そういうもの 大きな背中を丸めて床の上に並べた色とりどりのかけらを覗き込んでいる。隣りに座ってその横顔を見つめると、いつもの真剣な表情とはちょっと違う、柔らかい笑顔だった。
「きれいだなぁ。グランツも、欲しいものはあるか? こういうのも好きだろう」
「ああ。見せてくれ」
そいつはこの間デグダスが海の近くへ採掘へ行ったときに、弟妹への土産として砂浜で拾ってきたものだ。鉱石じゃない。砂と波で削られた小さなガラス片。二人にどれを渡そうか、と仕分けをしているところだった。
「こういうものもな、金にはならんが、きれいでいい」
「金になる方がいいか?」
「そりゃあそういう仕事だからな」
キミはそうやって何かを誤魔化すように大きな口を開けてケラケラと笑ってみせたが、キミが一人で年の離れた弟妹を育て上げたこと、そのために採掘師の仕事に誇りを持って生活費を稼いでいたことは、何も恥じるようなことじゃないと、思う。
「これはおまえの目の色に似ている。きれいだ」
「おれなんかよりこのガラスの方がきれいだぜ」
「そんなことはない! どっちもきれいだ!」
青い色のガラス玉をおれの前にかざしながら、デグダスが熱弁する。語調を強くして言い切ったあと、ハッとして恥ずかしそうに鼻を掻いた。
「こんなふうに思うようになったのはおまえのおかげなんだ」
「うん? ガラスがきれいだって?」
「いやそうではなくて、おまえがきれいだからきれいだということを……そうではなく、おまえはそもそもきれいなだけでなく格好良くていい男だし、いやそういうことではなく、それもそうなんだけれども」
「フッ、フフ、や、やめてくれ。あんまり言われると、恥ずかしくて死にそうだ」
「死!? 死ぬのか?!」
「アハッ! 例え話だよ、もちろん。それで、おれの話じゃなくて。キミが」
「何の話だ……? ハッ!? そうだ、そうそう、おれの話だ! おれをおまえがきれいだと思うようになったのは……違う! おれが、こういうものをきれいだと思うようになったのは、おまえのおかげだ。ガラスだけじゃないぞ。石だ。鉱石なんかをな、おまえと一緒になってから、特にきれいだと思うようになったんだ」
「昔はそうじゃなかったのか?」
「うーん。そうではなかったとも言えるし、そうではあったとも言えない」
「あっはっは、それじゃどっちも同じだぜ」
「ンン? ともかく昔のおれは鉱石は高く売れるものが一番! と思っていたのだ。しかし今日はこうして一リッチにもならないガラス玉に夢中になっている。これはやはりおまえのおかげだ」
「そうか?」
と言われてもおれ自身にはよくわからない。キミはまた青いガラス玉をおれの顔にかざして見比べて、ウンウンと頷いている。
「やっぱり似ている。これはおれがもらっちゃおう」
「じゃ、おれはキミに似ているやつが欲しいな。太陽みたいな色の」
「それだ! おまえのそういうところが、素晴らしい。そしていつの間にかおれにもその考えがうつっていたのだ……」
「キミの言葉は、時々難しいな」
「……ムフ」
満足そうに、頷く。おれにとってはキミの方が世界で一番何よりも素晴らしいと思えるのに、そんなキミにおれが影響を与えたって? よくわからないな。