安堵 身体はピクリとも動かない。救難信号を送るための通信機能はもとより、オレのボディの中では原始的で丈夫な作りのはずの発声装置も働かない。瞼すら持ち上げられない。そんな機能が、あったのかどうかすらわからない。雲を掴むような感覚を覚える。まるで最初からオレというCPUにはボディなんてものは与えられていなかったかのような。
だけど思考だけはこうして働いている。ボディの方は、自動修復装置が生きていれば、そのうち動き出すだろう。今、今は死のような静寂だ。
オレたちレプリロイドに死なんてあるのかな。人は死の間際には聴覚だけが残るという話を聞いたことがある。ここは静かだ。死ですらないのかもしれない。それじゃあ、生きていたかどうかもわからない。
「エックス! エックス、目を覚ませ! エックス!」
声が聞こえた。一心不乱にがなり立てるような声だった。すっかり、オレのボディは機能を停止してしまったのだと思っていたけど……、その声はオレの頭部にあるマイクロフォンからCPUまで一直線に届いていた。
それを皮切りに瞼が開く。身体が動いた。
「エックス!」
「……ゼロ?」
アイ・カメラに多量の光が入り込み、映像は白くて何も見えない。光の調節機能が不完全だ。だけど声だけでそこにいるのが誰かわかる。身体が不安定に浮遊しているように思えるのは、抱きかかえられているからだろうか。
「俺がわかるか。……無茶をするなよ。予備のエネルギーはお前に使った分で最後だ。このまま補給地点まで戻る。このままおとなしく運ばれてくれ」
「ああ、わかった」
どこかが軋むボディに声が歪に響いている。それでも自動修復装置はきちんと働いていたようだ。作戦行動中に死にかけたオレを、ゼロが救助に駆けつけてくれたらしい。
「心配かけさせやがって。死んでいるのかと思ってヒヤッとしたぜ」
「……声、が、聞こえたんだ。君の声が……」
「気付け薬ぐらいにはなったか?」
「ああ」
そうだ、声が聞こえた。ボディが動き出す前だった。どうやらオレは、生きている。