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    masasi9991

    @masasi9991

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    masasi9991

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    採掘しているデググラ

    ##デググラ

    とくべつな足音 足音を立てずにそっと近づいて、キミの背後に陣取る。ピッケルをおおきく振りかぶって、カーンと高い音を立てて打ち付ける。カーン、カーン、と何度も。力任せにやっているように見えて、実のところとても繊細な動きだ。鉱脈の流れをしっかりと腕に受け止め、次はどこにどれだけ力を加えるべきかを瞬時に判断している。
     採掘師ってのは泥臭い仕事のように思われるが、実際は地中に眠る貴重な鉱石の塊を真っ二つにしちまわないよう、常に繊細な仕事が求められている。
     今日もピッケルを振り上げては下ろすキミの動きは実に見事だ。ピッケルを支える腕の筋肉は力強く緊張して膨れ上がり、身体を支える腰と足は巨岩のように地面に突き立って、どれだけ激しくピッケルを打ち込もうとピクリとも動かない。首筋に汗が浮かんで、背骨の横を流れ落ちてタンクトップの襟首に吸い込まれる。洞窟の壁に掲げたランタンがキミの肉体だけを照らしている。
     ピッケルの音は高く響いているけど、静かだ。キミの深い呼気も合間に交じる。おれに聞こえる音はほとんどそれだけ。見えるのもキミの背中だけ。おれが足音を殺してしまった理由、きっと誰にでもわかるだろう。こんな素晴らしい仕事が眼前で行われていたら、誰だってそうするに違いない。
     そりゃおれにもおれの仕事がある。だが、少しくらいは。
     キミがふうと息を吐き、振り下ろしたピッケルに込めた力を緩めた。休憩か。見てただけのおれが、勝手に名残惜しい。でもひとまずは、背後に忍び寄っていた分、ゆっくり声をかけないと。びっくりされてしまいかねないからな。
    「グランツ! おかえりなさい!」
    「うん!?」
     おれが声をかけるより前に、出し抜けにキミは大きな声でそんなことを言った。背中は向けたままだ。それから大きな笑顔で振り返る。
     驚かされたおれは、一瞬反応に鈍ってしまった。
    「……ふっ、あはは! おかえりなさい、だなんて! ここはまだ家じゃないぜ!」
    「ムムム? 言われてみれば、それもそうか! まるで我が家のような洞窟だからうっかりしてしまった」
    「はっはっは。でもその気持ち、おれにもわかるぜ。デグダス、お疲れさま」
    「お! そう、それだ。グランツ、おつかれさまだ。休憩にしよう!」
    「ああ、休憩の時間だ」
    「さっきおまえの足音が聞こえたときから、休憩のおやつが楽しみで楽しみで」
     ピッケルを地面に置き、泥まみれになった革手袋の手を口元に当ててムフフと世界で一番楽しそうな含み笑いをした。こうして泥まみれになるのも、ある意味では採掘師の醍醐味だ。
     しかしそれはいいとして。
    「そういえば一体いつから気がついていたんだ? 邪魔しないようにと思って静かにしてたつもりだったんだが」
    「いつ? というといつだろう? 月が何回沈んでは顔を出した頃なのか?」
    「多分まだ月は顔を出してもいない時間だぜ」
    「おれもそんな気がしている。つまり正確な時間というのはわかりませんが、おまえの足音が聞こえたときに、おれはおまえが近づいてきたことに気がついたのだ」
    「そうか、自分で思ってたよりうるさかったってことか」
    「うるさくなんかなかったぞ。おまえのその楽しそうな足音、きっとおまえもおやつが楽しみだったんだろう? それでおれも更にやる気が湧いたというわけだ!」
    「た、楽しそうな足音か。そんなに?」
    「うむ」
     と、キミが深々とうなずく。なんてことだ、完全に無意識だった。静かにしてたつもり、の真逆じゃないか? よくわからないが妙に恥ずかしい。そんなに足音に感情が出ていたとは。
    「さあ! おやつを目指して休憩場所へ戻ろう」
     キミが意気揚々と洞窟を引き返す。その背中を追いかけつつ、キミの足音に耳を傾ける。ブーツの金具と滑り止めの革底が、洞窟の地面をガツンガツンと踏み鳴らす。キミの大きな身体の分の賑やかな音。それに楽しそうな足音だ。
     じゃあおれの方の足音は? 自分の足音も改めて聞いてみるが、よくわからない。これは楽しそうな足音だろうか。さっきキミの仕事を見ていて楽しかったのは事実ではあるけど、キミと一緒ならいつだって楽しいわけだし。普段とそんなに違ったかな。
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