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    masasi9991

    @masasi9991

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    合戦してる頃の土ガマ

    ##妖怪ウォッチ

    鍔迫心中論


     鮮血の色は人と変わらぬ赫であった。
     生白い、そして柔らかい肌を裂くと、夥しくそれは飛び散った。我が身に降り注ぐそれは、夜半の雨のように冷たい。
     思いの外、柔らかな手応えだった。手に残る感触に呆気に取られる。血の赫さに目がくらむ。降り注ぐ冷たさに息を呑む。わずかの油断に、足場を失った。
     蜘蛛の糸が切れた――油断に、我が妖気が弱まったためか、それとも、糸に切れ目が――いつの間にか入っていたのか――入れられていたのか――蜘蛛の身は縋る足場を失い、宙から落ちた。
     真下は水面であった。吾輩が先に水底へ落ちた。その上に追って鮮血が降り注いだ。清冷な湧き水に赫が交じる。波打って、交わる。透明な赫の影が我が身の上に落ちる。息ができぬ。息が詰まる。吐いたものが泡となって水面へ登る。鮮血と入れ違いに。
     どうした、まだ、吾輩は息をしているようだ。こんな妖怪となった今でも。そして息を詰め、苦痛を覚えている。
     しかし次には、あれが落ちてくるであろう。腹を裂かれ、鮮血を吹き出させた、あれだ……。道連れだ。或いは相討ちだ。思っていたよりも手応えがなかった。あの肌と肉は柔らかだった。
     ――未だ信じられぬ。この手で引き裂いておきながら、夢のように思える。彼程容易く、あの命が奪われてしまうとは。呆気もなく、吾輩の手に奪われてしまうとは。そんなものだったのだろうか。
     息を吐く。冷たい湧き水が胸に流れ込む。この苦しみさえも夢の中のようだ。
     やがて水面に落ちた、影が、水を揺らすささやかな音を立てた。諸共に沈むのだ。まったく、相討ちとなるとは、少しも思いもしなかった。あれほど赫い血を流すとは思わなかった。あの白波のような肌の内側に赫い血が流れているとは。
     いま、それは水面より落ちて、赫の滲む水底へ、先を急いで沈んだ吾輩を追うように、するりと落ちた。
     血の抜けた顔は一層白い。血の抜けた腕も一層白く、それをするりとこちらへ伸ばした。
     迎えるようにこちらも腕を伸ばす。心中だ。相討ちながら、心中でもある。手と手を握り――と、しようとしたが、あちらの腕はするりとこちらをすり抜けた。
     あっと叫びそうになった。ところがこちらは泡を吹くばかり、水面を乱すばかりであった。
     が、あちらは音も立てず波も起こさず、飛ぶように、水底を空のように飛ぶように、するりと泳いで瞬く間に吾輩の腕の中へと飛び込んでいた。
     腹から鮮血を流している。だが水の中では蛙は自在なのだ。血は赫くとも、人ではない。
     額がぶつかるほどの近くへ顔を寄せ、ニタリと笑った。透明な水であるから、それが吾輩にもよく見えた。泡も吹かずに生き生きと笑ってみせた。相変わらず生白い顔だが、唇はほのかな桃色であった。
     でこちらの手を取り、また泳ぎ出す。水面へ向かって、上へ上へ。
     夢のようだ。彼程に血を流しておきながら、まだ生きている。本当にこれは、ただの蛙だったのだろうか?


    (了)
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