよ」

    短く言葉を残し、ガネットは席を立った。

    「…ああ」

    ペリードは顔を上げなかった。
    それを確認すると、ガネットは足早に酒場の出口へ向かう。

    喧噪の中をすり抜けながらも、誰の顔も見なかった。
    肩をぶつけられても、軽く謝ってすぐに歩き出す。

    扉を開けると、冷たい夜風が頬を撫でた。
    喧騒の熱気から解放され、わずかに呼吸が楽になる。

    ガネットは一度だけ振り返った。

    ペリードの席はまだそこにあった。
    遠目でも、彼が動かずにいるのがわかる。

    ……これでよかったのか?

    そんな疑問が脳裏をよぎる。

    だが、答えは出ないまま、ガネットは酒場を後にした。
    夜の静寂が、彼の足音を吸い込んでいった。

    =====

    ガネットが去ったあと、ペリードは顔を上げる。
    そして、ジョッキの中の酒を一気にあおった。
    喉を焼くような熱さが広がる。

    「……とことん飲むぞ、カイヤー」

    ペリードは、少し離れた席で様子を伺っていたカイヤーを振り返り、声をかける。
    カイヤーは「やれやれ」と言いたげに酒を手に取り、ペリードに付き合うことを決めた。

    傷ついた心を、酒で誤魔化す夜が始まる。

    =====

    酒場の隅、ランタンの光が灯る薄暗がりで、ペリードは荒く酒をあおっていた。
    もう何杯目だったか覚えていない。頬は赤く染まり、目元は少し潤んでいる。

    「はぁ……とことん付き合ってくれ、カイヤー……! 飲み明かすぞ……!」

    ペリードはテーブルに拳を打ち付けながら、また酒を口にする。
    その向かいで、カイヤーは落ち着いた様子でグラスを揺らし、静かに飲んでいた。

    (……これは"チャンス"、なんだろうな)

    カイヤーは、商人としての計算高さを自覚しながらも、心の中で冷静に状況を分析する。
    傷心の男。理性が鈍る酒。
    今を逃すような"まぬけ"でいられるほど、自分は清くはない。

    「ああ、なぁ、カイヤー……」

    ペリードが酒に酔った声で呟く。

    「俺は……ガネットのことが、本当に好きだったんだ……。頼れるやつで、優しいやつで……。なのに、俺じゃなくて、アンバールと……」

    「…………」

    「俺とアンバールはさぁ、ガネットと出会ったのは同時だったよなあ?……何が、違ったんだろうなあ…」

    カイヤーは黙って聞いていた。

    「……ダメだった……。まあ、当然だよなぁ……、俺なんかが、ガネットに釣り合うはずがなかったんだよ…」

    ペリードがジョッキを掴み、再び飲もうとする。
    カイヤーはそれを軽く制しながら、ゆっくりと口を開いた。

    「……ペリード」

    「ん……?」

    「俺は……お前が好きだよ」

    ペリードの手が止まる。
    静寂が降りた。

    「…………へ?」

    酔いが一瞬で覚めたような表情のペリードが、カイヤーを見つめる。

    「……っ、な、何言って……」

    「そのままの意味だよ」

    カイヤーは、穏やかに微笑んでいた。

    「初めてお前に会った時から、ずっと思ってたよ。お前は、強くて、優しくて……ずるいくらいにいい男だ」

    「…………」

    ペリードの喉が詰まる。
    まさか、こんなタイミングで、こんな言葉を聞くことになるとは思わなかった。

    「お前は、俺が断れないって、分かってて言ってるのか……?」

    ペリードの声が震える。

    「分かってるよ」

    カイヤーは正直だった。

    「俺は商人だからな。打算的で、最低なことを考えてる。でも……お前を手に入れたいのは、計算だけじゃない。本気だよ」

    ペリードの心が揺れる。
    ガネットへの想いは終わったばかり。
    だが、カイヤーは――確かに、魅力的な男だった。

    「……俺は……」

    答えが出ない。

    カイヤーは、そんなペリードの手をそっと握る。

    「今すぐ返事をくれなくてもいい」

    「…………」

    「でも、俺は本気だから。お前のこと、大事にする」

    カイヤーの手は温かかった。

    ペリードは、カイヤーの言葉に戸惑いながら、視線を落とした。
    酒のせいだけではない。心の中がぐちゃぐちゃになって、まともに考えられなかった。

    「……俺の何がいいんだよ……。こんな、戦うしかできない、不器用な……振られたばっかの、情けない奴を…」

    自嘲するように呟くペリードに、カイヤーはゆっくりと首を振った。

    「最初に会った時、お前の輝く緑の瞳に惚れた」

    ペリードの目がわずかに揺れる。
    どういう表情をすればいいか分からずに、へへ、と引きつった笑みしか浮かべられない。

    「……おい、笑うなよ」

    カイヤーは少し照れたように、だが真剣な目で続けた。

    「穏やかな声にも、大きな手にも、逞しい身体にも、全部惚れた。勿論性格にもな。…一目惚れってやつさ」

    「……」

    「ある意味、憧れなのかもな」

    ペリードが驚いたようにカイヤーを見る。

    「俺に無いものを、たくさん持っていて……。お前は、強くて、正直で、まっすぐだ。そんなお前が――好きだよ」

    静かに告げられた言葉に、ペリードの胸が締め付けられる。

    ガネットに振られたばかりで、心はぐちゃぐちゃなのに。
    なのに、カイヤーの言葉は、まるで真っ直ぐ胸に届いてしまう。

    「……俺は……」

    何かを言おうとするが、言葉にならない。

    カイヤーは、そんなペリードの手をまた、優しく握った。

    「無理に今、答えを出さなくてもいい。俺は、お前が振り向くまで、待つからさ」

    カイヤーの手は少し汗ばんできている。
    この男も、緊張することがあるのか。
    ペリードは、その気持ちを感じながら、混乱した頭で、自分の気持ちを探していた。

    ペリードはジョッキを握りしめたまま、しばらく無言でいた。
    酒の熱が喉を焼く。けれど、それ以上に胸の奥が妙に熱くて、苦しくて、落ち着かなかった。

    「……俺なんかで、いいのかよ」

    搾り出すような声だった。

    カイヤーは、そんなペリードをじっと見つめて、少しだけ微笑んだ。

    「“なんか”じゃない。ペリードがいいんだ」

    静かに、けれど迷いのない言葉。

    ペリードは息を詰まらせた。

    目を逸らしたかった。けど、カイヤーの視線から逃げられなかった。
    まるで、見透かされているみたいに。
    その青い瞳は、まるで深海のようだ。引き込まれる。

    「……お前、ずるいな」

    やっと出た言葉は、それだけだった。

    カイヤーは肩をすくめ、軽く笑う。

    「商人だからな。取引の駆け引きは得意だよ」

    冗談めかして言うが、その声はどこか優しい。

    ペリードはもう一度、ジョッキを手に取ろうとしたが、指先がわずかに震えていた。
    カイヤーはそれを見て、そっと彼の手を押さえた。

    「飲むなよ。そろそろ泥酔するぞ」

    「……もう酔ってるよ。酒にも、…お前にも」

    ペリードは小さく息を吐いた。
    カイヤーは、ただ静かにその言葉を受け止めるように、握った手を放さなかった。

    =====

    結局、それからさらに数杯飲み、デロデロに泥酔したペリードは拠点まで帰ることができず、カイヤーと共に近所の宿を取ることになった。

    「重てぇな……筋肉の…塊が……」

    カイヤーは、肩にほぼ全体重を預けるペリードをなんとか支えながら、宿の部屋へと転がり込む。
    身長差もあるせいで、運ぶのに一苦労だった。

    ようやくベッドに押し倒すように寝かせると、ペリードは沈み込むようにぐったりと横たわり、微かに唸る。
    カイヤーは荒い息をつきながら、自分の肩を軽く回した。

    「……ほんとに筋肉の塊だな。飲むのはいいが、自分で歩けないほど飲むんじゃねえよ…はぁ」

    愚痴をこぼしながら、靴を脱がせ、適当に毛布をかける。
    放っておいても朝になれば勝手に回復するだろうが、酔いで寝冷えでもされたら面倒だ。

    カイヤーはため息をつき、隣の椅子に腰を下ろす。
    宿の部屋は簡素で狭いが、酒臭いペリードと二人きりで過ごすには妙に密度が濃く感じられた。

    「……俺に告白されたこと、こいつ、明日の朝には覚えてるのかね」

    ぼそっと呟く。
    酔っていたとはいえ、あんな返事をするなんて。
    それが嬉しくないと言えば嘘になるが、酒の勢いもあっただろう。

    ――果たして、この告白がペリードの中でどう扱われるのか。

    カイヤーはぼんやりと、乱れた髪の隙間から覗くペリードの寝顔を見つめる。
    起きているときは屈強な戦士だが、こうして眠っていると、どこか無防備で幼い。

    「……ったく。俺も随分と物好きだよな」

    小さく笑いながら、水差しからついだカップの水を一口飲む。
    長い夜になりそうだった。


    おしまい。
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