まどろみ 必要ないと君は言う。あるいはそれは君なりの気遣いのつもりなのかもしれない。そうなのだとしたら、君が目を閉じる瞬間がオレは少し怖い。
スリープモードから目覚めるとき、オレの脳髄は周囲の状況を素早く把握するために一瞬ビジー状態になる。通常なら光を絞る役目のアイカメラの瞳孔部分が開ききって、そこにある風景だけが詳細に目に映る。眩しい。目が覚める瞬間は、いつも眩しい。
スリープモードに入る以前に見た風景とは違う映像が目覚めた瞬間にだけ見える。身体は動かない。これはヒトの言う「まどろみ」に近いものだろうか、と解答を得ようもないことを時々考える。
そして、それからいつも……眠るとき、いつも、ではない。特定の状況下ではいつも、同じことをする。身体も動かせないまま、脳髄に流れ込むひどく鮮明で眩しい風景の中に、君の目を探す。静止した一瞬の風景のどこかで、その両眼が開いているのを。
「起きたか、エックス」
「ああ。もう大丈夫だ」
「よし、先を急ぐぞ」
オレが通常通り動けるようになった頃合いに、君は声をかける。
「君は大丈夫かい。修復のために少し休んでいっても……次の作戦行動まで、まだ余裕がある」
「このぐらいの損傷ならスリープモードに入るまでもない。頑丈さだけは間違いないからな」
「わかった、信じるよ。行こうか」
いつものやり取りだ。いつも、この状況下で目覚めるときはいつも、まどろみの中でオレは必ず、君の両目が開いていることを探す。