日頃の朝の まったく腑抜けた顔をしておる。こやつの顔など見飽きたものだと思うてはおるのだが、見るたびに新しく驚いてしまう。自然と閉じられて開く気配のない目元もそうだ。呼気にあわせてぴくりぴくりと動く小鼻もそうだ。だらしなく開かれた口元もそうだ。覗き込めば唇の奥でどろんとした舌がてらてらと光っているのまでも見えるし、それも呼気や鼓動にあわせて蠢いていることもわかる。そうして口を大きく開いている分、頬は丸く緩んでいる。
吾輩が知る限り、これは本来野山に生きる本性を持つはずなのだが。こうも無防備で眠りこけても良いものか。他人事ながら心配になる。いや、他人どころか敵同士であるはずだ。それが敵地にあってこのようにだらしなく、ぐったりと朝寝をして、いつまでも起きない。
と、この腑抜けた顔を見下ろし毎度驚き呆れるばかり。
だがそんなことばかりしていてはただ時を無駄にしているだけだ。もう陽も高くなろうとしているのだし、少し突いて驚かして、目を覚まさせてやろうではないか。虚を突けば飛び上がるほど驚くことも、ある。何しろこれほど気を抜いて眠っているのだから。
だがしかし、そうでもないこともある。それはこれが狸寝入りをしているとき、である。
なんのことはない、起きているのにただ怠惰で眠ったふりをしていることがあるのだ。信じられぬほど巫山戯て生きておる。それに吾輩が気づかず誤って、驚かそうなどと幼子のような遊びを仕掛けたとすると、決まってすぐに起き上がり嘲り笑うのだ。
もはやその手には乗るまい。しかし今朝はまだほんとうに眠っておるのやもしれぬ。じいっと見つめていても、どちらかわからぬ。こやつの顔は眠っていても緩んでおるし、起きていても緩んでおる。それこそ緩んだ頬でも突けばわかろうが、いやしかし。
むう、と独りで唸った声が、こやつの寝耳に入っておらぬか心配だ。