侵入 天井から落っこちてきた。なんだこいつは、と訝しんで覗き込む。がしかし、こいつは罠か、と遅れて気付いた。白い玉のような砂利の床に落ちた小指の先ほどの黒い粒には、足が一、二、三……八本生えている。おれは慌てて後ろに飛び退いた。
そいつはぴょんと飛び跳ねた。蜘蛛は跳ねない。糸をを掴んで、糸を伝って、飛び上がったのだ。だからぶらんぶらんと弧を描いて揺れる。糸の半円よりは飛び出せない。だのにおれは大袈裟に飛び上がっちまった。
やっちまったなァ、と居心地の悪さに舌打ち。随分大袈裟に驚くもんだって、あいつは今頃笑っているだろう。嫌味な含み笑いだ。おれからあっちは見えちゃいないが、見えてなくとも目に浮かぶ。きっといつもの座敷で茶菓子でも齧りながら一人で笑っているに違いない。
「見てろよ」
おれが差し出した人差し指の腹に、子蜘蛛がすっと飛び乗った。もちろん見ている、というわけだ。
「高みの見物を決め込んでられるのも今のうちだぜ。せいぜい……」
首を、と続けようとしてハタと思いとどまった。こいつはまるきり三下の台詞だ。下手な啖呵で舐められちゃ困る。なにしろあちらは古の大妖怪を名乗っているんだからな。
そもそもここはいったいどこだ? 屋根の上から足を滑らせ、転がり落ちた土蔵の天井を今になってようやく見上げる。夜のはずだが嫌に明るい。
あいつの屋敷に忍び込んだんだから、あいつの屋敷に決まっている。だけど昼間にこんな土蔵を見た覚えがない。