視線 視線が、気になる。隣に座っているゼロのカメラ・アイ。こっちを見ているような気がする。でもそんな気がしてるってだけで実際のところ、真横というのはオレの死角であって、ゼロのその青いガラス質の奥にあるカメラのレンズが本当にこっちを向いているのかというのは、確証がない。顔がこちらを向いているのは確かだ。でも視線まではわからない。
事実としてはそうなんだけど、それでもやはり視線が気になる。非合理的だが感覚として。こんな感覚はレプリとしては少し変なのかもしれない。
そんなに見つめられると……というのは、自意識過剰だ。
「エックス」
「え?」
「そんなに不味いか、それ」
「これ? いや、不味くは……どうかな。味のこと考えてなかった」
「新開発のレーションのモニターを任されたんだろう。不味いとか美味いとか、あるんじゃないか」
「そこまで重大な仕事ってわけじゃないよ。研究室の前を通りがかったら余っていた分を貰っただけさ。君も試してみるかい?」
「いいや。俺はそういう人間式のはよくわからない」
話しかけられて振り向いて目が合う。会話をしていて見つめ合う。それは、うん、当たり前だ。
でもゼロは自分の言いたいことを言ってしまった後はまた黙り込んで、ジッとオレに視線を向けたままになった。
今度こそこの視線は間違いない。もっと前からそうだったかもしれない。とにかくゼロが不思議そうにオレを見てる。どうしてもそっちの方が気になって、もう一口齧ったチョコレートファッジを味わうどころじゃない。