夏の準備 おれは日焼けなんかちっとも気にしないんだが、グランツがどうしてもと言うので。健康のことを考えると気を使った方がいい――なんて真剣に心配してくれているとなると、大変うれしくもあり逆らうわけにはいかない。
その上こうも楽しそうな笑顔を見せられるとなると。
「うっふふふ……ふふふん」
「くすぐったいか? でも隅々まで塗らないといけないからな」
ニコニコ顔のグランツが、おれを上目遣いで見上げている。白いトロトロの日焼け止めをおれの胸に塗りたくりながら、なんだが、そのために顔をそこまで近づける必要はないんじゃないか。しかしとても楽しそうで悪くはない。むしろとてもいい。
人肌に温まったぬるぬるとケラケラ笑うグランツの息が胸の上で合わさってとても……。思わずブルッと。
「ぬ、グ、グランツ、そこはちょっと」
「でもさ、うっかりここだけ日焼けしてしまったら困らないか? ぷっ、あははははっ」
「それはそうだけれども!」
ソコを行ったり来たりするグランツの指のくすぐったさもさることながら、ソコだけ日焼けするという事件を想像しておれも吹き出した。
「そんなに笑うとうまく塗れないぜ!」
と言いつつももちろんグランツも大笑いだ。笑いながらさらにおれの脇腹をくすぐったり、腹筋をなぞってみたり大忙しで、もちろんおれはくすぐったさがとどまるところを知らない。
「グランツ!」
思わずグランツの両手ごと、ぎゅっと押さえつけるように抱きしめた。そうでもしないととてもとても。
「デグダス? ……やりすぎてしまったかな」
腕の中でもぞもぞと顔を上げて、やはり上目遣いでおれを見る。いつもはキリリとした青い眉毛がしゅんとハの字に。
「いやいやそうではなく」
「こういうのは苦手か?」
「いや! おれは、……そのう。おまえのエッチなところも好きなので、な」
「ン。……わざとやってるの、バレてたか。キミはこういうのはあまり気付かないかと思った」
「そんなことはないぞ、おれは狼な男だ! ……だが今はちょっと笑いすぎて腹が、腹筋が」
こうしてグランツを抱きしめていると、疲れた腹筋も癒やされていくというものだ。
しゅんとしていたグランツの眉毛も、見つめていると元気になってきた。
「よし、落ち着いてきた! さあさあ、続きをどうぞ!」
「いいのか?」
「もちろんだ。どうぞ好きなだけ……おれが真っ白になるまで塗るといい!」
「あっはっはっはっはっは! 想像してしまったじゃないか! そこまでは塗らないさ。でも、ここも塗らないとな」
腕の力を緩めると、グランツの手のひらがぴたっとおれのほっぺたにくっついた。そこはさらに、くすぐったくなりそうだ!