浴衣の日「ぷ。うぷぷぷぷ」
変な声が出てしまったぞ。我慢のしすぎだ。しかしこうして我慢しなければ、きっと邪魔になってしまうものな。
「なあデグダス。この浴衣、サイズが合ってないんじゃないか?」
「ぷはっ。わはっ……いや、そんなことは、ないはずだぞ。去年もこれを着ていたもの」
「それは覚えているけど」
グランツの手がおれの襟の方からすーっと降りてきて、おれのお腹をこしょこしょとさすった。
「むっ、むフフ」
いや違うぞ違うぞ。グランツの手は紐をなんというか、こうしてアレしているのだ。浴衣の紐をだな。けっしてこしょこしょしているわけではない! ちょっとヒンヤリしたグランツの指の先がおれの脇腹にこしょこしょするけど、笑ってはいけないのだ。着付けをしてもらっているのだから、邪魔してはいけない!
「もしかして去年とサイズが変わってたりしないか」
「ふ、太ったかな!?」
今吹き出したのをうまくカモノハシできたぞ! しかしそれよりもショッキングだ!
「太っちゃいないさ。それはよく知ってるよ。あはは、たくましくなったんじゃないかと思ってさ! このあたりとか」
「うわ、わ、わはははは!」
スリスリっとグランツの手のひらがおれの腹筋のあたりを撫で回し、ついに我慢できずに大いに笑ってしまった。まずいぞ、おれはどうも笑うとき全身を揺らしてしまうのだ。せっかく着せてもらっていた浴衣が、ずれずれになる。
「それに肩もだな。こんなにデカくなって、キツイんじゃないか?」
「うわっはっはっは! そ、そうか? そんなに去年と変わっ……わはは!」
はおった浴衣の下にグランツが手を入れて肩と言いつつ脇をこしょこしょしてくる。そこは肩じゃないぞ、うっかりさんだな!
「あっはっは。今日はしょうがないにしても、近いうちに浴衣も新調した方がいいかもな」
「ウウン。……ふう。うん、でもまあ、今日はしかたがないな。着るぞこれを急いで早く」
「なんでそんなに急いでるんだ? さっきから妙に笑うのをこらえていたし」
「え! バレていたのか!? だからあえて笑わせようと?」
「我慢は身体によくないからな。特に笑うことは、我慢なんかいらない。そうだろ?」
ニコニコしながらグランツがうなずく。そして再びおれの浴衣の襟に手を伸ばして、きれいに整えてくれる。
……しかしそれもまたくすぐったいのである。いやいや、我慢しなれけば。そうしないとグランツが風邪をひいてしまう!
なにしろグランツもお着替えの途中で、ほとんど裸みたいな格好をしているのだ。浴衣を着るのに苦戦していたおれを見かねて、着付けてくれている。自分のことは後回しで。とっても優しい。
そんなわけでおれはおとなしく着替えさせられたいのだが……。