我慢できない 顔を上げると、同じように座り込んでいたチビと目があった。チビも偶然、オレ様と同じタイミングで顔を上げていたらしい。フに落ちない。らーめん屋が見てたら、きっとあのフヌケた顔で「おまえさんたちはきがあうんだなぁ」とかなんとかウゼェことを言っただろう。
らーめん屋はここに居んのに、そのウゼェ声は聞こえてこない。かわりに寝息をスースー立てている。フヌケた顔は、してる。
「おい」
らーめん屋のかわりでもないが、チビが喋った。低くて小さくて聞き取りにくい声だ。チビだから。あと、らーめん屋が寝てるからだ。
「騒ぐなよ」
「騒いでねーっつーの!」
「おい!」
「うるせっ。……オレ様が世界で最強の静けさを見せてやるぜ。チビもオレ様を見習うんだな」
「ふっ」
チビが肩を震わせてうつむいた。そこそこデカい声出しやがって。だから静かにしろつってんのに、チビはなってねぇ。
らーめん屋は折り曲げたペラペラの座布団を枕にして畳の上で呑気に昼寝をしている。
だから、黙っててやってんだ。……さっきからずっと。帰ってきてからずっと、だ。くそ、ムラムラする……。
今日帰ったら、つったのはらーめん屋のくせに、帰ってきてやったららーめん屋が寝てる。オレ様とチビが家入ってきたのも気付かずに、マヌケな野郎だ。なまってんじゃねェか? それともヘバってんのか?
とにかく、ムカつくがしょーがねー。チビと一緒に黙ってやってる。チビはともかくオレ様は最強に静かだから、らーめん屋は今のところ起きてこない。らーめん屋が起きねーから……何もできねー。つうか寝てるらーめん屋は何もしねーし……。
らーめん屋は相変わらずニヤけてマヌケなツラで寝息を立てている。オレ様もチビも黙ってると、その寝息だけで十分うるせぇ。息にあわせてゆっくり胸が上下している。……生唾飲んでも音が響きそうで、ジリジリする。
それでも動かずに我慢してやってるオレ様の横で、チビがヘンなことをし始めた。
「おいチビ」
「しっ」
人差し指を口の前に立てて、小声を出した。らーめん屋がときどきやるやつ。黙れっつー意味なのは、わかる。動き出したのはチビの方のくせに。
それよりもチビは妙な動きをしやがる。らーめん屋の横にじりじり近づいて、畳の上にだらんと広げられた片手を握った。
「……熟睡してる」
「ホントかよ」
らーめん屋のデカい手、チビが指絡めるともっとバカでかく見える。
そんでチビは、かがんでその手に顔を近づけて、そこに……して。
「ちょっとぐらいなら、起きそうにねぇ」
なんて、言いやがった。それから口をつぐんで、(オマエはやんねーのか)だとか、挑発するように目だけで言っている。
ホントに起きねーんだろうな? 静かにしてりゃ、大丈夫か? 手じゃねェとこでも……。