二人で仕返し チビがしょーもねーことしてる。ンなことして何が楽しいんだか。真剣そのもの、って目してやがる。まるで強ぇ敵を前にしたときのような……いや、それとも少し違う。真面目くさってる、しょーもねー顔。
無言でンな顔してるチビの前では、らーめん屋が寝言みてーな声を出している。
「ふふ……くすぐったい……」
つーか寝言だ。目ぇほとんど開いてねぇし、布団の上に胡座かいて座ったまま頭はゆっくり上下に揺れてるし、口の端からうっすらよだれまで垂らしてやがる。世界一のマヌケだ。こんな夜遅くにやっとウチアゲってやつから帰ってきた酔っぱらい。
まあ、よだれはチビがさっきから顔つねってるせいかもしれねーからしょーがねー。
くすぐってぇ、ってらーめん屋言ってんのに。
チビの指がらーめん屋のほっぺたつっついて、親指と人差指でつまんで、そんだけ。何の意味があるんだ? らーめん屋の顔がムニムニしてゆがんでる。チビは真面目くさってそんなことをしているが、されてるらーめん屋は座って寝ながらニヤニヤしている。ニヤニヤしてんのは、くすぐったいから?
「……何やってんだ」
チビとらーめん屋がやってることなんてどーでもいいけど、どーでもいいけどわけわかんねーから、思わず口が滑った。
らーめん屋の前に座り込んだチビが目線だけ動かしてこっち見る。真面目くさった顔……だと思っていたが、よく見ると何故か口をとがらせている。でも少し顔が赤い。つまりチビは、ニヤついてんのを口をとがらせて隠してるつもりらしいとすぐにわかった。
「いつもの仕返し……」
「アアン?」
ぽつり、とチビがつぶやいた。寝てるらーめん屋は何故か寝言で「いやいやそんなそんな」と意味のねーことを繰り返していた。
……考えてみりゃ確かに、チビのやってるそういうことは、らーめん屋がいつもやってることだ。オレ様とチビに。らーめん屋がやるのは、顔だけじゃなくて他にも色々。全部ウゼェしくすぐったいし、ムズムズするやつ……くすぐったいのとは別なところが、ソワソワしてムズムズするやつ。
なるほどな。その仕返しか。
「オマエもするのか」
「らーめん屋には日頃のウラミがあるからなァ」
チビの横に座り込んで、チビのマネしてオレ様もらーめん屋の顔をつねることにした。チビのマネっつーか、チビはらーめん屋のマネだから、オレ様もらーめん屋のマネだ。
ほっぺたをつねる。……でもらーめん屋がするのは別に痛くはねーから、オレ様も痛くはしない。親指と人差指でつかんで、伸ばす。今日のらーめん屋は酔っぱらいで、顔は赤いし熱い。滲んだ汗でちょっとぬるっとする。そんでやわらかい。
「モチみてぇ」
「だよな。円城寺さん、肌きれいだ。知ってたけど……」
「ふ……はは……お前さんたちときたら……ふふ」
両側から顔引っ張られてんのにらーめん屋はずっとニヤニヤへらへら笑ってやがる。やっぱよだれも出てるし。どーでもいいけど……。面白ぇからしばらくこうしとく。