おはようのキス? 円城寺さんが笑ってんのは、いい。たくさんキスされて目が覚めて、頭も身体もくすぐってえ気分。起きてすぐ、円城寺さんのそういう顔が見れて、そんだけで今朝は最高だった。
って思ったんだけど、なんかおかしくねーか。おはようって笑って言いながら、円城寺さんがエプロン付けたまま台所の方から来た。
「おはよ、タケル。今日はゆっくりだったな? 顔洗ってきたらすぐ飯出せるぞ。漣もな」
円城寺さんは俺の枕元まで来て、こっちの顔覗き込みながらおでこにポンって手を置いた。そんでそのあと、俺の隣で寝てるヤツの方まで手を伸ばした。
「おはよう……あれ? 漣、起きてないのか」
そうだコイツも居るんだった。朝、だいたい俺より寝坊してて静かだから、んなわけねぇって無意識に思ってて……つまり、てっきり俺は、円城寺さんのキスで起こされたって思って……。
それが円城寺さんじゃねえとしたら、つまり……。
「おーい漣、ついでにそろそろ起きろ」
「んが!」
円城寺さんがソイツの頭をポンポンと叩き続けたら、ソイツはデカい声で唸った。寝ぼけて意味もなくキレてるときの野生動物みたいなうるせー声だ。つまりソイツはまだ寝ている。
「おいオマエ……うわっ」
しかもソイツは寝ながら暴れた。急にこっちに向かって転がってきて……俺は避けようとしたけど反対側の隣にびっくりした顔の円城寺さんが居て、いや円城寺さんが悪いって言いたいわけじゃねえけど、とにかく円城寺さんは避けようとしなかったから俺だけがソイツの下敷きになった。
しかもソイツはただ寝ぼけて暴れてるだけじゃねぇ。朝で、飯まだで、台所からは円城寺さんの作る飯のいい匂いがしている。ソイツは飢えた野生動物だ。……てことは、やっぱり……。
「んっ、やめっ…オマエ、ひあぁ……っあ、ぁ、あっ」
「んん〜〜〜〜」
食われた。耳、齧られた。今は顔を舐められてる。まだ寝てるコイツの、やたら熱い舌が俺の頬をベロベロと舐め回している。寝てるから体温が高い。こっちにまで熱がうつる、くらい。
避けようとして寝返り打って、円城寺さんの身体に当たったところでコイツが上に伸し掛かってきて、そういう体勢で身動き取れねえ。
「んっふっふっふっふ……漣、お前さん……ふ、あっはっはっは!」
円城寺さんが見てる。見てるだけで何もしてくれねぇ。腹抱えて笑ってる。
「え、円城寺さん! コイツどうにかしてくれ! 痛っ」
顔も噛まれた。痛え、つったけどこんぐらい本気で痛いってわけじゃねぇ。こんなのチャンプの甘噛みと同じくらいだ。
でもコイツは猫じゃねーんだ。
寝てんのにすげぇ舐めるしぶちゅぶちゅキスしてくるって思って起きたら……コイツ……! 腹減ってるからって……!
「ふっ、はは、れーん、いい加減起きろ。……起きないなあ! なあ、逆にタケルからキスしたら起きるんじゃないか?」
「なんでそうなるんだ円城寺さん! つーか円城寺さん、もしかして最初から見てたのか……!? おいオマエいい加減に……!」
俺が叫んでも押し返してもコイツは起きねえし、円城寺さんはずっと笑ってる。顔、舐めたり齧られたりしてびちょびちょだ。
「あはは。タケルのほっぺた、柔らかくておいしいからな」
円城寺さんは俺の質問には答えずにひたすら笑ってる。
円城寺さんが笑ってんのは、いい。円城寺さんの笑顔が、好きだ。好きだけど、とにかく俺が目、覚ましたときには既にこっち見て笑ってたのは、やっぱ見てたってことだよな。いくら円城寺さんが白を切ろうとしても、そんぐらいわかるって!